縛り73,アリアドネの糸購入禁止
「また分岐か。これで三つめか?」
「だね。いっそ行き止まりに当たってくれたらマッピングも多少楽になるんだけどね」
マップが全く行き止まりを網羅していないことに目を瞑ればここまで探索は順調。最初の躓きっぷりが嘘みたいに何事もなく初見のモンスターと戦いながら対処法を確立して、小休止しては進んでの繰り返し。
心配していた曲がり角の遭遇戦も今のところ回避できてるし、そもそも不意打ち一発貰ったからってどうこうなるほど強力なモンスターも大規模な群れも今のところ見てないし。
「油断しててうっかり中ボス部屋突入とかすんじゃねえぞ?」
「しないって。そうじゃなくても強力な徘徊型モンスターがいるとか、仕掛けが作動していきなり前後に雑魚が大量湧きとか無いとは言えないんだから油断なんてする余裕は無いよ」
「ああ、お前がダンジョンっていうものに対してどのシリーズのイメージ持ってるのかだいたいわかった」
いろいろと混ざってる中の一つなんだけどね。宝箱を開けようとしたら石の中に飛ばされるとか敵の分布のランダム性が強すぎてうかつに挑むと最初のダンジョンでもホイホイ全滅するとか、そういう方面の警戒が必要な状況ではなさそうだしね。
足元のトラップに関しては漢探知しかないかなって諦めてるし。僕は女だけどね!
「しばらくは後方の警戒ちょっとしっかり目でよろしくね」
分岐路が三つ目だからこの指示も三回目。といっても徘徊してるモンスターの移動速度が速い訳じゃないから、僕らも移動してることも有ってバックアタックはここまで一回だけ。その一回も小休止してる時だったからクロが対処してあっさり終わったんだよね。
「お出ましだよー。ゴブリンっぽいのが三匹だね」
「よし、やるか」
正面から現れたのは石のヘルメットとツルハシで武装したゴブリンの亜種と思われるモンスター。これまでにも二回出てきてるけど、性質がスタンダードで強さも突出してないし、数匹の群れで出てくる以外特徴も無い、このダンジョンで今まで出てきたモンスターの中では一番相手にしやすいね。たぶん暗い所でもものが見えるくらいの能力は有りそうだけど。
スタンダードな相手だからこそ、こっちも奇をてらわずクロが正面に出て相手を抑えに行き、老師が遊撃でダメージを稼ぐっていういつもの作戦。作戦というか老師が飛び出すのを止める労力を考えると僕が後ろに残るか、クロが後ろに残るかのどっちかしかないし。
「ほあたーっ!」
『老師もうちょっと雄たけび抑えて!』
洞窟の中だから反響して耳が痛くなるんだって! チャット使ってとまでは言わないからせめて声量落として!
『ユーレイ君、後ろからも来たよ。ムカデだね』
『了解! クロ、そっち絶対通さないでね!』
『おう!』
ついに挟み撃ちデビューだね。正面はクロが守りきってくれると信じて、僕は後ろの対処。
後ろから来てるムカデのモンスターは防御がカッチカチに硬いタイプで、単なる偏見だけど外見からしていかにも毒とか持ってそうな感じ。
リンドウちゃんならスキルを使えば倒せるんだろうけど、限られたリソースはなるべく温存したいから、必然的に僕が一人で対処することに。
「ほいっ【マナバレット】」
このムカデ、さっき列挙した性質からすると僕が相手にするのはかなり相性が悪そうに見えるんだけど、その実苦戦する方が難しかったりする。
というのも、高い物理防御力とそこそこの素早さを兼ね備えているだけあって、魔法に対する防御性能がガッバガバなんだよね。なんと魔法攻撃としては最弱クラスと思われる僕の【マナバレット】でも四五発当てれば沈むっていう。
「よっ、はっ、ほっ」
当然大ダメージを与えればヘイトは僕に向くわけで、向かってくるのを適当にあしらいつつ【マナバレット】を撃ちこんで戦闘終了。
『こっちは終わったよ。そっちは?』
『こっちももう終わるな』
特に問題はなさそうなのでムカデの死体を持ってのんびりスミスさん達と合流。もしかしたらバックアタックのおかわりがあるかも知れないしね。
「お疲れ~。毎度のことながらスミスさんはこの薄暗い中でよく見つけられるよね」
「動いてるものが有れば分かるくらいには見えるからね。やっぱり視力に補正がかかってるみたいだ。これでも現実では眼鏡が手放せないんだよ」
「私はそこまで遠くは見えませんねー」
老師が三コンボ決めてゴブリンの一匹を倒し、クロが相手していた一匹に飛び掛かっていってそっちも仕留めたね。もう一匹は…… クロの左手に首根っこ掴まれてジタバタしてるね。抑え込みつつ盾代わりにでも使ってたのかな? 確かにそれなら二体相手でも後ろに取りこぼす心配があんまりないもんね。
ああいうのなんて言うんだっけ。ネックハンギングツリー? あ、そのまま壁に叩き付け始めた。横着だね。
「よし、進むか」
クロのやる気が留まるところを知らない。慎重ぶってる割になんだかんだ老師のことをとやかく言えないくらい脳筋な本性が顔を出してきてるね。ここは僕がしっかりとブレーキ役を務めないと。
「それも良いけどそろそろ一回引き返そうかなって。行き止まりとか安全そうな場所が有ればそこで野営でも良かったんだけどここまで見かけてないし、そうじゃなくても今日はいろいろあって疲れてるしね」
「あー、確かに、引き返す分の時間も考えるとそれが妥当か」
「でしょ? それで明日は今日とは違う道を進んでみようよ。もしかしたらそっちに鉱床みたいなのが有るかもだし」
「俺は腹が減った!」
「だから洞窟内で大声出さないでってば」
脈絡なく空腹をアピールするロ王氏は流石のマイペース。まあ引き返すことに反対の人がいないようで何よりだね。
今言った理由の他に、僕と老師はスキルを多用しつつ戦ってるから適宜休憩して回復してるとはいえスタミナやMPがどうしても目減りしてきてるっていうのも有るんだよね。最初のうちは回復が追い付いてたから、連戦すると回復効率が落ちるとか、満腹度と相関が有るとかそのあたりなんじゃないかな。この辺は攻略を頑張ってる人たちがきっとそのうち纏めるんだと思うけど。
「何か食いもんくれー」
「う~ん、あんまり予定外に食料消費したくないんだよね。ムカデ肉食べてみる?」
「ウマいのか?」
「エビやカニの仲間だと思えば?」
「エビアレルギー……」
「うん、とりあえずパンかじってていいよ。食料が不足したらクロにムカデ肉を食べてもらおう」
「おい、なんでだよ。せめてお前も食え! というか食用にするために剥ぎ取りやらされてたのかよっ」
ムカデ肉の扱い談義の間にパンが一つ老師の胃袋に消え、隊列の前後を入れ替えて出発進行~。
「さて、じゃあ温存する必要もなくなったし、帰りは出来る限り経験値稼ぎながら進もうか。【サーチ】」
「おい」
「やっぱり来た道は手薄だねー。でも入り口付近よりも奥の方がモンスターの密度は高いみたい。第一波は五匹かな? 入り口側からも一匹来てるからそっちはムカデだと思う」
「おい」
「やってしまったものは仕方ないね。奇襲されることが無いなら挟み撃ちでもどうにかなるだろうし、ユーレイ君の考え通り倒して進むしかないと思うよ」
「むしろコウモリ以外に関しては僕達が奇襲を仕掛ける側だね! いっそ【ライト】も消しちゃう?」
「同士討ちになる未来しか見えねえからやめろ!?」
楽しい会話に水を差すようにリンドウちゃんと【サーチ】がコウモリの第一波の接近を告げて来た。
「もう来ちゃいましたよー!?」
「老師、ゴー! 作戦は見敵即殺だよ! むしろこっちから会いに行って倒すよ! レッツビギン!」
「おうっ! 任せろ!」
マッピングもする必要が無いし、敵の位置もだいたいわかるし、ペース配分も簡単! 楽しい楽しいレベル上げの時間だよ!
え、前回更新十月とかマジで?
あけましておめでとうございます。今年も本作をよろしくお願いします。




