縛り6,雑談はアクティブエリア限定
オオカミを倒して気が抜けたのか、クロはその場にねっ転がってしまった。このエリアはアクティブモンスターも生息する危険地帯なのに、事後処理もしないでそんなことだとはっきり言って困るなあ。
「クロ、ポーションちょうだい」
「お、おう、渡しといたほうがいいよな。て、お前そんなにダメージ受けてたのかよ! てかその左手!」
「うるさいなあ、声が大きいよ。それよりクロの【採集能力】って使えるの?」
「おお、死体はこのゲームではオブジェクト扱いだからな。あんまり質には期待するなよ?」
黒からトレードでポーション二十本を受け取り、そのうち一本をアイテムバッグから取り出して飲み干すと、HPの回復速度が速くなり、目に見えてHPバーが満タンに近づいていく。ちなみにポーションを服用する前の僕のHPは五割弱で状態欄には『負傷(左腕)』と表示されていた。ずいぶんとリアリティにこだわった仕様である。
一本飲んだだけではHPが全回復しそうになかったこともあり、もう一本ポーションを取り出して左腕にぶっかけると状態異常の表示も無事に消失した。このあたりの回復アイテムの使い方はファンタジー系のVRゲームなら大抵は大差ないね。
「終わったぞ、これ以上はろくなものが取れそうにない。というか精神的にきつい」
「ん、お疲れ。まあこのリアリティーで血抜きもしてない動物をばらすのはしんどいよね。内臓類はどうせちゃんと回収できないだろうし」
『AWO』ではモンスターを倒した時のドロップアイテムは自動でアイテムバッグに収納されるが、モンスターの死体は一定時間オブジェクトとしてフィールドに残るのだ。なので【採集能力】のスキルを保持しているか、動物の解体方法に関する正しい知識と技術と道具があれば死体から素材アイテムを回収することが出来る。とはいえその事実があっても戦闘組にしてみれば貴重な初期スキル枠を割く気にはならない程度のモノしか基本的には手に入らないんだけど。
「さて、じゃあいろいろと説明してもらうぞ」
「うん? どれのこと? 言っておくけどここは危険地帯だよ?」
「うっ、まあ手短でもいいから頼む。魔法を詠唱なしで撃ったりしてただろ」
「『必要値の二倍のINTがあれば魔法の詠唱は破棄できる』、『斬撃判定が出るなら武器種に寄らず【斬撃】系のスキルは発動可能』、『モンスターの体内で放出系攻撃魔法を撃つと必ずクリティカルする』、ついでに『モンスターの行動を事前キャンセルするとすればするほど大きなヘイトが稼げる』ってところかな? どぅーゆーあんだーすたん?」
「は?」
「どぅーゆーあんだーすたん??」
「いや待て、最初の一つはどこかで聞いたことがあるような気がしないでもないが残りの三つはいったいどこ情報だよ!? 聞いたことねえぞ!」
うんうん、まあさっき見つけた仕様だから仕方がないよね、むしろしようがないよね。ついでに言うと前述の方法では本来詠唱しか破棄できなかったりするんだけど、それこそより純粋なプレイヤースキルの問題になってくるから言わないことにしよう。
「それよりクロ、さっきの戦闘の動きは何のつもりだい? なんで【武器マスタリ】系のスキルをとらなかったんだよ」
「すまん、VRゲームは初めてじゃないし、鈍器ならシステムアシストなしでも使えるかと思って後回しにしたんだ。普段はできてたし、できると思ったんだが」
「クロはこのゲームが何で最新鋭ってもてはやされてるかわかってないね」
僕はそう言ってクロの右腕を掴むと、軽く力を加えて、筋肉がそれに抵抗するように部分的に強張ったところをついてクロをその場で投げた。予期せぬ事態にクロは目を白黒させている。
「なんとなくは分かったよね? 本来VRゲームでは今みたいなことはできない。クロのほうがSTRもVITも装備重量も上なんだから」
「今のは、どういうことだ?」
「簡単に言うと、今までのVRゲームは体の『動き』だけを再現していただけだけど、『AWO』は体の『構造的な部分』も再現しているって感じかな? 言っちゃえば人間を動かすのと人型ロボットを動かすぐらいの差があるんだよ。というか普通六時間も過ごせば気づくよね?」
「…………(言葉が出ねえ)」
さて、本当なら『死霊の森』にはモンスターと戦いに行くわけではないらしい以上簡単な確認と、一瞬で終わる範囲のレベリングを済ませたら【隠密】系などのスキルフル使用で特攻するべきなんだけど……
「確か【汎用魔法初級】の習得魔法に探知系もあったはずだし習得までちょっと戦闘することにしようかな」
「すまん、俺はこの武器を扱えるように頑張ってみる。もしかしたら【ハンマーマスタリ】のスキルを習得できるかもしれねえしな」
「一日で新スキル取得出来たら『後半スキル枠がちゃんと埋まらない』なんていうβ参加者の声はないけどね。まあ相手の方がレベル高いとスキルは育ちやすいらしいしもしかしたらどうにかなるかもね」
「実戦形式前提かよ……」
「アドバイスを一つ、『強打・弱打・ぐるっと回ってホームラン』だよ!」
「それは何のネタだ!?」
そのあとは戦闘の基本となる個人能力を磨かせるためにクロと別行動でモンスターを狩ってただけだから取り立てて面白いことはあんまりなかったかな。せいぜい詠唱した魔法を発動させずに待機させる小技を使ってみたり、【マナバレット】の詠唱を改造してみたり、蝸牛のモンスターに年甲斐もなく悲鳴をあげたりためしに足刀で【スラッシュ】を放ってみたぐらいだね。
そんなこんなで、二時間も狩りをしていると日が暮れたので、一度クロと合流することにした。
スキルいろいろ『死にスキル編其の一』
【薙刀マスタリ】 特に内容的には問題ないけど武器種に含まれる武器自体が最初の街に売っていないためしばらくは何の役にも立たない残念なスキル。アクティブスキルである【薙刀の技】も同様。
【鎖分銅マスタリ】 同上。
【曲刀マスタリ】 同上。
【狼牙棒マスタリ】 同上。
【大鎌マスタリ】 同上。
これら以外にも大剣や太刀なんかは最初の所持金で購入しようとすると防具がろくに買えないという地雷仕様だったりする。