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僕が死ぬまで縛るのをやめない!  作者: + -
第三部 マイペース攻略準備編
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縛り66,強化成功率アップアイテム使用禁止

一話丸々クロ視点です。閑話って形にしようかとも迷いましたがとりあえず本編ということで。

「よっこら、おお?」

「へえ、これは面白いね」


 身を屈めるようにして入ったテントの中だったが、外見よりも内側がかなり広い。高さが有るところでは俺や老師が真っ直ぐ立つことも出来そうだ。流石に動き回れるほどではないが。


「二人とも何に驚いてるんだ?」

「いや、明らかに外側のサイズより中が広いだろ。まあゲームだからと言われれば……」

「マジか!?」


 それまでなんだが、と続けようとしたんだが、老師がテントの外に飛び出していく方が速かった。


「おおっ! おおっ! おおおおおお! マジだ! すげえ!」


 ひとしきり出たり入ったりテントの周囲を走り回ったりしつつ興奮を隠そうともせず叫びをあげる老師。楽しそうだな。


『今後の相談するよー。テントを壊さない範囲でならはしゃいでも良いけど老師もちゃんと聞いててね? スミスさんとリンドウちゃんは強い臭いが出るような作業は自重してくれると助かるかな』

「おう、分かった!」


 ユーレイからのパーティーチャットが脳内に響き、老師がそれに勢いよく返事した。だが老師、ここで返事してもユーレイには聞こえないからな。バリバリの現代っ子なんだからチャット機能くらい使ってくれ。


『老師は分かったと言っているよ。それで、今後の相談とは具体的には何を決めるんだい?』

『目先の問題は今日の晩御飯だね。何か作ってみようかとも思ったんだけど、テントの中で調理するのも無理があるだろうから各自でパンとかのかってあるもの食べるということでみんな構わない?』

『分かった。食べた後で食料のストックも確認しといたほうがいいか?』

『うんよろしくー』


 無理をして老師にチャットの使い方を教えようとせず代理でメッセージを返すスミスさん。いや多分それがスマートなんだろうが、それでいいのか?


『あとは、もし明日の朝も雨が降り続いてた場合どうするかっていう相談だね。止むまで待つか、強行しちゃうか』

『ああ、それに関してなんだけど、今後のことも有るしこの機会に雨具を作ってしまおうかと思っているんだ。ユーレイ君はどうする?』

『う~ん、僕は良いかなあ。四人分でお願いするよ』


 雨具も身に着けるの拒否するのか。まあ装備品と言えばそうなんだが、この状況でもぶれねえなあ。


『ふむ、じゃあ明日は雨がひどいようなら様子見かい?』

『う~ん、雨具を着けないのは僕の勝手だからね。その時はささっと目的地まで行っちゃおうよ』

『あはは、雨が夜の間に止んでくれるよう祈っておくよ』


 そこまでユーレイと会話したところで、スミスさんがこっちに向き直る。


「そういう訳で皮を加工したい。多少臭うんだけど大丈夫かい?」

「おう!」


 即答かよ。こういうやり取り見せつけられるとホントにいろいろ考えてるのが馬鹿らしくなってくるんだよな。


「俺も大丈夫だ、いや、大丈夫です」


 関係ない所に思考を持っていかれていたせいで口調が乱れてしまっていたので慌てて直したものの、スミスさんに少し苦笑いされてしまった。


『それじゃ、ちょっと早いけどまた明日ね』

「おうっ!」

『あいよ』

『うん、また明日。リンドウ君もね』

『あ、みなさんまた明日です!』


「まずは一着目。老師君、こっちに来て着てみてくれるかい?」


 それから三十分くらい。放っておくと何し出すか分からない老師を誘って筋トレに興じていたところに、それまで黙々と作業していたスミスさんが声を上げた。


「おう、これでいいのか?」

「違和感があるところを教えて貰えるかな? 軽く動いて見せてほしい」

「いや、特に分からん」


 体をひねったり腕を上げ下げする老師をジッと見るスミスさん。


「首回りと肩のあたりを調整して仕上げの加工をするからもう十五分程待ってくれるかい?」

「分かった!」

「というか作業早くないですか……? こういうゲームで服作るのってもっと時間かかるものだと思ってました」

「まあ今回はゆったりとしたコートだし、寸法も把握しているからね」

「そんなものですか」

「まあ以前よりレベルが上がってステータスの恩恵を大きく受けられるようになったっていうのも有れば、スキルが上がって作業効率が良くなったというのも有るんだろうけどね」


 会話しながらも手を休めることなく動かすスミスさんは本当にそのあと十五分もしないうちにフードのついたコートを仕上げてしまった。


「なめした革で作れば防水加工ももっと簡単だったんだけど、時間が無かったからとりあえずはこれで頼むよ。少し重いからそこは注意してくれ」

「おお! さっきより動きやすい! 気がする! これが有れば雨の中でも平気ってことだよな?」

「フードをちゃんと被ればある程度はね」


 なんかもう、この後の展開が読めた気がする。


「今から行ってきていいか!?」


 ほらやっぱりな! どうすんだよこれ。


「ああ、構わないよ。ただし寝る時間は確りと確保できるように戻って来てほしい」

「いよっしゃ!」

「え、止めなくていいんですか?」


 困惑していた俺だったが、続くスミスさんの発言で納得した。


「もし辺りをぐるっと移動してみてユーレイ君を見かけたら合流するか念のため近くで狩りをするかしてくれるかい? きっと彼女も外に出ているだろうから」

「分かった! んじゃ行ってくる!」

「ああ、足元には気を付けるんだよ?」


 言われてみたら確かに雨だからってあいつが大人しくしてるヴィジョンが全く浮かばねえ。雨具をスミスさんに依頼しないならなおさら『明日雨ならどうせ濡れることになっちゃうんだよね』とか考えて外行ってるに違いねえな。

 ため息が増えたなと自分でも思う。はぁ……





 老師を見送って、スミスさんが作業を再開したので俺も筋トレに戻る。ステータス的な筋力で言えばゲーム開始時の二倍以上に伸びているため、自重だけでは負荷が碌にかからなくなってきてるのは問題だな。腕立ては重りを背負えばいいが腹筋なんかはトレーニング方法見直さないと駄目かもしれない。


「少しは焦りも落ち着いたみたいだね」


 本当に、よく見てるんだなこの人は。


「焦ってたつもりは無かったんですけどね。やっぱり焦ってたんだろうなって感じです」

「そうやって過去に出来るならもう大丈夫そうだね。大きな事故になる前に復調できてよかったよ」

「正直今でも早くどうにかしなきゃいけないとは思ってますよ。ただ、周りがあんな調子なんで。落ち着いたっていうよりも悩み続けられなくなったっていう方が近いです」


 筋トレの手を休めて、スミスさんの方に向き直ると、スミスさんが静かにこちらを見つめていた。


「そうだね、君は少々一人で抱え込みすぎだと僕も思うよ。幸い今ここには僕ら二人しかいないんだ。一度思う存分吐き出してみたらどうかな?」


 そう言って飲み物を注いで渡してくるスミスさん。そういう余裕のある態度がありがたく感じると同時に自分の至らなさを思い知らされるようでもある。


「どう考えてもあいつら危機感足りないじゃないですか。率先して攻略すすめるだとか、警戒なく初見の敵に突っ込むとか、そもそもこういう状況なんですから役割に特化する以前に安全の確保にリソース割くべきだって発想が出てこないのがおかしいと思うんですよ。そもそも俺だって壁役として十分な能力を持ってるとは言い難いのに後衛をパーティーに組み込んでるなんてありえないでしょう!」


 厚意に甘える形で少しだけ、のつもりが、一度開いた口は止まることなく言葉を吐き出していく。


「スミスさんもですよ。怖くないんですか?」

「僕かい? 怖いよ。当たり前じゃないか。リンドウ君はまた違うみたいだけどね」

「だったらどうして! 町の中にいれば安全なのになんで着いて来たんですか!」


 つい怒鳴ってしまった後で、失言に気付く。


「いえ、その決して足手まといだとかそういう風に思ってるわけじゃ、ないんですけど……」

「分かっているよ。足手纏いだと思われているなら着いて来ようとは思わなかったさ。ただ、こと戦闘に関しては足手纏いで間違いないだろうとも思うけどね」


 まるで気負うところなく足手纏いで有ることを認めたスミスさんに逆にこっちが尻込みしてしまう。


「ただね、僕もただ守られるためだけに着いて来たわけじゃあない。僕は、自分の仕事をするためにここにいるんだよ。直しをするから着てくれるかい?」


 そう言って、話しながらも作っていたのであろう皮のコートを差し出してくるスミスさん。驚きながらも言われるがままに袖を通し、軽く体を動かす。

 もうよいと言われたところでスミスさんにコートを返した。


「きっと守ってくれるだろうとは思っているけどね、守ってくれなかったとしても君には何の責任も無いんだ。本当は僕がもっといろいろとしっかりしていなければいけないのにいろいろと背負わせてしまって申し訳なく思っているよ」

「守りますよ、ちゃんと」


 思い悩んでいたこと。その一つの核心を突かれた。どうにかちゃんと返事が出来たのは我ながら上出来だと思う。


「まあリンドウ君は絶対守ってくれるだろう、そう思えているからあれだけ楽しそうなんだと思うよ。誇れることじゃないか」

「その信頼が正直ちょっと重たいんですけど……」

「ははは、男冥利に尽きるじゃないか。それとね、もう一つ僕がついてきた理由だが、残念ながら今回の目的が僕のためだっていうことに気付かないほど鈍くは無いんだ。何よりいい年をした大人が若者に全てを任せきりにしたなんて知れたら、後で彼女にこっぴどく怒られてしまうからね」

「スミスさん彼女いたんですか」


 思わずそんな間抜けな返しをしてしまった俺に、スミスさんはほんの少し寂しそうな笑顔を浮かべた。


「ああ、今頃家に怒鳴り込んで来てゲーム機の回線をぶち抜こうとしてる頃かもしれないね? もし僕が唐突にいなくなるようなことがあったらその時は察してくれ。さあ、君の分のコートも完成したがどうする?」


どうする? だなんて、ここまで言われてテントで大人しくしてられるような神経、俺は持ち合わせてない。


「俺も、俺の仕事をしますよ。ユーレイとも老師とも違う俺の仕事です。お土産、楽しみにしててくださいね」

「ああ、行ってらっしゃい。それとリンドウ君が一人で退屈しているといけないからこれを届けてくれるかな? 激しく動かないならこれで十分のはずだ」


 いや、いつ作ったんだよこのコート。

出てきた植物の詳細とか書けばいいんじゃ練ってリクエストが有りましたので。


マナイタドリ……食用。名前はマナの部分で区切るのが正しい。まな板ではない。


コボルトヒゲ草……雑草。犬型モンスターのヒゲによく似た細長く地味な花を咲かせる。


鈴豆……雑草。豆は硬く食用には適さないが、根っこは食べることが出来る。

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