縛り65,ルーン切れでのアクション禁止
「今日はこのくらいで切り上げて野営の準備しちゃおうか」
「ちょっと早くないか? まだ日も沈んでないぞ?」
とりあえずこの辺りのモンスターへの対処法も確立できたし、経験値的にもやっぱり手強い分そこそこおいしかったみたいでレベルも一つ上がったしってことで、今日の移動を切り上げることを提案する。
予想外の時間の使い方しちゃったけど、なんだかんだ楽しかったし窮地に陥ったりもしなかったからこれでいいと思ってる。
「うん、まあ暗くなってからでも明かりは用意できるしどうにかなると言えばなるんだけどさ」
もう少し移動距離を稼げるんじゃないかっていうクロの意見に、僕は沈んでいく太陽と、その反対側に次第に影を濃くしていく分厚い雲を見つつ答えた。
「なんか、雨降ってきそうな雲行きじゃない? 雨具も用意してないしずぶ濡れになる前にテント用意しといた方が良いかなって」
「雨? まあ確かにそういうことも無いとは言えないか」
「テントは雨風にもそれなりに強い奴らしいから多少の雨なら入ってれば平気だと思うよ。そういう部分を快適にしてくれるファンタジーさんと売ってくれた道具屋さんに感謝だね」
宿屋に風呂は無かったけどトイレが物凄く臭うだとか、食品衛生がガバガバだとかそういうのが無いのはホントに嬉しいよね。そういうの採用したゲームはニッチな層にしか流行らないっていっちゃえばそれまでなんだけどさ。
「そういう訳だから、テントの組み立てお願いね! 僕はリンドウちゃんと一緒に採集でもしとくから」
「ああ、そこは魔法でどうにかしてくれる仕様じゃないんだな…… てか手伝えよ!」
「二人で組み立てられる設計らしいし、試行錯誤を二組で同時にするよりも一回組み立てた人でもう一つも組み立てる方が無駄が無いと思うんだよね」
「はぁ…… 分かった分かった。やっとくから好きにしろよもう」
「うん! よろしくね!」
クロがなんだかんだ言いつつも請け負ってくれたので、僕は採集に、といってもモンスターが近づいて来たらその対処をしなきゃだから実質護衛みたいなものなんだけどね。
「なんていうか、思ったよりもいろいろな植物が混ざって生えてるんだね。群生とかしないのかな?」
「種で増える訳じゃないみたいですししないんじゃないでしょうか? 抜いたところから生えてくる植物も違うもののことが多いですし」
「う~ん、モンスターみたいに湧いてくるものなのかなあ。法則性とか見つけられたら素材集め捗りそうだよね」
「法則性とか考えたことなかったです」
うん、試しに定点狩りならぬ定点採りしてみようかな! モンスターが来た時にスタミナ無いと困るし、数本抜いてリポップ待ってデータ集めてみよっと。
「リンドウちゃん、これは~?」
「えっと、弱い毒性があって食用には向いてないです。確か花が咲いたら蜜が採れるんだった気がします」
「花が咲くの待ちたい?」
「う~ん、咲くのを待つよりも咲いてるのを探した方が速いんじゃないでしょうか、花がついてれば探すのも簡単ですし」
「それもそっか。テンポ乱すとデータにノイズ混じるもんね」
「一応もらって良いですか?」
草を引っこ抜いて、見覚えが無ければリンドウちゃんに聞いて、メモを取って、で、その場所にまた生えるのを待って引っこ抜く。そんな作業もかれこれ十本目。クロ達は老師への説明に苦労しつつも一つ目のテントを立て終わったところみたいだね。
「あ、モンスター近づいてきてる。ちょっと行ってくるね!」
「はい、頑張ってください!」
抜く間隔もなるべくなら一定に保ちたいのでモンスターは向かってきてるものにだけ速攻で対処してる結果、今のところトカゲとの戦闘は無くって、戦闘相手は犬で固定されてる。
手こずるってことも無いんだけど、データ集めはなるべく採集間隔もそろえてやりたいっていうのを考えると、出来る限り素早く仕留めたいんだよね。
「【アッパースラッシュ】!」
そうするとどんな作戦になるのかっていうと、徹底した急所狙い。それも即死の発動率が高いと思われる喉狙い。四足歩行のモンスター相手だとどうしたって下から切り上げる形になるから使いどころが少ない【アッパースラッシュ】のスキル上げにもなって一石二鳥だね。
「よしっ、おーわりっと!」
攻撃を誘いつつ躱しては喉にスキルを叩き込むっていうのを五回くらい繰り返したところでモンスターが動かなくなったのでダッシュでリンドウちゃんの元に戻る。今回は即死こそ発動しなかったけど動きの無駄が減ってきてる分所要時間は短めで済んだね。
「おーい、組み立て終わったぞー」
「ちょっと待って! 今いいところだから!」
「採集だよな? そんな盛り上がりどころ有ったか!?」
マナイタドリ、コボルトヒゲ草と来て、次に鈴豆が生えればある程度のパターンが有ることが決定するかもしれないというところまでたどり着いたんだから、あと一二分待たせるくらい許してほしい。テント立てるほど急を要した事案じゃないけどこれだって長期的には大事な攻略なんだから。
「ユーレイさん! 生えてきそうですよ!」
「鈴豆!?」
そして真剣な顔で見つめる僕とリンドウちゃんの前で地面がわずかに盛り上がり……
見たことのない草が生えた。
「ダメかぁー」
「あ、でもまだ見つけたことのない草ですね。せっかくですしこれ採集して終わりましょうか」
「うん、お疲れ様。突き合わせてごめんね?」
「いえいえ! 楽しかったですよ、本当に!」
リンドウちゃんに和まされつつ、改めてクロ達の方に向き直ると、思った以上にちゃんとしたテントが出来上がっていた。
「おお、ちゃんとできてる! お疲れ様。老師が部品壊したりしないか心配だったけどどうにかなったんだね」
「ああ、それな。そこはもう、ホントに、うん」
クロの顔にはありありとそれが一番大変だったって書いてあるね。後ろでスミスさんも少し疲れた様子を見せてるから説明とかは二人でしたのかな?
「ちなみに、もし壊していたらどうするつもりだったんだい?」
「うん?その時は仕方ないから無事なパーツを集めて一つ立てて、そっちに入れない人は防水機能のある布の下に潜り込んでって感じになったと思うよ。雨じゃなければ見張り立てたりしつつ交代で使うんでも良かったけど」
「ははは、無事に立てれてよかったよ本当に」
スミスさんがそんな風に苦笑してるけど、スミスさんやリンドウちゃんを外に寝かせるのは気が引けるからもしそうなってたら僕、リンドウちゃん、スミスさんの三人でテントかなあ。男所帯にリンドウちゃん放り込むのも嫌だしね。クロと老師に関してはタフさを信頼できるからね。
「あ、降って来た」
「マジかよ。テントが無かったらと思うとかなり悲惨だな」
「じゃあ僕たちはこっちのテントを使うから、これ以降の連絡はパーティーチャットで! あとアレクさんとナンダゴンドさんに野営道具の話共有しといて!」
あっちは大所帯だから道具の準備も難航しそうだよね。本格的に攻略に動けるのはまだ先になりそうかな?
「見張りとかしなくて大丈夫なのか?」
「野営道具の中にテント内にけっこうな音が鳴る鳴子みたいなのが有るから本降りになる前に設置しとくよ。それじゃ!」
リアルのキャンプで雨が降っちゃったらちょっとがっかりだけど、テントの中で雨音聞くっていかにもアウトドアって感じがして楽しそうだよね。次回までには調理器具と調理できる技術も確保して野外でご飯もしたいなあ。
あとがきとか前書きのネタ切れ感。
本編に出てこないであろうスキルの紹介でもしようかなあ(なにゆえ)




