縛り54,文章スキップ禁止
途中読み飛ばしてもさほど問題ない部分が有ります。つらつらした会話を読むのが好きな方は読みましょう。
鼻面にパンチの直撃を受けて負けを宣告されたことでしばらく茫然としてたエックス君だけど、しばらくして立ち直ると案の定怒ったような顔になった。
「な、なんだよ今の! インチキじゃねーのか!?」
「インチキなんてしてないよ?」
「俺から見ても特に怪しい所は無かったな。少なくともルールで禁止したようなことはしてねえよ」
向こうのパーティーの人間であるナンダゴンドさんも審判として擁護してくれたおかげでしたしてないの押し問答は避けられそう。でも今回の対戦に禁止事項なんてあったっけ? 過剰な攻撃禁止くらいじゃなかった?
「ル、ルールで禁止されてなくても何かのチートツールでも使ってる可能性は有るじゃないですか! そういうこともしてないって断言できるんですか? そもそも今のパンチのダメージなんてないに等しいんだから有効打じゃありませんよね!?」
一気に言うねー。よっぽど納得いってないんだろうけど、対戦相手に文句付けるような姿勢じゃ格ゲーマーとしては大成出来ないだろうね間違いなく。
「お前なあ。サービス開始直後かつこの状況で使えるチートツール持ってるような奴間違いなく運営側だろうが。使ったら即黒幕認定されかねないようなもん俺たちの目の前で使うようなアホがこんな大それた事件起こせる分けねえだろうが。ちょっと落ち着け?」
「うっ、確かに。そうです」
「んで、ダメージほぼなしのパンチを有効打として判定した理由の方は、武器を使えなかったんじゃなく使わなかったからだな。ナイフを持っててもほぼ同じように動けるような動きだったぞ? お前分かってんのか? ユーレイがその気になればナイフをその首にグッサリ行けたぞあれ」
顔を青くして自分の首をさすってるエックス君には悪いけどそんなことしないからね? 技術的にはともかく精神的にハードルが高すぎるし。ついでに言うとナイフを持っても同じ動きが出来るっていうのも何の特殊効果も無い軽量武器ならって話だから実は当てはまらなかったりするんだよね。まあエックス君が納得できたならそれでいいんだけど。
「今回の負けは認める。認めるけど…… そっちに有利なルールじゃなければ俺だって負けねえ。次はこっちがアイテム用意してくるから首洗って待ってろ!」
「へ? 別に対戦メインのプレイスタイルじゃないんだけど? というか僕らが嘘言ってる訳じゃないって納得したなら言葉遣いはちょっと直したほうがいいよ? 僕は気にしないけどクロとかあれで体育会系だし」
「ちゃんと敬語で話す。お前以外には」
「というか、僕に有利なルールって?」
確かに今回の対戦は僕に有利だったけど、それってルールどうこうの話じゃない気がするんだよね。さっきの状況で戦えば『決闘水晶』使った試合でも勝てたと思うし。ハメ技が有るわけではないから確実ではないけど。
そんな僕の困惑を読み取ったのか、あるいはエックス君の考えが読めるのか、ナンダゴンドさんがエックス君に声をかけた。
「俺がチートの類を使ってないと判断したもう一つの理由は俺にもほぼ同じことが出来るからだ。AGIが高いから一ヒット先取で有利とかそういうのは今回は関係ない」
「え!?」
「むしろ見たとこお前の方がAGIは高いんじゃねえか? 盾を持ってることも含めてルールだけならお前に有利だったぞ」
「じゃ、じゃあなんで」
なるほど、僕の方がAGIが高いと思ってたから僕に有利なルールだと思ってたんだね。実際はナンダゴンドさんの言う通りエックス君の方がちょっと早いくらいだろうね、装備のペナルティが無ければ同じくらいかな?
自分が納得していた理由の根拠が間違ってると言われてうろたえてるエックス君にそろそろネタばらしをしようかな。僕がしなくてもナンダゴンドさんがしてくれそうだけど。
「僕が説明するからナンダゴンドさんは補足してくれる?」
「良いのか?」
「別に隠すほど珍しいテクニックでもないし、さっきも言ったけど別に対戦メインでプレイするつもりもないしね」
「実際に戦った相手から聞く方が実感が湧くだろうからな。有り難い」
「エックス君の弱点晒すようなものだし、他の人は呼ばなくていいよね?」
「ああ。対戦ができることが判明した以上基本的なことを説明する機会はおそらくいくらでもあるからな」
トントンと進んでいく僕とナンダゴンドさんの会話に目を白黒させて居るエックス君に二人で正対する。
「ではではー、第一回、ユーレイとー……」
「……俺か。ナンダゴンドの」
「PvP講座ー! というわけで、まずは基本中の基本『攻撃スキルは強いが動きが読みやすい』!」
「読みやすい……?」
「そう! 有る程度はアレンジ出来たり、動きの幅が広いスキルも有るけど、スキルは基本的にそのスキルに最適な動きで攻撃します。たぶん」
「たぶん……?」
「まだまだ情報が出回ってないからね。初期の方のスキルはモーションもシンプルだし」
というか僕らのパーティーでモーションに補正がかかるタイプのスキル使うの老師ぐらいだし、老師もたいていの場合助走つけすぎるせいで元のモーション崩れてるし。
「例えば重量武器を振り下ろすスキルをアレンジなしで使えば、振り上げて、垂直から握り方に合わせて若干の角度がついた方向に振り下ろされるってことだ。連続で振るうようなスキルは最適というよりはそういう型に沿ってるだけな気はするが、それも含めてスキルはほぼ決まった軌道で攻撃する」
「何か問題が有るんですか?」
「問題が発生しないままの可能性もそれなりにはあるんだけど、対人戦では致命的だね。なんせスキルを使った瞬間からスキルが終わるまでの間の動きが相手に全部ばれちゃうんだから」
「あっ……」
「参考までにナンダゴンドさん基本スキルのアレンジパターン何通りぐらい組んでる?」
「対人戦を意識してなかったから少ないが、【ペネトレイト】で四通りだな」
「スキル名は秘匿してくれてよかったんだけどね。まあ固定モーションで状況に合わせて使おうと思ったらPvPじゃなくてもそのくらいは必要になるんだよ」
槍で突く攻撃で四通りもすでに組んでるっていうのは相当凄いとは思うけど、一旦置いておいて、エックス君へのダメ出しを続ける。
「で、エックス君は攻撃スキル二種類合わせても三通りだけ。さらに言うなら距離を詰める動きからの最初の攻撃に関しては一通りしかないって言っていいレベル」
「なんでそんなことが言えるんだよ」
「それは次の話になるんだけど、まあスキルをうかつに使えばあっさり避けられたりカウンターをもらうことになるのは分かっただろうし次に進んじゃおうか。基本中の基本その二『相手に手の内をばらさない』」
「まあここまでの話と繋がってるからわかるだろうが、相手の動きや戦術の情報を持ってるのと持ってないのじゃ戦いやすさに天と地ほどの差が有る。対人戦を意識するってのは各スタイル各スキルそれぞれの動きとそれに対する対策を常に考えるようにするってことでもある」
「待て。じゃあ結局今回の試合はそっちに有利だったんじゃ」
「僕もナンダゴンドさんも僕に有利だったこと自体は否定してないよ。ルールがどっちに有利かって話はしたけど」
「さらに言うなら有る程度の情報をお互いに持ってることを前提に、どう動けば相手の裏をかいてダメージを与えられるかってのが対人戦の醍醐味だぞ」
「実際エックス君がスキルじゃない攻撃とか、【シールドバッシュ】での牽制みたいにクロとの戦いでほとんど使わなかった動きを中心に攻めてきてたら多少は手こずっただろうしね」
「負けるとは言わないんだな」
「だってスキル以外でも動きの癖がたくさんあるし」
この発言を皮切りに、エックス君個人へのダメ出しに話がシフトしていく。ここまで頭上に疑問符を浮かべまくりつつも納得していたエックス君の目が途中で死んでた気がしないでもないね。
「まずステップでの移動と回避の方向がワンパターンなんだよね。左手に盾を持ってるから基本の動きとしては間違ってないんだろうけど、ステップの移動距離も決まってるから移動後の位置が丸わかりで攻撃当て放題」
「ワンパターンと言うなら中距離からの攻撃もだな。走って距離を詰めて攻撃スキル。そこから【ステップ】で回り込む。正直これさえ把握してれば誰でもユーレイと同じ方法で一発叩き込める」
「一応ステップからの攻撃スキルっていうパターンもあったよ? こっちはこっちでスキルさえ避ければ反撃し放題なのは変わらないけど」
「体感だが12フレームくらいの硬直がスキルを撃った後に有るのを把握できてないのもダメだな。他の系統のスキルで硬直キャンセル出来るっぽいからそのせいだろうが」
「横になぐ系統の動きが少なすぎるよね。左から降る動きに至ってはゼロだし。結果的に足を止めてても避けられるような攻撃ばっかりになってる」
「剣を振ってるときに盾が体の外に向いてるのも矯正したほうがいいな。相手が防御に優れてたらそのまま反撃を食らう。というか俺なら食らわせる」
「あと思考が真っ直ぐすぎて読みあいに向いてないよね。距離が有るから一気に詰めて奇襲、一発当てれば勝ちだから素早い連撃のスキルを使う。もうちょっとひねらないと」
「攻撃と回避のメリハリも無いからどっちも中途半端だな。攻撃の力が相手に伝わりきる前にキャンセルして移動してるパターンが三割くらいは有った」
「距離詰める時にどっちの脚から踏み出すかも決まってたから魔法系のスキルが有れば転ばせるのも簡単そうだよね。基本的に足元への注意が無いし」
「変則的な攻撃への警戒心を言うなら後ろも頭上もだろう。今はまだよくてもすぐにその手の変則的なスキルを使うプレイヤーは増えるぞ」
「というか僕の知り合いにもいるしね。魔法やスキルに限らずフェイントにも弱そうだから【ステップ】空振って痛い目見るのは間違いなさそう」
「パーティーで戦ってれば後衛が前衛を見守るような形になるからサポートできるが、負担の多さを考えると有る程度は搦め手への警戒心も身に着けさせないと駄目か」
二人で盛り上がって、気づいたらエックス君が燃え尽きてた。時間にしたら十分かそこらだと思うんだけど、メンタルも弱いのかな。そういえばMNDを上げたときにそういう精神攻撃に強くなるかどうかの検証ってしてないんだよね。やることのリストに加えとかなきゃ。
「これ以上言っても頭に入らないだろうしこのくらいにしとこうか」
「そうだな。そんなことよりだ」
「そうだね、速いところ情報の共有をしないと」
「そっちは俺達以外がやってるだろう。一発ルールならアイテムに頼らなくても安全にPvPができることが実証されたわけだ。時間もそうかからない」
あれ? 当初回避しようとしてた流れに戻されてる気がする。
ナンダゴンドさんが年季の入ったゲーマーとしての顔で楽しそうに口を開いた。
「俺との対戦、受けない理由が無い。そうだろう?」
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