縛り52,パーティーメンバーは全員モンク
タイトルとかサブタイとかでかなり今更ですがこの作品にはパロディー要素が有ります。
完全にあからさまな書き方はしてないはずだけど二次創作ガイドライン見直したほうがいいかなあ……
「割と意味のある対戦のはずなのにお前らのその態度はどうなんだよ」
「アレクさんも来たんだ。審判の仕事はいいの?」
「常識持ってる奴ならやらないような反則しかねえし大丈夫だろ。判定自体はアイテムがするんだしな」
「まあそれもそっか」
「それに俺はお前らと違って真面目に観戦するつもりだからな。危ないようならこっからでも止めに入れるだろ。そんなわけで俺にもお茶くれ」
「あ、僕もお替り」
アレクさんとコノカさん、それとお代わりを要求した人にリンドウちゃん謹製のお茶もどきが行き渡ったところで、試合観戦という名の雑談が再開された。すぐ後ろにコノカさんがいるのでさっきみたいなことにならないよう比較的真面目に。
「つくづく地味な試合だな。もうここまで来れば逆転の目は無いだろう。あの男ももう少し戦える奴だと思ったんだが」
「強い弱いだけで測れるものでも無いのが対人戦とはいえ僕も正直もう少し頑張ると思ってたよ」
「エックスが強いってわけじゃないのか? フィールドボスを正面から抑え込むパワーの持ち主とこれだけやりあってるんだろ?」
「あれを正面からだと!?」
「いやいや、一人じゃなくて煮卵さんと一緒に抑えてたよ確か。それにそもそも、掴み技使ってないじゃん今」
「エックスの方が躱してるってわけじゃなかったのか」
「そんな強力な手札を隠してたとはな。だがここまででも使うタイミングは何度もあったはずなのになぜ使わない。何を考えてるんだ?」
「う~ん、クロの考えねえ」
ナンダゴンドさんがクロが何を考えてこんな戦いをしているのかという疑問を示してきたので、改めてクロの思考を予測してみる。
「う~ん、たぶんだけど今は戦闘経過から予想されるエックス君のステータスとスキル構成、これまでの攻撃の命中率と被弾率からお互いのダメージ量を計算して、防御を捨てて攻撃した場合とか、スキルだけを防御した場合とか、いくつかの戦略の実行結果を予想してる」
「それは、真面目な奴なんだな……」
「たぶん今再修正を加えての三回目くらいの試算してるところ」
「は?」
「それで、今まで動いてないってことは勝てないっていう結論が出てて、たぶんそろそろ三回目の結論が出るね」
「頭固いな!?」
ナンダゴンドさんがついつい大声で突っ込み入れてきたけど、僕も正直そう思うよ。
ちなみに僕が同じ計算をするとクロが勝つっていう計算になるんだよね。不思議だよ。
「それで、まあ大体のパターンだと三回ぐらい考え直してみてダメだったところで考えるのを放棄してヤケクソに「いい加減にしやがれっ!!」なったね」
「お、おう……」
「その、なんだ。狩りの時とはずいぶん違うな」
僕らの目線の先には、エックス君のスキルを受け止めたところで即座に距離を取られて反撃もできず、たまったストレスを文字通り地面に叩き付けるクロの姿だった。持ってたハンマーごと。
まあモンスターとの戦いと対人戦は違うからアレクさんが差異を感じるのも仕方ないね。人型モンスターでAIしっかりしてる奴でもいれば対人戦の練習にもなるのかもしれないけど、序盤じゃあいないかなあ?
「負けそうになったら勝負を投げるのかよ。やっぱり寄生ヤローは寄生ヤローだな!」
挑発、してるつもりじゃなく本心で言ってるんだろうけど、エックス君の発言に対してクロは無言。というかエックス君の動きもよく見ると雑になってるし、表情も不機嫌そうだし、この試合がストレスなのはあっちもっぽいねー。
まあタンクでもない相手のはずなのにこうまで凌ぎ続けられて、ぱっと見スキルを使わない嘗めプレイしてるように見えるならそりゃストレスにもなるか。
「無口になるのはかなりいらついてるパターンだよ。これはちょっと面白い方向に転ぶかもしれないね」
「あのくらいの戦意が有る相手となら強さは抜きにして俺も戦ってみてえな。エックスに譲らなきゃよかったぜ」
「しかし武器を捨てるとはな、武器を捨てればスキルによるモーション補正が無くなって不利になるはずだが……」
まあ当人たちがどんな思いを抱えていようと観戦してる側にしてみればカードゲームのフレーバーテキストぐらいの意味しかないわけで。いくらクロでも殺しはしないだろうし、むしろ退屈な試合がようやく盛り上がってきて嬉しいぐらいだよ。
「そりゃ悪手だろ! 相手が武器捨てたからって油断しすぎだぁ!」
「スキル抜きの攻撃とは言え素手で止めるかフツー」
「ああっ! 普段から盾での攻撃扱ってねえからそんな半端なことに!」
「お、振りほどいた。っ! あれは!」
おじさん二人も3D配信の格闘技に熱中するクロのおじさんみたいなテンションで大盛り上がり。乗っかるタイミングのがしちゃったからしばらくはROM専ならぬ聞き専かな?
「間違いない、我流だがあれは赤鬼剛力卍落とし……!」
「知っているのか雷電!」
「古来中国では一対一で左右への移動を用いない無手による決闘が行われ続けていたという。闘者たちの動きは次第にエスカレートし、上下方向での攪乱を軸にした高速戦闘が行われるようになる。そんな中、高速化と、それを目的とした軽量化を進める闘者達に対し、それと逆をいく戦闘スタイルもまた生まれた。創始者の外見的特徴をなぞって赤鬼の名を関する技を持つその流派ではすべての攻撃を受け止め、相手の軽さを存分に利用した派手な投げ技で骸の山を築くという。言うまでも無いことだが現代に伝わるレスリングは西洋人が赤鬼の流派の者同士の戦いをまねしたものが発端になっている」
「ひゅー、なかなか上手いじゃねえか」
「民明風の紹介いきなりやれとか無茶ぶりにもほどがあるぜ」
「はっはっはっ、明確にやれって言われたわけでもないのにノリノリだったじゃねえか」
「まあ、そこはなあ?」
武器を素手で掴むという荒業を見せたクロが、次に放ったのは派手な投げ技。無理に剣を振りほどいたことで体勢を崩したエックス君を屈みこみながら引き寄せ、全身のばねを使って垂直に投げ上げ、落ちてきたところをお腹にラリアットを決めつつ地面に叩き付ける。さっきとは一転しての容赦のない戦いにみんなびっくりだよ。元祖だと腕を叩き付ける位置が首だからそれよりははるかにマイルドだけど。
元ネタを知ってたらしいアレクさんが妙な言い回しで解説してるけど、突っ込んでいいのかな?
「ねえ、雷電って誰? アレクさんの二つ名か何か? あとそのインチキ極まりない解説は?」
「は?」
「嘘だろ? 鉄板ネタじゃねえか」
「最近の鉄板ネタなら僕も一応わかると思うんだけど」
「いや、最近ってか、ずっとあるよな?」
「少なくとも俺が小学生のころにはあったな」
「兄ちゃんねるとかで見かけて由来調べて自分でも文章にしてみるまでが通過儀礼だろ?」
「いや、俺は自分では書き込みはしなかったが」
「マジかよ」
「あ、兄ちゃんねるって聞いたことあるよ、確か手持ち端末時代の交流サービスだよね?」
僕がそう言うと二人は揃って固まった後、首を左右に振り始めた。嘘だろ、とかそんな感じのことを呟いてるみたいだけど、そんなに認めたくない現実だったのかな?
僕が無知なだけだったときの申し訳なさを思って誰かに確認しようと思って振り向いたら、コノカさんと目があった。
「ダメですよ~、ユーレイさん~。そういうのは~、適当に流してあげないと~、時の流れは~、残酷ですから~」
「時の流れよりもその発言の方が残酷な気がするよ!?」
アレクさんもナンダゴンドさんも完全に撃沈しちゃってるじゃん!
「【シールドバッシュ】!」
「ぐうっ!」
おっさんズが黙り込んだことで戦ってる二人の声が聞こえてきた。どうやらエックス君は盾を使うアクティブスキルを持ってたみたいだね。まあ切り札としてというよりは使いどころがなくて使ってなかった感じみたいだけど、結果的に不意打ちになったみたいで顎を強打されたクロが棒立ちになってる。あれは目眩か何かの状態異常にでもなったかな?
ついさっきまで一方的な攻め手で傷一つなかったエックス君がちょっと目を離してる間に土にまみれて青あざを作ってるところを見るにかなり白熱した削りあいになってたみたいだね。
「よしっ、これさえあればっ!」
そしてエックス君が慣れていないのに盾で攻撃した理由は剣が弾き飛ばされていたからか。スキルを放ってすぐに身を翻して剣を拾いに行ったっていうことは最初から隙を作って剣を回収する狙いだったのかな?
「ちいっ!」
対するクロはふらつきからは立ち直ったものの剣を拾うのを阻止するには間に合わないとみて自身も近くに落ちていたハンマーを回収。そしてぶん投げたっ!?
「ひいっ!?」
「うわあ!?」
エックス君を狙ったはず、というか狙ったんだと思うけど見事に明後日の方向に飛んで行ってミルフィーユさんと煮卵さんに悲鳴を上げさせるだけの結果に。
「考えなしに投げるなノーコン!」
僕の声は聞こえたのか聞こえてないのか。突っ込むエックス君に対してクロも突っ込んで展開されたのは泥沼の物理合戦。スキルや武器の関係で有利なのはエックス君だけど、半分キレたままで戦ってるクロの勢いもなかなかで、特に膝蹴りは放たれる度にエックス君の表情を歪めている。
「っ!? ……っしゃああーっ!」
そして、何かが割れるような音がして二人が弾かれ、勝者と敗者それぞれにそれを示すマークが映し出された。『決闘水晶』の試合結果ってこんな風になるんだね。
そして勝利の雄たけびを上げたのはエックス君。クロは晴れてこのゲームでの負け犬第一号になったのだった。
試合が長引きすぎて他の方法取った方がはるかに短く澄んだっていうのは言わない方向で。
バトル回のはずだったのにどうしてこうなった……




