縛り46,金属製装備禁止
推敲してから投稿したほうがいい。そんなことは分かっている、分かっているんだ……!
「さて、祝福についてだったな」
「うん、まずそもそも祝福って何なのかっていうところからお願い」
「そういう話は神殿で聞くべきだと思うがな」
「ということは神様絡みなんだ?」
「ふむ、広義ではそうなんだろうが、世界の仕組みのことなんて学者でもない俺に聞くな。俺が教えられるのはどういうことが出来るかってことだけだ」
そんなわけで訓練場。ちらほらと朝から鍛錬に励んでるプレイヤーもいるけど多くは無いね。たぶん町の外の情報とかが出回り始めてて、鍛えるにしてもそっちに行く人が増えてるんだと思う。
「祝福っていうのは、端的に言えば自分の力量を越える力を振るうことを可能にするものだ。それは戦闘に限らず、何かを作るということや、身体能力そのものに作用することもある」
「なるほど? そういう種類があるのは何となくは把握してるけど、上乗せっていうのはぴんとこないかも」
今日は会話は僕一人で請け負うことになってる。まあ何を把握しておくべきかってことのすり合わせはあらかじめしてあるしね。
「ふむ、具体例を示したほうが分かりやすいな。この中に、武器の扱いに関する祝福を持っている者はいるか?」
「あ、それならクロが」
「獲物は、ハンマーか。比較的分かりやすい方だろうな」
教官はそう言って訓練場の隅の方に歩いていくと、大ぶりな木槌を持って戻ってきた。柄の長さはさほどでもないけど、先端の大きさはかなりある。形のイメージとしては髭のおじさんのRPGで髭のおじさんが使ってるような感じだね。叩き付けた後にアクロバット決めるやつ。
「さて、その鉄のハンマーとこの木槌とでは、同じハンマーでも重さも形も硬さも違う訳だ。全く別の武器といってもいい。でだ、これを今すぐ使いこなせると思うか?」
クロのハンマーは長くて細めの柄に、握りこぶし二、三個分くらいの鉄の円柱がついたような形状で、リーチも重心も教官が言った通り全然違うから、普通に考えて無理だろうね。野球のバットにもうちょっと近ければ行けたかもだけど。
「う~ん。何となくですけどいけそうな気します」
「えっ、ホントに!?」
「差を明確にするためにもまずは自分の得物で動きを見せてみろ」
「分かりました。素振りですか?」
「素振りよりも打ち込みのほうがいいだろう。そこの巻き藁に数発撃ちこんでみろ」
クロは教官の指示を受けてハンマーを構えると、軽く助走を付けながらハンマーを振りかぶり、踏み込みとともに巻き藁に叩き付けた。続けて、右手を先端に寄せての小刻みな打撃を三発ほど繰り出すと、今度は右足を半歩下げて間合いを調節してのフルスイング。初日のぎこちない動きからは想像もできないなめらかな連撃だね。
それがスキルによる補正のお蔭っていうのは頭では分かってるんだけど、動きをよくするだけならともかく間合いまでどうにかなるってちょっと想像つかないかも。
「癖が強い動きだな。我流か?」
「そうっすね」
「じゃあ次はこれを使って、似たように動いてみろ。無理して同じ動きをする必要はない」
「うっす」
クロは持っていた自分のハンマーを一旦老師に預けると、教官から木槌を受け取った。何度か柄を握りなおして感覚を調整した後、さっきと同じように助走を付けつつ振りかぶる。
「おらっ!」
さっきと同じような、それでいて柄の長さの差分だけ間合いの近い叩き付け。続く攻撃も軌道こそさっきと揃えているものの振りが大きく、速い。そこまでは似たような動きができたけど、そこから一歩下がっちゃうと柄の短い木槌じゃ間合いが切れる。クロがとった選択は真上からの全力の叩き付けだった。武器も巻き藁も植物製だから大した音はならなかったけど、金属製だったらさぞうるさかっただろうね。
「ふむ、随分とよく鍛えているようだが動きが歪んでいるな」
「あー、やっぱ分かりますか」
「転ぶか、少なくともバランスを崩すかと思ったが、武器の軽さに救われたか?」
「そんなとこです」
と、僕から見たら問題なく動けてるように見えたんだけど教官と話すクロの表情はやりきった顔とは程遠かった。ハンマーの武器としての使い方なんてゲーム以外で知らないからどこが悪かったのかもさっぱりだよ。
「最近に身体能力を強化するような祝福を得た。違うか?」
「合ってます」
「それによる身体能力の変化が一番大きな理由だろう。動きが体について行っていない」
うん、もう四日も前だけど複数取得してたね。レベルもガシガシあげてるからクロの筋力はリアルとは同じ感覚でいられるわけないぐらい変化してるんだろうね。暴投度合いがひどくなってたのもそのせいかな?
そしてクロと教官の会話はどんどん本筋から外れて行ってるね。
「そもそも垂直方向への叩き付け自体普段からあまり使わないのでないか?」
「はい、それで打撃面の中心からずれてしまって」
「やはりな。普段からする動きであれば巻き藁程度の単純な形のものなら問題にならなかったはずだ。動きは意識的に修練を積まねば普段しない動きというのがどうしてもできる。故に実戦だけでない修練が重要なのだ」
「ちょっとストップ! 本題の祝福の話からどんどん遠ざかってるよ!」
「む?」
昨日のことといい教官って案外話好き? クロにとっては実の多い話なんだろうけど、老師が大人しく話を聞いていられる時間には限りがあるし、ひとまずは本題を進めてほしいよ。
「まあ今ので祝福の効果についてはおおよそ分かっただろう。本来であれば武器は大きな括りは有っても別のもので、新たに武器を持つ場合などは相応の慣らしが必要になる」
「スキル、祝福があればその制限がなくなるってこと?」
「そういうことだ。武器の扱い自体は祝福が無くても習得できる。その積んだ修練を別の得物に持ち替えたときに発揮するというのが、この場合の本来の力を越えた力だ」
なるほど分かりやすいね。というか、プレイヤーの技術でどうにかするって思って取得してない人多そうだけど、実はこれむちゃくちゃ重要なんじゃないかな? 早急な情報共有が必要かもね。
「これは、取得したほうがよさげかな?」
「必ずしもそういう訳ではないな。頻繁に装備を更新する冒険者には有意だが、騎士団のように装備の規格が統一されているところではその分他の祝福を得るほうが良いとされている。武器の更新の際に十分な慣らしを積めば済む話でもあるしな」
「う~ん、この話が聞けただけでもかなりの価値がある気がするよ」
「一部の魔剣と呼ばれるような武器の力を引き出すには祝福が必須とも言われているが、そうそう目にするものでもない。気にする必要はまず無いだろう」
「やっぱりそういうのもあるんだね」
あれかな、装備を使えるようになる方向への補正が有る程度無いと使えない? もしくは武器を使って戦ってたらまず上がらないような技術やステータスが必要なのをスキルで緩和できるとか? 何となくこっちの方が有りそう。
そんな考察を脳内でしながら会話していたら、何やら後ろから重たい音が聞こえた。
「何事?」
「あ、あの! 老師さんが突然倒れてしまって!」
「あちゃー」
「ね、熱も出てそうですし何かの病気なんじゃないですか!? あわわ、どうしたら……」
慌てに慌てるリンドウちゃんの姿に、教官も気遣わしげな声をかけてくる。
「大丈夫か? 幸いこの街には医者もいれば神殿もある。建物の中で休ませて呼んで来るべきではないか?」
「あー、大丈夫だと思うけどとりあえず症状確認するね。老師~! 話終わったから体動かす時間だよー!」
「やっとか! 相手はどこだ!」
そういって跳ね起きる老師に、スミスさんを除いた面々は唖然としている。
「うん、話が長すぎて忍耐力の限界超えちゃっただけで有ってたみたいだよ。熱は知恵熱かな?」
「大事なかったようで何よりだな……」
「せっかく時間取ってくれたのにこんなことになっちゃって申し訳ないよ。この後は任意で発動するタイプの祝福の話の予定だった?」
「ああ、その通りだ」
「そしたら実際に立ち会いながら話してもらえたりしないかな? 僕らの中で一番その系統の祝福に頼ってるの老師なんだよね。感覚的に伝えれば伝わるとは思うから……」
老師がこのあたりの話を自力で理解してくれるのは期待してなかったけど、まさかぶっ倒れるとは僕も思ってなかったよ。でも子の流れならワンチャン老師の後で教官と手合わせできるかも? 僕もスキルで攻撃するスタイルなわけだし!
「ふむ、確か素手で戦うのだったな? そういうことならお前と立ち会う方がいい。かみ合う相手との訓練の方が今はまだ得るものが多いだろう。かみ合わない相手との戦い方はそのあとだ」
「えっ。でもせっかく教官に見てもらえるなら直接立ち会ってもらわないともったいないよ!」
「稽古の相手をしながら他の者の指導をするぐらいできて当然だ。クロといったか、お前には基礎を叩き込んでやろう」
「あざーっす!」
「ずるいよクロ!」
クロが野球部のノリになってることに突っ込むのを忘れるぐらいショックだよ! 老師との立ち合いなんていつもと変わらな…… あれ? 実はあんまり老師と模擬戦ってしたことないかも? 死にかねない大怪我したりさせたりしそうで怖いもんね。
んー、でもやっぱり教官と戦ってみたかったなあ。残念。
更新速度落とすかもです。今よりもっと!? と言われると辛いですが。というか変わらない気がしてきた。
可能性は所詮可能性ですよね。




