縛り40,猫飯利用禁止
「あ……」
ああ、終わっちゃったよ。まだ試したい攻撃方法とかあったのに……
というか予測だと僕とぶつかる前の時点でまだ五割以上HP残ってたはずなのにボコられただけで詰んじゃうとか情けなさすぎない!? いやまあ人数が多ければ安易度が格段に下がるのはドット絵のRPGの頃から変わらないことなんだけどね。終盤のボスならともかく序盤の、特に全体攻撃やら範囲攻撃やらが無いうちはどうしてもね。フィールドが遮蔽物のない平原っていうのも厳しい要因の一つだよね。って、違う違う、ボスの側に立って反省するより他にやることがあったよ今は。
「ばんざーい!」
考え事をしている間に僕を追い抜いて合流したリンドウちゃんの音頭でみんなが万歳しているのは微笑ましく思えるね、向こうのパーティーの人たちから感じてた不信感みたいなのもなくなってるし。これで本当に僕らが悪い人だったら大ピンチだよね。
「てやー」
「うおうっ!?」
とりあえず八つ当たり気味にクロにドロップキックしておく。戦闘の疲れが有ったみたいであっさり転んで上手い具合に老師にぶつかってくれた。
「いきなり蹴るな!」
「うん、そろそろ老師を止めたほうがいいと思って。そんなことよりドロップの確認と死体の解体をするべきだよ! そっちのパーティーに【解体】のスキル持ちはいる?」
「いや、解体にかかる時間も考えるとコスパ悪いしこっちでは取ってねえんだ。そっちはいるのか? ああ、俺のとこにドロップしたのは牙と皮が一つずつだ」
「【採集技能】だけど一応は俺が。俺のとこには皮が一つだ」
「じゃあ死体はこっちで解体して、アイテムを分けるのがいいかな? ちなみに僕にはドロップは無かったよ」
起き上がった老師が文句言おうとしたりボスが動かないことにようやく疑問を持ったりしてるけど放置で。2パーティーで戦っちゃうと楽になる反面こういうところはどうしても面倒くさいからね。
「いや、ただでさえ助けてもらってんのにこれ以上貰うのもな。それに下位互換のスキルじゃそこまでの数は手に入らんだろ」
「じゃあとりあえず分配のことは置いておいて、こっちで解体しちゃうね! くろ、まずは血抜きしといて」
「血抜きってどうすんだよこの巨体で……」
「あ、血抜きで出た血も素材になるかもなんで確保していいですか?」
あ、リンドウちゃんも解体の方に行っちゃった。うん、まあまずドロップ情報纏めちゃおっか。
「私は~、ドロップ無しですね~」
「ん、じゃあドロップは前衛で戦ってたパーティーのメンバーにそれぞれ皮と牙と肉から一個か二個かな。これだけだと他に有るかも、どういう条件でドロップするパーティーが決まるのかも分かんないね。クロ!」
「ふぅ…… ん、なんだ?」
「ドロップアイテムとしてちゃんと存在するみたいだから、解体方針は他の素材は度外視して肉をなるべくたくさんなるべくいい状態で! よろしく!」
「肉だな、分かった。って、はあ!?」
「クロさん、この分だと内臓も【製薬】に使えるかもしれませんよ?」
うん、あとは二人に任せてよさそうだね。さて……
「くれるって言ってるんだからありがたく貰っとけばいいのに…… というかなんで肉なんて……」
「ミルフィーユさん」
「は、はい!? ごめんなさい!?」
あれ、なんか怖がられた? ぶつぶつ言ってたこと気にしてると思われたのかな?
「いや、MP余ってたらこれ治してもらえるかなと思っただけなんだけど?」
「あ、回復ね。分かったわ」
「ごめんね、うちの回復役解体しに行っちゃって」
さっきは急いで戦線復帰したかったから比較的怪我の軽かった右手しか治療してもらわなかったんだよね。まあ結局間に合わなかったけど。
ともあれ治療してもらえるみたいだし、その間誰から話を聞こうかな? 聞きたい話いろいろ有るんだよね。
「ひいっ!? なによこの怪我!」
「ひでえな、何やったらそんなことになるんだ……」
「お、アレクさんいいところに来てくれたね! 治療受けてる間話聞かせてよ!」
「こっちの疑問を無視して突っ走らないでくれ、というかもうちょっとうちのヒーラーを気遣ってやってくれ。泡吹きかけてるからな?」
「へ?」
アレクさんに気を取られて流してたけど、そういえば怪我がどうとか言ってたっけ? 改めて左手の様子を確認してみる。人差し指と中指が|外側に〈・・・〉折れ曲がってて、割と血まみれ。と言っても返り血の方が多そうだけど。うん、落ち着いてみると割とグロ画像? というか血を流さないと治療しづらいね。
持ち物から水を取り出してぶっかける。
「痛たた…… 沁みる」
「ど、度胸あんな……」
「治すから! ちゃんと治すからもう止めてえー!」
なぜか涙目になりながら必死に詠唱を始めてくれるミルフィーユさん。あ、【ヒール】かけてもらう前に骨の位置は治しといたほうがいいかな?
「えいっ」
「ホントにもう止めてやってくれ、俺でよければ何でも話すから!」
「そうそう、さっき使ってたのって【多重攻撃】系統の補助スキルだよね? しかも攻撃スキルも併用してなかった?」
「そうだが、そんなに勢いよく食いつくことなのか……?」
「まさか最前線といってもいい位置で見られるなんて感動だよ! で、使い心地はどうなの? βでの評価が低かったから使い手ほとんどいなくなるかと思ったんだけど!」
「いや、つってもMP消費スキルとして時々使う程度だから何とも言えないんだが……」
【多重攻撃】は、近接向けのスキルの中でも、MPを消費して、物理攻撃力を上げるスキルでなおかつ効果がINTやMNDによってほとんど変化しない貴重なスキル。なんだけど、β版ではユーザーたちの期待を大きく裏切る仕様の数々で地雷とまで呼ばれたスキルの一つでもあるんだよね。
その最大の特徴はなんといっても驚異的な攻撃回数の増加。【二重攻撃】に始まるスキルそ使い込むことで上位のスキルが解放されていって、【三重攻撃】。【四重攻撃】って感じに強化されていく上に、他のスキルとも併用できるから、終盤まで使い続けられるどころか終盤に行く頃には比類ない火力を出せるようになる。
「良かったらもう一回エフェクト見せてもらってもいいかな!?」
「さっき使ったばっかりでMP余裕ないんだがなあ。まあ戦闘は終わったし構わないか。【二重攻撃】」
「おおー!」
「んで、武器を振ると、こう!」
アレクさんがスキルを発動したことで、大剣の横に大剣の刃の部分にそっくりな立体映像みたいなのが現れて、アレクさんが大剣を振るとそれと同じ軌跡で少し遅れて追従する。
「MPもったいねえからこんなもんで勘弁な」
「うん、ありがと! でもまさかこんな切り札持ってるとは思わなかったよ。というかさっき使ってたスキルまで含めたらほぼ確実に突進を迎撃できたよね」
「突進って、さっきのボスのか?」
「そうそう。消耗の大きさ的になんどもは無理でもピンチを切る抜けて時間を稼ぐだけなら一回二回で良いわけだし、僕らに頼らなくてもどうにかなったんじゃない?」
「なんだと……」
「ああいう状況で最適な行動取るのって難しいからしょうがないね、どんまい!」
とまあここまでの話の流れだと【多重攻撃】はすごく有用そうに見えるんだけど、欠点も同じくらい多いんだよね。
まず一つ目に挙げられるのが燃費の悪さ。発動時に消耗する分に加えて発動中もガンガンMPを持っていかれる。まあこれはふだんMPを使わないスタイルのプレイヤーがMPっていうリソースを無駄にしないために取得するっていうパターンが多いことを考えるとそこまで気にしなくても大丈夫なんだけど、それに加えて、【多重攻撃】の発動中にスキルを使うとヒット数の上昇に合わせてスタミナやMPの消費が倍増するっていう超絶短期決戦仕様。
それだけのコストを払って発動しても、剣速がオリジナルよりも劣る分一撃のダメージも小さくなるし、挙句の果てには連撃系のスキルを使うとオリジナルとコピーがかち合って相殺されたりとか、ある種類の範囲攻撃の範囲が重なると相殺しちゃって威力の伸びが著しく下がるとかの欠点が有って、なおかつコピーが消耗した耐久度は発動後にオリジナルに還元されるのでかち合っちゃうと敵の攻撃を相殺するののさらに二倍も耐久度が持ってかれて……
ともかく! まさかこんなところで見られるとは思ってなかったんだよ! しかも初期スキル五枠のうちさらにもう一つを攻撃スキルに割くなんて、下手したら僕以上にピーキーなプレイスタイルだよ!
「あー、俺からもいくつか質問してもいいか?」
「ごめんごめんぼーっとしてた! いいよ、何でも聞いて!」
「じゃあ一つ、いや二つだけ。まず、ボス相手に何したんだ?」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれた!」
うん、我ながら頑張ったというか、今回のMVPと言っても過言じゃないからね!
「ボスの突進にタイミング合わせて」
「あの距離でそれができる時点でびっくりなんだがな?」
「右手のナイフをボスの左目に、左の二本貫手をボスの右目に叩き込んで」
「えげつねえな!?」
「んで仕上げにふっ飛ばされる前に左手で【マナバレット】を暴発させたんだよ!」
その結果見事に両目の視力を奪えたというわけだよ! まあまさか回復される前に倒しきれるとは思わなかったけどね。
答えを聞いたアレクさんが遠い目をしてるんだけど、感想もしくはもう一つの質問は? ミルフィーユさんはミルフィーユさんで目をつぶって【ヒール】かけ続けてくれてるんだけど、もう流石に治ったよ?
「立ち直るのに時間がかかりそうなので~、二つ目の質問は私がしますね~?」
「やっほいコノカさん。別に僕が数を指定したわけじゃないし全然いいよ?」
「いえ~、どうせ聞きたいことは同じなので~」
そう言って解体作業に従事してる二人の方に目線を向けるコノカさん。あの二人がどうかしたのかな?
「なんで~、よりにもよって~、『肉』なんですか~?」
「へ? そんなこと?」
周りを見回すと、老師以外の人全員がこっちを見ていた。さっきまで目を瞑ってたミルフィーユさんも含めて。そんなに不思議かな?
まあ別に隠すことでもないし、どうせすぐに分かることだし、堂々と宣言させてもらおうかな!
「景気づけにドドーンと焼肉パーティーを開催するためだよ!」




