縛り33,餌を投げてはいけない
更新頻度を上げようと思ってちょっと短めで妥協して投稿。
でも多分次から元の長さに戻す。
僕の目線の先には、あおむけの状態からむくりと起き上り、敵意に満ちた目でこっちを睨んでくるボスの姿。対してこっちは武器無しスタミナ無しついでにまともな威力の攻撃魔法も無しの無い無い尽くし。有るのはやる気と呪いの装備とあとパーティーメンバーくらいかな?
「さて、どうしたものかな」
チャットでは大口を叩いたものの結構よくない状況なんだよね。指針はいくつか考えられるけど、どれもあんまりパッとしないというか、背負うリスクの割にリターンが少ないんだよね。
理想は休憩が終わったクロが十分なヘイトを稼いでターゲットをクロに移すことなんだけど、クロにダメージを稼がせるには近距離で戦い続ける必要があるから、リスクを考えるとさけたほうがいいんだよね。かといってダメージソースを老師に頼り切ると今度は老師にターゲットが行っちゃうし……
となると、
『プランBで行くよクロ』
『行くよじゃねえよそんな取決めしてねえだろ』
『なんだかかっこよさげですけどどんなプランなのですか?』
『向こうの人たちの手当てはおおよそ終わった? リンドウちゃんにも役割があるからよく聞いてね?』
『はい!』
ボスの突進を避けながら指示を出していく。スタミナが減ってる影響でかなり体がだるいけどここで気を抜くと洒落にならないからね。
『まず、リンドウちゃんはそっちにいる人達と一緒に辺りに落ちてる石を片っ端から集めてくれる?』
『石、ですか? 分かりました』
『そこそこの数を集め終わったら全員分をシーフの人に持たせてトレードでクロに押し付けさせてね』
『はい。でも石なんてなんに使うんですか?』
ここまで言えばもう僕の思惑が読めたのかクロが無言になっているけど、現状これがかなりベターな作戦だしねえ。
『決まってるじゃん! ボスに向けて投げつけさせるんだよ!』
プランBのBは暴投のBだよ!
『プランの修正を求める』
なんでさ!
「ブモオォーッ!」
現実の猪の鳴き声って聞いたことないんだけど猪って鳴くのかな? 鳴くとしてもこんな雄叫びみたいな鳴き方するのかな?
そんな疑問を抱きつつも突進を避け続けていく。途中何度かひやっとすることはあったけれど、その時もスタミナを大きく消費するような動きで回避すればどうにかなった。近距離で戦ってたら何発か貰ってたのは間違いないし、今のところは作戦に不満はないね。
『よしっ、準備できたぞ』
『ん、りょーかい』
あの後結局僕の出した第一案は却下され、クロの出した修正案を採用することになった。まあ投げつける案は威力はともかく命中精度に難が有ったのは確かだしね。
クロの方に視線を向けると、すでにハンマーを構えてやる気十分の様子。そこから少し離れた場所ではシーフの少年がいぶかしげな顔をして手に持った石ころを見つめている。そういえば少年の名前も後で聞かないとだね。
『ぶっつけで大丈夫? ならよし! 全砲門、ファイアー!』
『今答え聞く気無かったよな!? まあいい! 行くぜ!』
ボスが突進を仕掛けてきて、減速し、一旦停止する。方向転換して、また突進。そのパターンの原則のタイミングで、おそらくは【投擲】のスキル持ちのシーフの少年が正確に石を投げる。ボスではなく、クロに。
子曰く、
『キャッチボールは無理だがノックならいける』
と。
硬いもの同士をぶつけた時の音が響き、石ころが砕け散りながらも一直線にボスに向かってとび、破片の大半がそのお尻に見事に命中する。老師にもスキルを控えさせてたからちょっとぶりのまともなダメージだね!
「よっしゃもう一丁!」
そんな掛け声とともに次々と暴力的なノックが撃ち込まれていく。ノックをするなら相手にグローブを嵌めさせようよクロ。でも足の形状的にグローブ嵌めたらきっと弱体化だよね。上手いこと言って嵌めさせられないかな?
『次の突進の後砲撃はいったん中断! 老師はバフをかけ直してスキル連打!』
「しゃあっ!」
指示を受けた老師が気勢を上げて突っ込んでいく。見た感じクロの攻撃は老師のスキルにやや劣るかな? でも距離を問わず、それこそタイミングさえ合えば突進中でも当てられるから時間当たりダメージで言えばクロの方がちょっと高いね。
相変わらずターゲットは僕に固定されてるし、ようやく戦闘がはまってきたかな?
「おい、その攻撃は危ねえぞ気を付けろ!」
と、調子づいてきたタイミングでアレクサンドロスさんの警告の叫びが上がった。このタイミングで行動パターンの変化かな? 何事もままならないね。
僕にはボスは突進の前のモーションから動いていないように見えるんだけどね。ん? なんで動いてないんだろ?
そんな風に呑気に観察していた僕に向かって、今までとは桁違いの速度でボスが突っ込んできた。
「って、うわあ!?」
クロがボケたら突っ込む人がいなくなる……




