縛り31,弱パンチ、弱キックのみ
群像劇という趣旨でもないのに視点コロコロ変わるの本当はあんまり好きじゃないんですけどね。要精進。
老師の強烈な攻撃を受けたボスは今まで僕がちまちま積み重ねてきた些細なヘイト値など関係ないとばかりに一心不乱に老師を追いかけまわしている。まあ老師ならボスの突進には一歩譲るとはいえそう変わらない速度で走り回れるしある程度小回りも聞くからしばらくは任せていいね。老師のスタミナがなくなるまでは適正なペースで有ればそこそこ時間もあるしその間に追いついてきたクロたちと作戦会議かな。
「えっと、これは、どういう状況だ?」
「僕らより先に挑んでたパーティーが撤退しようにもできなかったところを奇襲かけて救援中。戦闘入っちゃうと逃げられなくなるみたいだけどリンドウちゃんたちはどうする?」
「いやここで俺らが参戦しなかったら困るだろ……」
「私はクロさんが守ってくれるらしいので大丈夫だと思います?」
「確かに即席パーティでやりあうよりは二人が参戦してくれた方がありがたいけど、本当にいいの?」
「私たちはあれを倒せるから倒しに来たんですよね? えっと、あの人たちと協力して戦うなら楽勝なのでは?」
「そう言われるとそうなんだけど。うん、ありがと! じゃあクロは老師が頑張りすぎてるから一旦下がらせてボスを殴りまくってきてね。リンドウちゃんは向こうのダメージ受けてる人達を回復させて食べ物も食べさせてきて」
「で、お前はどうするんだ?」
「僕も攻撃に加わる。と言いたいところだけどその前に向こうの人たちと簡単な打ち合わせをしてくるよ。そういうわけだから老師が息切れする前にさっさと参戦してきてね」
クロの背中を老師が戦ってる方に押し出した僕は、リンドウちゃんを連れ立ってもう一つのパーティーの人たちのところへ向かう。
なんというか皆さん、僕らが来て気が抜けたのか老師の戦い方が異様すぎるせいかどことなく呆然としてるみたいだね。僕らが近づいても何の反応もしないし。とりあえず話を進めたいしまずは自己紹介かな?
「いきなり横殴りしてごめんね。僕は一応パーティーのリーダーのユーレイだよ。よろしく」
「わ、私はリンドウと言います」
「お、おう。俺はアレクサンドロスだ。って、そんなことよりお前何であれに背中を向けられるんだ!?」
「うん? 確かに威圧感みたいなのは感じるけどそこまでではないかな? リンドウちゃんは?」
「私は特に何も、というかまだ戦ってないので……?」
ううん、流石に僕よりも低いレベルでボスと戦ってみようとは思わないだろうし、そうなるとあれかな? その逃げれなくなるプレッシャーっていうのがある種の状態異常で、MNDが高ければレジスト出来るとかかな。僕はMNDだけは高いしそれが一番ありそうな気がする。
と、そんなことは今考えることじゃないね。
「とりあえずリンドウちゃんはダメージ受けてる人の治療を手伝ってくれる? それでアレクサンドロスさんたちには撤退は出来なくても大人しくしてるかこっちと合わせて動くか決めてもらいたいんだけど良いかな?」
「流石にこの状況でただ世話になるつもりは無いが、無茶な要求は突っ撥ねるぞ?」
「基本的にはこっちでタゲは受け持つから、十分にヘイトを稼げた時に後衛の人に魔法攻撃をしてもらうと思う」
そんなにハードルの高い要求でもないと思ったんだけど、アレクサンドロスさんは何やら渋い表情。
「すまんがちゃんとヘイトに関する安全が保障されるまでは魔法は撃たせたくないんだ。さっき連携が崩れたのもそれが原因だしな、もしかしたらあのボスは魔法攻撃でヘイトが溜まりやすいのかもしれん。俺自身はもちろん攻撃に加わらせてもらうが、魔法は回復系だけにしてくれ」
「ヘイトは挑発系スキルで稼いでたの?」
「ああ。何か心当たりがあるか?」
「もしかしたらだけど、挑発自体が何回かレジストされてたのかも。まあ無理に毎回攻撃しろとは言わないから出来れば試してみて。アレク=サンには別のタイミングで指示を出すからいつでも動けるように体勢を整えといてね」
「なんだその呼び方は? あだ名か? まあ別にかまわんが……」
その後もタンクの人にリンドウちゃんも含めた後衛組を守っとくように指示を出してようやく僕も参戦。美味しいところはまだ残ってるかな?
◆ ◆ ◆
「老師! 一旦下がれ! スタミナ切れて動けなくなってからじゃ遅いぞ!」
「クロか、いいところに来たな! このまま二人で殴り倒そうぜこいつ!」
「良いからとりあえず大人しくしててくれ!」
「スタミナか、すっかり忘れてたぜ! 【吸気功】」
ユーレイの指示通り老師と合流したはいいが老師はろくにスキルも使わず殴りまくってたみたいで、ボスモンスターはたいしたダメージを受けているように見えない割にやたらと鼻息を荒くしていた。
まあスキルを乱発するような戦い方をされてたら今頃スタミナすっからかんで動けなくなったうえに俺にターゲットを移す苦労も増してただろうからありがたいと言えばありがたいんだがな。
老師に向かって突進していくボスモンスターに掬い上げるように振るったハンマーがかろうじて間に合って体勢を崩してその速度を落とす。今まで被弾した様子が無い以上サポートしなくても大丈夫なんだろうが、さっき使ってたスキルは確かスタミナ回復を早めるものだし、なるべく動きを抑えてさっさと復帰してもらうに越したことはないしな。なにより攻撃を当てないことには何も始まらねえし。
「そろそろ俺も殴りに戻っていいか?」
「まだ一分も経ってないだろ! スタミナ満タンにしてからにしろ、無駄なリスクを増やさないでくれ」
完全に戦闘狂と化した老師と会話していたら脇腹に衝撃が来て一瞬呼吸が止まる。どうやら目の前で暴れまわるボスモンスターの尻尾が当たったらしい。幸い鎧の上だったのでせいぜいびっくりする程度だがまったく意識できていなかったし、軌道も読みづらいな。
素手の老師よりもハンマーを振る俺の方を脅威と認めたのか最初の十五秒か二十秒くらいで標的を俺に切り替えている。突進に関しては避けきれるものの今のように近距離でジタバタと暴れられるとどうしても細かいダメージは避けられない。俺は防御力も回復力も高いから大した問題にはならないが老師はかなり危険だろう、というか今までどうしのいでたんだ?
振り回される牙や前足をどうにかよけたりハンマーの柄で受け止めたりし、大ぶりな一撃が通り過ぎたタイミングで蹴飛ばしてその反動で少し距離を取る。
「くそっ、割としんどいな」
「スタミナ九割超えたし戦線復帰するぞ! いいよな!」
数値的、あるいは肉体的なスタミナは高いステータスのおかげでほとんど減っていないが、自分よりも大きな生き物と戦うことによる精神的な疲労がこの短い時間でもかなり積み重なっているのを感じる。むしろ鎧もつけないで戦ってる老師がなんであんなにピンピンしてるのか謎なんだが、段々ねじが一本外れてるだけのような気もしてきたな。
「ホアチョー!」
「老師、攻撃にもちゃんとスキルを使ってくれ! ヘイト管理の問題もあるからとりあえず打てる時に一発叩き込んだら距離を取ってくれ」
「分かっー! 【正拳】! アチャー!」
どうやら言われるまでスキルを使うのを忘れてただけっぽいなこれ。老師のスキルは何だかんだ俺が全力でフルスイングするのとおんなじくらいの威力だろうし、これでようやくまともにダメージを稼げるな。
「お待たせ二人とも! なんか無駄にちまちまやってるけど僕が来たからにはガンガン行くからね!大丈夫、難易度高いことは言わないから!」
そんなこんなでしばらく戦いを続けていたら騒がしいのが合流してきた。正直言うと俺としては回復役の方に来てもらってこのまま堅実に戦いたかった気はするんだがな。ともあれこいつが来たってことは向こうの人らとの話も終わったんだろうし、多少気楽にはなる、かな。
ジタバタ暴れるのをどう凌いでいたのかという疑問に関して老師より一言。
老師「避けてたぞ?」




