縛り26,現金使用禁止
遅筆+新生活の忙しさで予想以上に遅れてしまいましたorz
定期更新の再開はまだしばらく厳しいと思いますが完結はさせますので、生暖かく見守って下さると幸いです。
スマホ投稿なのでスペース等ずれてるかも。本日中に改稿したい……
「おかえりみんなー」
「なんだ、案の定元気そうだな。心配して損したぜ」
「そっちはみんな悲惨なありさまだね、成果はどうだった?」
「うう、早くお風呂に入りたいです……」
「成果なあ…… 思ったよりパッとしなかったんだよな。死体を解体しても甲殻なんかは上手く採れたが糸の方はさっぱりでドロップした分しか入手できなかった」
「まあその辺の報告はとりあえず置いといて部屋に行って身繕いしてきなよ。スミスさんが着替えとお湯を用意してくれてるからさ」
宿屋の玄関で狩りに出てた三人を出迎えたんだけど、三人とも怪我はあまり目立たないけど体中ベトベトに汚れていた。とりわけ老師は何をどうやればそこまで汚らしくなるのかわからないレベルだった。といっても当然のように宿の個室に風呂なんかついてないからお湯で濡らした布で清めるので精一杯なんだよね。
お風呂に入りたいなあ……
「着いてくるな! 男子は隣! 二十分後にそっちに話し合いに行くから」
「お、おう。すまん」
クロと老師を隣りの部屋に追いやって女子部屋に入る。ちなみに僕が昼まで寝ていた部屋が女子部屋でスミスさんが待機していたのが男子部屋。部屋の大きさに違いはないけどまあこの分け方で妥当だよね。
しょぼくれた顔つきのリンドウちゃんを引っ張って部屋に入ると、大きめのタライにたっぷりのお湯、その隣に一回り小さいタライ。そして服と一緒に置かれた紙切れには、
『サイズを測れていないのでアバウトなデザインだが一応リンドウ君の着換えを作っておいた。大きい方の桶のお湯で体を清めてくれればいい。小さい桶は洗い物を入れるのに使ってくれ。 スミス』
と書かれていた。
「なるほど、汚れまで再現されちゃってるんだね。これは早いところどうにかして風呂に入る手段を確保しないとだね」
「え、これでどうやって体を洗うんですか? 入るにはさすがに小さすぎますし、かけて洗ったら床がびしょびしょになっちゃいますよ?」
「リンドウちゃんはこういうの知らない感じ? ほれほれ、まずはさっさと服を脱ぐのじゃ~」
目の粗いタオルをお湯に浸しつつ気持ち悪いおっさんを意識した台詞を放った僕は、直後に目の前に現れたものに対して動きを止めた。
すなわち、リンドウちゃんは着やせするタイプだったという現実に。
出会った時から中学生にしてはと思っていたけど、これはもはや完全に僕の負……負けてない! むしろこの過酷な環境下では無駄を削ぎ落とした軽量化こそが生存率を高める勝者への道のりだよ、軽量化、空気抵抗低減、動きを阻害しないし、良いことずくめ!
でも待てよ?見た感じリンドウちゃんとの差は一回り以上有るね。重量に換算すると200グラムくらいかな?脂肪は1グラム辺り7キロカロリーだから、カロリーで考えると約1500キロカロリー近い栄養の貯蓄になる。小柄な成人女性の標準的な基礎代謝が一日に1800キロカロリーくらいだから、成長期とか動き回ることを考慮しても活動出来る時間にはまるっと半日くらいの差があることに……
瞬間的な能力の軽微な差と、半日間の行動時間が両側に乗った天秤が僕の中でゆらゆら揺れて、直後に大きく傾いた。
「負っ…………けっ…………たっ…………!!」
力なくくずおれた僕に、リンドウちゃんが遠慮がちに声をかけてきた。
「あの、それで、どうしたら良いんですか?ちょっと寒いです……」
あ、そういえば服脱いでそのままだったね。ごめんごめん今やっちゃうねー。
くずおれた時にタライに落としちゃってたタオルを救出した僕は心の中で悔し涙を流しつつリンドウちゃんの体を拭いたのだった。
ついでに自分の髪も洗ってたら集合時間に遅れたけど、気にしたら負けだよねっ。
自分で決めた集合時間に遅れたせいでクロがぐちぐち言っていたけど適当に流しつつ、本日二度目のミーティング。とは言っても朝みたいに話し合うべきことや決めるべき方針がいっぱいあるわけでもないから、簡単な報告を済ませたら後はお楽しみターイムだけどね。
「じゃあまずはクロたちの成果から聞かせてもらおうか。さっきちょっと聞いたけど、もう少し詳しくお願い」
「ああ、だがドロップ品の分配方法の方を先に決めておいたほうがいいんじゃないのか? 後々もめると面倒だろ」
そういえばすっかり忘れてたや。確かにこの状況で仲間と争うことになるのは避けたいよね。でもこういうのって絶対にもめない分配方法なんてないしなあ……
「う~ん、ドロップした分はもう原則入手した人のものにするっていう方向で、モンスターを解体した分はどうしようか? リンドウちゃんや老師は何か希望ある?」
「えっと、私は戦闘にはほとんど参加していないのでドロップ分だけでも貰いすぎなぐらいだと思います」
「そっか、じゃあリンドウちゃんに関しては作った薬にちゃんと値段を付けることで調整することにしようか。老師は?」
「……なあ、さっきからどういう話をしてるんだ?」
「「「え?」」」
真面目くさった顔でとんでもない質問を投げかけてきたろ老師に、僕たちは思わず呆気にとられてしまう。行動する際に物事を考え込まないタイプだとは思ってたけど、ここまで?
「モンスターを倒した時に手に入るアイテムをどう分けるかっていう話なんだけど、アイテムが手に入るのにはさすがに気づいてたよね?」
「おお、なんかいろいろと使い道の分かんねえアイテムがあるな。これってどう使うんだ?」
「今まではどうしてたの?」
「どうもしてねえよ? 倒した数の目安みたいなものだと思ってたしな。で、これって何なんだ?」
「もしかして、老師ってゲームで遊んだこと自体ほとんどないの……?」
今時のゲームならVRゲームでなかろうとオンラインゲームでなかろうと『素材アイテム』という考え方はかなり一般的なはずなんだけど、それすら知らないって思った以上にゲーム初心者なのかもしれないね。
よく見てみれば老師の装備はレベルに対して非常にしょぼい。きっとアイテムの換金方法が分からなくて最初の所持金で買った分そのまま使ってるんだろうね。
「実家にいたころは親がそれなりに厳しかったし体動かすほうが好きだったからゲームはあんまし経験ねえな。つっても格ゲーとかしたことはあるし、ともだちに薦められて携帯端末のRPGをやったこともあるぞ?」
「そのRPGのタイトルは覚えてる?」
嫌な予感を抑えつつ尋ねてみたところ、一番返ってきてほしくなかった答えが返ってきた。
「なんつったっけ、レトロ……? レトロウィンドあーるぴーじー…… だったか? とにかくなんかそんな感じのやつだ」
名も知らぬ老師の友人よ、この時ばかりは恨むよ? 見ればスミスさんとリンドウさんは分かってないみたいだけど、クロは僕と一緒でそのゲームをやったことがあるから遠い目をしている。
『レトロウィンドあーるぴーじー』、つまりはまんま『昔風RPG』。簡略化されたシステムと全編ドット絵、音楽も16ビット時代を意識した作りになっているという作り手のこだわりが出ている良作なんだけど、なぜよりにもよってこれなのかっていう思いは抑えられないよね。消耗品やイベントアイテム以外のアイテムはほとんどないし、スキルごとの熟練度なんてものも無ければステータス割り振りもない、山ほどの隠し要素や意図された裏技が売りの『レトロウィンドあるぴーじー』は最新のVRMMOである『AWO』とは対極に有るといっても過言じゃない。
ん、でもこれって考えようによっては僕たちで一から教えられるってことかなもしかして?
そう考えると俄然やる気が出てくるね!
「つまりモンスターを倒してもお金を落とさない代わりにこういうアイテムを落とすから、欲しい人に売ってお金に換えるんだよ。でも老師そういうの苦手そうだし、まとめて売り買いした方が楽な面もあるからこっちで一括で現金換算してお金で渡せばいいよね?」
「お、おう? よく分からねえけどそれでいいぞ」
「じゃあ換金するアイテムの換金が終わったらその分のお金渡すね。それとも防具を現物で支給した方がいい?」
「防具は自分で買いたいぞ」
スミスさんの発言を受けてスミスさんとアイコンタクトを取ると、頷いて話を引き継いでくれた。
「防具に関しては希望する性能やデザインを言ってくれればこっちで作れるよ。手持ちの素材で作れるかは分からないから素材集めに行ってもらう可能性はあるけどね」
「マジか! どんなデザインのでも作れるのか!?」
「材料があればね。といっても外見を整えるのはそこまで難しいことじゃないからね。たいていのはどうにかなると思うよ」
「じゃあ、『山吹色の道着』なんかも?」
老師のよく分からないリクエストに対して、スミスさんは珍しく楽しそうに唇の端を上げて答えた。
「もちろん。その注文承ったよ」
「よっしゃあっ!」
二人で盛り上がっているけど、なにがそんなに楽しいのかさっぱり分からなかったので、したり顔で頷いているクロに訊いてみた。
「なんのこと?」
「えっ、お前知らねえの?」
「うん、全然知らない」
「あれはほら、なんつうか…… 男のロマンだよ。夢だな夢」
「ふ~ん」
まあとりあえず一番難しい部分は解決したみたいだし、さっさと話進めちゃおっかな。
夜に何をするかでこのスタートダッシュの正否が決まると言っても過言じゃないからね! 戦いは始まる前に九割方勝敗は決しているのだよ!
6月10日 誤字修正




