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僕が死ぬまで縛るのをやめない!  作者: + -
第二部 デスゲーム開幕編
24/162

縛り22,眠り技使用禁止

間に合った……

 頭が痛いし体も怠い。ここはどこだろう?

 確か、クロたちと一緒に今後の方針を相談してて、呪いのナイフを抜いたんだっけ。それで一気にしんどくなってぶっ倒れて、じゃあここはどこかのベッドの上? 誰かが運んでくれたのかな?

 重い目蓋を無理やりこじ開けて横目に室内を観察すると、僕が今寝ているベッドの他には椅子が一脚あるだけの飾り気のない部屋で、その椅子には見覚えのある男性が座っていた。


「ぅ……ぁ……ん?」

「ああ、無事に目が覚めたね。よかったよかった。おはようユーレイ君」

「ぉ……ぅ」


 「スミスさん?」「おはよう」って言おうとしたのに喉がかすれて声がちゃんとでない。全身怠いしともすればもう一回気を失っちゃいそうになる。それは流石にヤバそうだから耐えないとだよね……


「ああ、声が出ないみたいだね」

「………………」

『ふむ、だったらこっちのほうが良いかな?』

『あ、ホントだ。フレンドコールなら問題なく話せるや。で、今どういう状況で僕は何時間くらい寝てたの?』

『それも含めて説明するために僕が残ってるわけだからね。それよりもまずそのナイフを鞘に納めたほうが良い。それが原因なんだろう? 持ち主じゃない僕らにはそれすらできなくてね』


 そう言われて初めて気づいたけど僕は右手に禍々しいナイフを握ったままだった。こんなの持ったまま寝てたんだ僕…… まあ不埒な輩対策と思えば問題ないかな!

 なんてしょうもないことを考えながら言うことを聞かない体を無理やり動かしてナイフを腰の鞘に納めると、それだけでなんだか少し視界がクリアになったような気がした。


『あと満腹度の表示もかなり危険な領域に踏み込んでたからこれを飲むといい。料理系のスキルはないから宿屋のおかみさんが作ってくれたものだけどね』


 そういってスミスさんが木のお椀に入った甘い香りのするスープを手渡してくる。これは、フルーツスープかな? 飲むと口の中に爽やかな甘さと酸味が広がる。スープを飲んだくらいじゃ心象風景が素っ裸になったりはしないけど栄養価はかなり高かったみたいで、極度の空腹で麻痺していた飢餓感が戻ってくると同時に少しだけ満たされた。


『で、結局僕は何時間くらい寝てたの?』

『そんなに長い時間でもないよ。ここに担ぎ込まれるまでの時間も含めて一時間半くらいだね』

『え? それしか経ってないの? 満腹度とかすごい減ってるしてっきり一日ぐらいたっちゃったのかと思ってたよ』

『たぶんそれも呪いのペナルティーの一つなんだろうね。で、β時代の呪いの装備にそこまでひどいものはなかったと思うんだけどいったい何をどうやったらそうなるんだい? 原因はそのナイフなんだろう?』

『うん、僕もまだ全部把握してるわけじゃないんだけど……』


 満腹度の急激な減少は『狗神の牙』の呪いの効果でほぼ確定。でも実は満腹度の減少によって直接的に意識を失うようなバッドステータスが引き起こされることは――少なくともβやログアウト不能になる以前は――無かった。

 気絶に類するバッドステータスの原因になりうるのはスタミナの完全な枯渇か、|魔力(MP)の消耗による精神系のバッドステータスあとは鈍器や魔法などの外部要因。

 とまあ御託を並べてみるまでもなくステータス画面を見れば一目瞭然なんだけどね。


『かくかくしかじかこれこれこういうことだからそうなんだよ!』

『すまない、簡潔に説明しようとしてくれるのはありがたいけれどもう少し伝わりやすい言葉で頼むよ』

『呪いの装備同士の共鳴と相互強化♪』

『それは、かなり不味いんじゃないのかい?』


 実のところかなりどころじゃなく厄介なことになってる気もする。今だって特に行動してるわけでもないのにゆっくりとしかスタミナが回復してないし、ナイフを抜いてしまえばステータス低下とスタミナ減少、それに加えて満腹度低下のペナルティーで戦闘どころじゃないことになるのが目に見えてるんだよね……


『うん、何が不味いって下手したらこれ手持ちのお金や素材じゃ神殿に行っても呪いを解除できない可能性がありそうなんだよね。まあこの装備を辞めるつもりはないから問題ないんだけどさ。最悪素手で戦ってもいいしね』

『それはボスを倒すどころか普通に生活するのも厳しいんじゃないのかい……?』

『うん、まあどうにかするしかないよね。で、クロたちは今どうしてるの?』

『僕が同行していないこと以外はおおよそ君の指示通りだよ。早く強くならないと逆に危険なのは道理だし、君の提案はその点合理的だからね』

『でもそれじゃあスミスさんが危ないままなんじゃ……』

『大丈夫だよ。僕も一応パーティーには入ってるからほんの一部だけど経験値は入ってる。ほら、レベルも2に上がってるしね』


 う~ん、確かにスミスさんはもともと戦闘要員ではないしこの場合は町にいたほうが安全なのかもしれないけど、僕のせいで迷惑かけてると思うと心苦しいなあ。早いところ復帰して挽回しないとだね。


『で、僕は目覚めたわけだけどスミスさんはこの後どうするの?』

『さっきまでと一緒さ、ここでスキル上げをする。他に何かするべきことがあるなら別だけどね』

『うん、それでいいと思うよ! あとで素材も集めてくるね! 僕は三十分ほど寝てスタミナ回復させるからよければ適当なところで起こしてくれる? あ、あと満腹度も不安だから何か食べモノがあれば貰えたら嬉しいかな』


 と、僕としては不快にさせるような事を言ったつもりは全く無かったんだけど、スミスさんは苦々しい表情になってしまった。これはもしかして、食べ物に余裕がないとかそういう状況なのかな。もしくは今迄みたいに素材を換金することが出来ないとか……


『ああ、すまないね。ちょっと思い出してしまっただけだから気にしないでいい。食べるものは有るには有るが無理して食べる必要は無いということは分かっておいてくれ。なんなら僕が買ってきてもいいしね』

『……どういうこと?』

『食べてみればわかると思うよ』


 そんなことを言ってスミスさんはメニュー画面を操作するとパンを取り出した。見た目は何の変哲もない丸いパンで、少なくともゲーム時代はNPCから買える満腹度補給アイテムの中でも最もありふれたものだったはず。これのどこら辺がそんなに物騒なものなんだろう?

 僕は心の底からそう思っていた、少なくともそのパンを口に運ぶ時までは。手に持った瞬間に気付くべきだったのに……


「うっ、むぐ……!?」


 なんというか、本当は作ってくれた人や元になった食材のことを考えるとこういう言い方はしたくないんだけど……


『なにこれ!? こんなに不味いパン食べたことないよ!』

『すまない、とりあえず水を……』


 スミスさんからコップに入った水を受け取って口の中のものを無理やりに流し込む。パンの味を一言で表すなら無味無臭。そのくせ食感はパンのままで、一噛みごとに何のうまみも無いまま口の中の水分だけを奪っていくという飽食の時代を生きる現代っ子にはとても食えたものじゃない代物だった。


『これは、どういうことなの? さっきのスープにはちゃんと味があったのに』

『どうやらサーバー移動のときにメニューのアイテム欄に入れていた食料アイテムなんかから味やにおいが抜け落ちているらしくてね。さっきクロ君が言っていた話ではポーションなんかも水と同じような味になっているらしいよ』

『何かの不具合なのかな?』

『そんなわけだから今それを食べることはないよ。何か買ってくるからしばらく待っ……』


 そんなことを言いかけたスミスさんを無視してパンの残りを一息にほおばって、無理やり水で流し込んだ。うん、確かに美味しくないけど、一昔前の味覚際限がなかったころのゲームの回復アイテムだと思えば食べられないことはないよね。


『じゃあ満腹度も回復したし僕は寝るね! おやすみなさい!』


 呆然としているスミスさんに一言挨拶をした後、僕はそのまま夢の中へと直行した。VRゲームの中で夢を見るのかははなはだ疑問だけどね!



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