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僕が死ぬまで縛るのをやめない!  作者: + -
第一部 VRMMO編
20/162

縛り19,波動拳使用禁止

 さて、今僕の目の前では腰のまがったお爺さんと胴鎧だけ着けてないあからさまな鈍器を携えた青年のストリートファイトという珍妙な風景が繰り広げられようとしてるところだよ。

 青年というかクロはハンマーを右肩の位置に構えていて、対するおにーさん(お爺さん)は無手のまま。なかなか風変わりなスタイルだからクロも困惑してるみたいだね。


 僕の見立てではこの勝負は若干おにーさんに有利なんじゃないかな。クロのスタイルは持久力特化だから十分な火力が用意できる人にはなかなか勝てないぐらいの強さしかないしね。っと、始まったかな?


「【鉄拳】! 【力戦奮闘】! 【正拳】! そおりゃあ!」

「うおっ!?」



 先に動いたのはおにーさん。自分専用buffの重ね掛けからの攻撃スキルで開始早々必殺ともいえる一撃を繰り出した。いくらクロがパッシブスキルで高い攻撃力と耐久力を持ってるって言っても、短時間だけ爆発的にステータスを高めるスキルに比べると単品での上昇量は見劣りするし、アクティブスキルによる高威力攻撃を相殺できるような手段は持ち合わせてないんだよね。

 ちなみに【鉄拳】は攻撃スキルじゃなくて、拳を一時的に硬化するbuffスキルで、【力戦奮闘】は二十秒くらいの間STRをやたらと上昇させるスキルだね。言うまでもないかもしれないけどどっちもいわゆる不人気スキルの部類に入るよ。なにせ持続時間が大して長くないわりにスタミナ消費はそこそこ重いしそもそも素手を硬くするぐらいならナックル系の武器を使うべきだし、STRを上げたところで攻撃力が目に見えて上昇するような武器系統は多くないからね。


「そりゃそりゃそりゃそりゃぁ!!」

「ちいぃぃぃっ!」


 圧倒的速度を伴って放たれた右の拳がクロのがら空きの胴体に突き刺さって、クロのHPが一気に二割以上削れた。さらにそこからクロにハンマーを振り下ろす隙を与えずに連撃を叩き込んでいくクロは必死にハンマーの柄の部分で受けようとするけど、両手を自由に攻撃に使えるおにーさんに対してハンマーの柄だけで攻撃を防ぐのは無理があって、ロクに反撃ができないままじわじわとHPを削られていた。

 たまらずに大きく後ろに下がって距離をとるけど、それは実は悪手なんだよね。それもかなり最悪に近い。


「甘い甘い! 【正拳】!」

「グハッ!」

「もう一発! 【正拳】!」

「クソッタレェ!」


 一瞬だけ距離はあいたけど、すぐにおにーさんが間合いを詰めて助走の乗った正拳の二連打を放った。クロは二発目の【正拳】にはかろうじて防御を間に合わせてみたいだけどそれでもクロの残りHPは四割程度しか残ってない。

 でもクロもようやくおにーさんの戦闘スタイルとステータスの予測ができたみたいで、今度は防御に回ったり距離を取ろうとしたりすることなく、真正面から力づくでハンマーを叩き込みだした。

 至近距離でのダメージレースは開始数秒ですでに均衡を失い、今度はおにーさんのほうが後ろに下がって距離を取ろうとした。AGIにはかなりの差があるから、クロにはおにーさんがしたように引き離された分の間合いを一瞬で詰めることなんてできなくて、切れていたbuffをかけなおす時間を与えることになってしまった。


「かっかっかっ、なかなかやるのぅ」

「クソッ、すばしっこい!」

「あ、ジュース飲み干しちゃった」


 一時の休止を挟んだ後で再びおにーさんがクロに突っ込んでいった。発動させたスキルはさっきまでと同じ【正拳】。だけど一直線に伸びた拳は今度はクロの胴体に届かずに無骨な鉄の塊に阻まれた。

 拳で殴ったとは思えない甲高い音が鳴り響いて双方の体勢が崩れた。そこから再び殴り合い。無茶苦茶に見える動きでハンマーを振り続けるクロと、時折後ろに下がってやり過ごしながら凄まじい手数で拳を叩き込むおにーさん。buffが乗ってる状態でさえ与えるダメージはクロのほうが多いけど、殴り合いまでに削られていた分があるせいでかなりクロに不利な状態だね。

 とはいえbuffが切れればスキルなしでの攻撃じゃあクロにはロクなダメージは通らないだろうからまだ勝負は分からないかな?


「【ローリングハンマー】!」

「つうっ!?」


 buffが切れる直前のタイミングでおにーさんが放ったスキルがクロの側頭部を捉えた。見た感じスタンとノックバックが特徴の裏拳の攻撃スキルかな?

 今の一撃で決まったかと思ったけど、まだクロのHPは残ってるしスタンも食らってないっぽいかも?

 あ、スキル発動後で硬直してるおにーさんの右腕をクロが掴んだ。


「捕まえたぞオラ」

「むうぅ!?」

「どおりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うぐっ! うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 クロは左手でおにーさんの右腕を掴んだまま、右腕一本でハンマーを逆手で先端に近い部分を掴むように持ち替えておにーさんの頭部に叩き付けまくり、おにーさんはおにーさんで左腕で頭部をかばいつつもがら空きのクロの左腹にとんでもない勢いで右ひざを叩き込んでいる。

 そしてさっきからクロは敬語崩壊どころじゃないレベルで口が悪くなってるし、おにーさんもロールプレイが崩れて地が出ちゃってるね。なんだかんだ言って結構あのロールプレイ好きだから残念だなあ。


 ゼロ距離でのど突き合いはなんだかんだ言ってクロに軍配が上がるように見えたんだけど、クロがおにーさんのHPを削りきる前に、クールタイムの終わった【力戦奮闘】をおにーさんが掛け直したことに気を取られて、クロはつい左腕に力を入れてしまったようで、おにーさんが右腕を引いたことで大きく前のめりになってしまった。


「貰ったぁ! 【孤月蹴り】ィ!!」


 すかさずおにーさんがスキルを発動してクロの側頭部に後ろ回し蹴りを叩き込んでHPバーを最後まで削りきった。


 こうして長かったクロVS無添加老師(仮)のPVPもようやく終わりを迎えた。

 総評としては全体的にど突き合いが地味。強力なスキルを使えとは言わないけどもうちょっと派手に立ち回ってほしいところだね。



「二人ともお疲れ様―。ジュースあるけど飲む?」

「おう、ありがとな」

「いただくとしようかのぅ」


 しばらくしてから起き上がったクロと、それを待って僕のほうに歩いてきた二人に飲み物を渡す。

 お題はあとで二人に請求…… はめんどくさいからしなくていいかな。


「それで、お互いの戦闘スタイルとかわかった?」

「ああ、AGIにステを振った上で素手の手数を生かして兎に角畳み掛けるタイプだよな?」

「そういうお主はスキルを使わずに自力でガチガチに殴り合うタイプじゃろ?」

「ん~、まあ二人とも間違ってはいないんだけどね。戦い方に関しては二人とももうちょっと改善の余地があると思うよ。おにーさんは攻撃スキルをもっと積極的に使って、一気にケリをつけるようにしないとだね。buffが切れたら掛け直すまでの間役立たずっていう風になるぐらいなら最初っから全スタミナをぶっこんで敵を倒しに行ったほうが良いよ」

「う、うむ。そうじゃな」

「あと現状掴み技やカウンターに弱すぎるから【ステップ】のスキルはやっぱり必要だと思うよ? いくらAGIが高くてもそれだけで敵の攻撃をよけきるのは無理っていうのが今回でわかったでしょ?」

「確かにあの程度の攻撃なら正直ヘビーメイルつけてたら俺が勝ってたと思うんだよな」

「クロはクロで一切自分の能力を生かせてないから人のこと言えないよ? 最後のハンマーを逆手に持つのだけは工夫したと思わなくもないけど、アクティブスキルを持って無いんだからその分相手にスキルを撃たせないように立ち回らないとだめなんだよ!」

「お、おう……」



「と、まあ二人への指導はまたの機会にじっくりするとして、早いところ狩りに行こうか!」

「場所はもう南の平原でいいよな? 遠出する余裕はないし」

「うむ、儂はそれで構わんぞ」

「しょうがないね。まったくもう、二人がバトルなんかで時間使うから……」


 適当に悪態をつきつつ門のほうへ移動しようとした丁度その時、いきなり周囲の風景にノイズが走り始め、足元の地面がなくなったような感覚に襲われた。


「わわっ! なにこれバグ!?」

「うっ、気持ちわりい……」

「うお、なんだあ!?」


 またロールプレイが崩れてるよおにーさん。っていうかホントになんなのこれー!?

第三者の目線で戦闘描写って難しい……


次回で一章は終わり(の予定)

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