縛り15,一日5回以上睡眠妨害すること
「さて、まずは防具の生産の依頼しに行くか。やれそうな職人のあてはあるんだよな?」
「もちろん! そのあとはどうするの? 晩御飯?」
「……そもそも金足りんのか? 満腹度によるペナルティーがあるとはいえおいしいものを食べることの優先度はそんなに高くねえと思うんだが」
「まあとりあえずフレンドコール送ってみるからちょっと待ってて」
僕は度重なる死に戻りですっかり見慣れてしまった神殿をあとにしつつ、スミスさんにフレンドコールを送った。
『もしもし、防具の作成を依頼したいんだけど?』
『………………』
『もしも~し、スミスさん、ユーレイだよ~』
『………………』
しかしフレンドコールへの返信はなかった。『AWO』ではゲーム中に眠ることも出来るから、寝ていてフレンドコールに返信できないという可能性もあるけど、『AWO』における睡眠とはシステム的なバッドステータス回避の意味合いが強くて、よっぽど脳に負担がかかるほど行動し続けでもしない限りすぐに目覚めることが出来るはずなんだけど……
「たぶん今寝てるところみたいだね、どうする? 直接訪ねてみよっか」
「いや、それはさすがに失礼じゃねえか?」
「よし、とりあえず行くだけ行ってみよう!」
まっとうな意見をガン無視されたクロがぶつくさ言うのを無視してスミスさんが工房にしている建物へ出発進行~。
親友に人権はないのだ! なんてね。
「ノックしてもしも~し?」
「……もう何も言わねえよ?」
「あ、鍵かかってなかった。お邪魔しま~す」
「そこちょっとは遠慮とかねえの!?」
「あれ? 何も言わないんじゃなかったんだ」
「聞こえてるなら行動に反映させようぜ!?」
相変わらず何の活気も感じられない部屋の扉を(勝手に)開いて中に入ると、作業用のいすに座ったままスミスさんが眠りこけていた。真偽は定かじゃないけど、宿屋あるいはちゃんとしたベッド以外のところで眠ると、睡眠不足のペナルティは解消されるものの『肩こり』(スタミナ最大値にペナルティ)や寝違え(器用さ減少・行動時にダメージ判定)などといったツッコミどころ満載の状態異常にかかったりするらしい。そのあたりのバッドステータスがもし存在するなら生産する上でも支障が出るので僕はとりあえず彼を起こすことにした。
「スミスさーん、こんなところで寝てたら風邪ひくよー?」
「ん…… ああ、君か。おはようでいいのかな? そっちの君は初めましてだね?」
「あ、どうも。俺こいつのダチでクロって言います、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。まだちょっと眠いんだが、なんの用だい?」
「いい素材が手に入ったからついに防具を新調しようと思ってね、スミスさんに頼みに来たんだよ!」
「ああ、そういうことか。今朝の素材のおかげで大分熟練度が上がったからね、たいていの素材はこなせると思うよ。で、どんなものがお望みだい?」
スミスさんの何気ない質問に、僕はちょっと考え込んだ。
正直あんまり考えてなかったなあ…… 装備はてっきりドロップで揃えるものだと思ってたし、多少好みに合わないものでも身につけざるを得ないかと思ってたしね。
そもそも……
「まずは持ってきた素材を見ないとどんなものが作れるかわからないんじゃないんだ?」
「その辺りは【素材加工】と【防具加工】で適当にでっち上げれなくもないよ。純木製の重鎧っぽいやつとか毛皮製のインナーとかぐらいならね。金属製の服を作るにはさすがにまだ熟練度が足りないけどね」
「どういうこと? いくら【素材加工】でもそこまで性質は変わらないものなんじゃないんだ?」
「そうだね、でもある程度誤魔化しちゃえばあとから防具加工で外見を変えるぐらいはできるからね」
「ってことは、ドロップ品の外見ももしかしていじれる?」
「ああ、限界はあるけど表面的な部分は加工できると思うよ。まあ僕にデザインセンスを期待されてもそれはそれで困るけどね」
「やったー! これならドロップ品の外見気にせずに装備できる! まあでもとりあえずは初期装備準拠のものでいいかな、僕にとってはこれが初期装備みたいなものだしね」
「決まったか? 素材はこんな感じなんだけど、足りないものとか費用とかは言ってくれれば出来る限り準備するつもりですから何かあったら言ってくれますか」
二人が話し合っている間ずっと空気だったクロが、話題がひと段落したところでスミスさんにトレードを送り、会話をしっかりと地に足がつくところまで引っ張り下ろしていく。
その後もたびたび脱線しそうになるたびにクロがブレーキをかけてくれ、何とか全体の方針を定めるところまでこぎつけた。
「じゃあこっちで作るのはシャツとズボンと靴、それぞれ初期装備のレシピを流用して、外見だけ若干調整したもので合ってるね?」
「うん、お願いするよ。で、加工費は前回の素材持込みのぶんで相殺でするけど、足りない分の糸を買う分の金額は最終的な費用が出てから商品受け取りの際に払うんだね」
「しっかしサラッと木材から糸作れるってのがすげえよな、どう考えても適正レベルよりも上の素材なのに……」
「素材の釣り合いを考えるなら残りの部分ももうちょっといい糸を使いたいところではあるんだけど、まあいいとしよう」
「初期装備だからこのくらいでいいと思うよ?」
使うことにしたレシピこそ何の変哲もないただの布の服である初期装備の流用だけど、作成に使用する糸の一部に『呪いの木片』をほぐして繊維状にしたものと『マチェットレイスの襤褸』を合わせて依って作る糸を使う予定だから、性能はともかく作成難易度はそんじょそこらの布防具の比ではないんじゃないかな。
ちなみにスミスさんによればこの素材で何の処理も施さずに防具を作れば問題なく呪いの防具が作れるだろうとのこと。呪いの防具という常識外のリクエストをさらっと受けるあたり彼もなかなかぶっ飛んだ性格をしてると思う。
「じゃあ僕は早速作り始めるよ、完成はたぶん明日の朝になると思う。出来上がったら連絡するから」
「分かりました、じゃあここにいても邪魔になるだけだし俺らは帰りますね。ありがとうございました」
「じゃ、頑張ってねスミスさん」
僕達が挨拶した時にはスミスさんはすでに素材と加工用アイテムを取り出して作業を始めていて、挨拶に対しても軽く手を上げただけだった。すさまじい集中力と取るか、社交性が足りないと取るかは人によると思うけど、防具の作成を依頼するという点では限りなく頼りになる人物だね。
「さて、まだ流石に寝るにはちょっと早いよなあ。どうすっかな」
「僕はお小遣い稼ぎもかねてクエストでもちょっとやってみようかと思ってるよ? クロも一緒にやるかい?」
「クエか~…… それだったらまあ一緒じゃなくてもいいか。とりあえず適当にやっとくわ、いい加減マスタリも取得してえしな」
「りょーかいー。そしたら明日の朝までは別行動かな」
「そうするか。じゃ、明日またフレンドコールで呼び出してくれ。今日も十一時くらいまでは起きてるつもりだけどな」
「ほいほ~い、んじゃ!」
冗談半分に手をシュタッとあげて颯爽と走り去ろうとすると、クロも苦笑いしながらも同じように手を上げて見送ってくれた。
そして調子に乗って思いっきり走ったら道に迷った上に周りのプレイヤーとNPCたちに生暖かい目で見られた。幸先悪いなあもう。
スキルいろいろ『防具生産』編
【防具加工】:既存の防具の強化や改造ができるスキル、できることの幅は広いが性能はやや低め。
【防具生産】:まんま防具を作るスキル、【鎧生産】や【盾生産】などと比べるとシンプルなものしか作れず性能も一枚落ちる。【金属防具生産】や【布防具生産】といった材料による分類も存在する。
【素材加工】:そのままでは使えない素材を使える状態にするためのスキル、取得者はあまり多くない。これにもより細かい分類のスキルが存在するが初期スキルに入れようと考える人はほとんどいなかった模様。




