縛り153,乱数調整禁止
「とりあえず武器は構えないでいただきたい。我々は怪しいものではございませんので」
「鏡いる?」
「……お持ちだったのですか?」
ここまで「怪しい」を体現してる人達からそんなお約束みたいなセリフが飛び出すと思ってなくて、ついついズバッと返しちゃったけど、真顔で返された返答に何も言えなくなってしまう。
うん、外見が怪しいのはお互い様だよね。
「でもオンラインゲームなら見た目よりもいきなり集団で知らない相手に話しかけるっていう方が怪しさポイント高くない?」
「確かに。申し遅れました。私○549と書いて丸ゴシックと申します。三徹目です。そして左から順に」
「レモンジョンです。五徹目です」
「キングカメ。四」
「……あー、私の番? カチ割り赤で~す。同じく四徹目~」
「……七徹目」
右端の人名乗れてないし! なんで連れてきたのさ!
「というか全員外見ほぼ同じで見分け付かないじゃん! 絶対わざとやってるでしょ!」
「そうですねではほっぺに番号でも書いておきましょうか」
そう言ってリーダー格の人が指をパチンと打ち鳴らすと、何かのスキルを使ったのか黒字で三の字がほっぺに書かれていた。……七徹目の人以外。
「僕が言うのもなんだけど大丈夫?」
「まあ数字が書かれていなければそれで見分けがつきますし問題ないのでは?」
「いや、それ言ったら四は被ってるし……」
「確かに……! 何か解決案は?」
適当すぎる! 適当すぎるし解決案くらい自分たちで出せるよね?
「フォント変えときます~? というか〇549さん丸ゴシックにしてないの詐欺じゃないですか~?」
「え? 丸ゴシックってどんなフォント? というかゴシック体が思い出せない。ド忘れ……!」
カチ割り赤さん? 一人だけ同じ外見なのに声が女の人だから違和感がすごいけど〇549さんへのいちゃもんに話題がすり替わってない?
そして〇549さんの敬語キャラはロールプレイなんだね。じゃなくて!
「もっとこう、あるよね? 一人はギリシャ数字にするとか、何らかの記号付け加えるとかさ!」
「なるほど。流石に全員徹夜中だと思考力が鈍りますね」
「じゃあこれで」
「†Ⅳ†!? そこ主張するとこなの!?」
「なるほどでは私はこうですね?」
「肆! コント集団なの!? この短時間でぶっこみすぎだよ!」
まずなんで全員徹夜で判断力が鈍ってる状態で初対面の人に会いに来たの!?
「ふむ、ツッコミ担当はクロさんと聞いていましたが、なかなかどうして……」
「ボケのスカウトに来たならそのまま帰ってくれるかな」
「いえいえ、われわれはコントを披露しているわけではありませんよ。少々情報の交換と行きませんか? 先ほどから、気になっているのでは?」
「まあ気になってるけどさあ。それ以外のツッコミどころが多すぎて…… で、さっきから使ってるスキルのこと? 背格好が同じになってるのも同じスキルの効果だったりする?」
「Exactry」
発音にイラっと来る! 普段からこんな言動なのか、そういうロールプレイなのか、徹夜で頭おかしくなってるのか判断付かないし!
「一部の住民からスキルを教わることが出来るという報告は多数ありましたがプレイヤー同士でも伝授しあえるかどうかの検証に用いたのがこのスキルなのです! その効果は」
「とりあえず簡潔にスキル名教えてくれる?」
教えてもらう側としてのマナーともう疲れたという気持ちで後者が圧勝!
熱い語りに水を差されたっていう表情を浮かべてるけど、どう考えても熱く語るべきシチュエーションじゃないからね。
「スキル名だけですか…… そうですか…… 【変装】です」
「いやいや、もはや怪しい通り越して犯罪者予備軍じゃん!? なんで全員でそんな悪用しやすそうなスキル取ってるのさ!」
「む、犯罪者予備軍とは失敬な! 確かにスキル名はあれですけどあれですよ! ほら!」
「ちょっと〇549さ~ん、あなたが一番徹夜日数少ないから会話の中心受け持つって自分で言ったんじゃないですか~」
「さっきからナチュラルに三徹以上なことの理由も僕はいまだにさっぱりだからね!?」
「あれ? それもまだでしたか~。あれですよ。探偵だって変装するじゃないですか~」
「そこに戻しちゃうの!?」
「犯罪者扱いは困りますし?」
「うん。ちゃんと自己紹介してくれればそれで済む話だからね? たぶん」
自信ないね。自己紹介を聞いた結果やっぱり犯罪者な可能性も捨てきれないかも……
「そうですね~、あたしたちは……」
「いや、自己紹介なんだから変装は解こうよ!」
「え。それはちょっと……」
何がそれはちょっとなのさ…… 自己紹介もちゃんとしないならなんで出てきたのさ……
「いやいや! だって四日も徹夜してるんですよ! 目の下のクマとか肌荒れとか見せられないレベルに決まってるじゃないですか!」
「それ犯罪者扱いされないことよりも重要かなあ!?」
「無実ですし! 法に触れたり神罰下ったりするようなことしてませんし!」
「はい! 新ワード出さないでいいから早く自己紹介して!」
神罰って何!? GMがやるような対処のこと!? スカートめくり犯にも下るの!?
そろそろツッコミ疲れを起こしてきてるよ。助けてクロ……!
街中にいるであろうクロに念を送る。いや、そんなことしなくても個人チャットは届くんだけど。実際のところ急に呼び出すべき時間帯でも事案でもないし。
「検証をしてる。今日は勧誘と短期の協力だ」
それまで口を開いてなかった七徹の人が一瞬口を開いて話を軌道修正してくれたと思ったらそのまま口も目も閉じてしまった。ねえそれ立ったまま寝てない?
「寝てない。目が限界」
それ寝落ちする人のセリフだよね。
「ええとつまり? 検証班の人達が勧誘に来たってこと? それがだめでも今日だけでも一緒にしたいことが有るからわざわざフィールドで話しかけてきた?」
「まさしくその通りです!」
あ。三徹の人復活した。
「じゃあその徹夜も何かの検証?」
「徹夜による影響の検証中でした」
「なるほどね~。一人だけ徹夜数ずば抜けてるのは?」
「徹夜の検証が話題に上がった時、彼は別件で既に三徹目だったのですよ」
「短期の協力っていうのは?」
「死霊の森の情報が不足がちなので、詳しい人に案内してもらう機会が有ればと以前から話が出ていたのですよ!」
まあ人気マップになりそうな要素はないよね。素材の使い道は限定的だし、敵は物理攻撃効きにくい割りに経験値効率今一つだし。
「それだけじゃなくその独特なプレイスタイルから間違いなく我々とは別の情報を大量に持っているあなたへのコンタクトは前々から計画されてまして!」
あ、段々熱が入ってきたね…… 寝不足でテンションおかしくなる人だこの人。
「それでですね! 我々検証班としましては! 【変装】を始めとしたスキルの提供などが出来ることはお互いの不利益にならないと考えてまして」
「うん。なるほどね。検証班?」
「はい! 他の名前も多数候補に挙がったのですが、前線が前線組ですので、シンプルで分かりやすい名前が良いという結論になりまして」
「あ、自称じゃなくてギルドの名前なのね」
「ですからギルドの勧誘に! あれ、この話さっきしたような?」
「してないね。僕もだんだん頭こんがらがってきたけどしてないよ」
まずギルドだっていう名乗りがなかったからね。なかったよね?
「なんで【変装】してるのかの説明は?」
「よくぞ聞いてくれました! メンバーの一人が面白そうという理由で初期スキルに入れていたスキルこそ我々のアピールポイントなのです! 検証作業の中には傍から見て変人扱いされてしまうようなものも多くあり、VRゲームでは忌避される一因となっているわけですよ!」
「うんそうだね! でも変人扱いされる理由の半分はその言動そのものだと思うよ!」
そもそも自分で体を動かすような没入感が売りのジャンルで挙動や仕様やバグや抜け穴を調べるためにあらゆることに手を出して検証する時点で変人扱いも何も変人そのものだよっていうのは流れ弾が他の四人にも飛ぶから口に出さないけども!
「その上でこの『自分の外見の印象を変える』ことに特化したスキルは検証員のプライバシーを守り、オンとオフのメリハリを付け、精神的なハードルを下げるとまさにいいことづくめ!」
「言ってることは間違ってないけどまんま悪質行為に転用できちゃうのがやっぱりダメだよね!?」
「ユーレイさんも必要としているスキルではないかと思ったのですが、見当違いでしたか」
「……まあ、おしゃれしたい気分な時とかはあるけどね」
レベルに対して呪いがガッチガチすぎて、神殿で解呪を頼む費用や素材が到底用意できないレベルになってるからね。呪いの装備同士ならシステムの装備変更で入れ替えられるっていう仕様がなかったら詰んでたかも。
「その、呪いの装備でありながらしばしば装備を変更しているというのも我々からすれば興味深いのですよ! もちろんただで情報を要求しようとは思いませんが、その体当たりの姿勢には間違いなく我々の一員に! いやいっそリーダーになる素質があると思いませんか!」
がすり。カチ割り赤さんの情け容赦のないチョップが〇549さんの暴走を止めた。
「暴走しすぎですよ~。はあ……」
「それ気絶しちゃってない? 大丈夫?」
「まさかあ~、私にそんな攻撃力はありませんよ~…… あれ?」
気絶してるね。ぐっすり。
「起こせ。検証にならん」
「もしかして~、気絶の耐性も徹夜で下がります~」
「起こせ。俺はかがんで立つ自信はない」
「分かりました~」
七徹の人が喋るのもおっくうという様子で気絶したことは問題だと告げて、カチ割り赤さんが往復ビンタを繰り出し始める。
話、進まないね……
作者も眠い状態で書いてたのでいろいろおかしいところが有るかもしれません。気づいたらこっそり教えてください。




