縛り147,UR装備使用禁止
誤字報告ありがとうございました。
武器って切れるものなんだっけ……
周りの人もさすがにドン引きしてる、と思いきや思ったよりも普通の反応?
「まあこのリアリティのゲームで補給もろくにしない強行軍とかしてたらそうなるよなぁ……」
「そうっすね。うちのパーティーもあれと比べたら楽なのかもしれません」
「まさかのツッコミ放棄?」
「そういうスキルじゃねえのか?」
「そういうスキルってことにしとこうぜ?」
ツッコミ担当の男衆二人からはそんな回答が。かたや脳筋構成、かたや内政担当だから仕方ない……のかなあ。
でもスキルっていう可能性は否定できないよね!
「【ペネトレイト】!」
「【飛燕】」
刀の一閃が大盾の角を切り飛ばし、反撃の刺突をスキルの挙動で避けたうえで返す刀が鎧を切り飛ばす。
うん、いくら何でもそんなスキルあったら理不尽すぎるよね!!!
「今まで実力隠してやがったのか!?」
「隠すも何も、代用装備のまま町にも戻らず進んでいれば本来の戦い方を見せる機会なんてあるわけないでしょう!」
「【ゲイルスウィープ】!」
四角かった大盾の角が取れて六角形になり、鎧も籠手も面取りした里芋みたいな見た目になってるけど、逆に言えば防具にしか当たってないわけで、ここからどう決着をつけるのかな?
なんて思ってたら、焦ったナンダゴンドさんのスキルを掻い潜ったキリコさんが、刀を首に向けて振るって、そこで寸止め。
やってることがさっきから怖いよ!?
「続けますか?」
寸止めした刀の刃をゆっくりと首に押し当てながらの質問。決闘中は部位欠損は起きないはずだけど、さっきその状態から槍の穂先を切り飛ばしたことを考えると…… 動けないよね!
「……降参する」
静まり返っていたギャラリーが歓声を上げた。うん、迫力のある試合だったもんね!
アナウンスがギブアップでの決着を告げる中で、晴れ晴れした表情のキリコさんがこちらに戻ってくる。
「お疲れ様~! あれってどうやったらできるの?」
「いやいや、すげえもんだな。今後は嬢さんにいろいろ共有したらいいのか?」
「見事な立ち回り! 是非一手手合わせ願いたい!」
と、僕も含めて何人かが次々に声を掛けたところ、スッキリしていたキリコさんの顔があっという間に曇り、赤面し、青ざめ…… 見事な百面相を披露し始めちゃった。
あー、対戦前に言ってた恥ずべきとかそういう話?
「手合わせですか? はい! やりましょう! そうしましょう!」
そしてもろもろを誤魔化すかのように、手合わせの申し出にこたえるキリコさん。誰かと思えばボスじゃん!
これあれかな、ナンダゴンドさんへの不満が爆発したけど、実際自分が仕切ることを考えてなかったやつ?
ボスが対戦するということで、パンチラモーション同好会の面々が隙の無いベガ立ちを始め、そのほかのギャラリーも三試合目ともなれば思い思いの観戦スタイルを確立してるね。
僕もさっきの試合では開幕で度肝抜かれちゃってポップコーンが手つかずだし、触発されたのかこの試合の後に対戦することを決めてる人もいるし、今日は観戦を楽しむよ!
なし崩しで始まった対人戦祭りが終わり、翌日改めて今後の方針とかを話し合うことに。僕らのパーティーから参加することになるとしてもクロに押し付けて済ませようと思ってたんだけどね~。
昨日の対戦の中でも見どころだったのはやっぱりしょっぱなのキリコさんVSボスと、クロ&リンドウちゃんVSナンダゴンドさん&前線組の魔法使いさんかな。
キリコさんの武器切断のためにはお互いの武器を静止させるか動きを完璧に合わせる必要があると見抜いたボスが、スキルの即発動でことごとく武器狙いを阻止して、リアルに存在しない不自然挙動で畳みかけてキリコさんを追い詰めるっていう怒涛の展開! まあスタミナ切れで負けてたんだけど……
「とりあえず、前線攻略班のリーダーが変わったってことで、街中でいろいろやってたやつらにも集まってもらって情報共有の場を設けたんだが…… 何から始めるべきだ?」
司会は我らがアレクサンドロスさん。ここに集まってるのは僕の知らない人も含めて二十人くらい。なんだけど、積極的に話そうという人がいない上に、アレクサンドロスさんもこういう場を仕切るのが別に得意じゃないとあって、既にグダグダな予感。
僕も普段報告してる以上の情報は持ってないからねー。昨日の対戦の振り返りくらいしかやることがないよね。クロとリンドウちゃんのペアは酷かったよ。初手催涙ポーション噴霧で呪文詠唱封殺してからの、足場を毒沼に変えてドーピングしたクロがひたすら暴れまくるだけ。アイテム持ち込みありで戦闘スペース限られてるとリンドウちゃんの範囲スキルが凶悪すぎるよね。
その試合の結果ナンダゴンドさんの戦績が0勝3敗になったのもこの状況につながってそう。
「まずは~、前線攻略パーティーの~、リーダーが変わったことですし~」
「ひぅっ」
「ああ、そうだな。あー、挨拶してもらえるか? あと当面の方針を共有してもらえると助かる」
アレクサンドロスさんが遠慮するのもわかるくらいカッチカチに緊張したキリコさんが、捨てられた子犬のような目で助けを求めて来たので、ぐっと親指を立てて答えておく。うん、頑張って!
いやー、デスゲームの前線攻略のリーダーなんて大変そうなのに決闘でその座を奪いに行くなんて凄い根性だよね! 勢い任せの発言を後悔してそうに見えるのはきっと気のせいだよ! ね!
※注:令和の現代に剣道とか抜刀術とか習っても斬鉄剣は習いません。多分。
作中の経緯としては、医療、軍事、AI研究等の方向から波及していったVR技術が、一部の古流武術を継いでいた流派と化学反応を起こして『ここまでフィードバックの精度良ければ安全に危険な技の練習できんじゃん!』という流れが発生。機材を揃えたり改めて門下生を募ったりできる資金力のあるところが失伝していた技を復活させた。みたいな流れです。
作中の居合道は人口の多さなどから、そこら辺を早々にクリアしたうえで『刀で鉄を切る技術を身に着ける』ことだけではなく『鉄を切ってしまえる自分とどう向き合うか』の方に重点を置いています(もちろんフィクションです)
以上、前話のキリコさんのやらかし度合いの補足説明でした。




