縛り146,攻撃デバフ使用禁止
前回のあらすじ:ナンダゴンドさんのデリカシーポイントが下限突破した。
『ユーレイ 残りHP88パーセント
ナンダゴンド 残りHP81パーセント
ユーレイ WIN!』
よしっ! 完全勝利!
外野から『あれだけドタバタやってお互いそれしかダメージ与えてないのかよ』とか聞こえてくるけど気にしなーい!
勝利の雄たけびを上げる。のをぐっとこらえて、真顔を作り、ナンダゴンドさんに指先を突き付ける。
「国に帰るんだな。お前にも家族がいるだろう」
「どこのヨガマスターだお前は! というかデスゲームだから帰れねえっての!」
ツッコミを黙殺して、体の前で合掌。グイングインと頭を水平移動させて勝利ポーズを決めてたら、ナンダゴンドさんがキレた。
「おまっ、お前ぇ~! 小細工弄しまくって勝った気になってんじゃねえ! もう一回だもう一回!」
「え~? 装備自慢されたから僕も自慢仕返しに来ただけだし~。勝ち負けとかじゃないよね? どうしてもって言うなら全然受けて立つけどさ」
よいこのみんな! 煽りはマナーが悪いからやっちゃだめだよ! そういうノリを理解してくれると思った相手が必ずしも理解してくれるとは限らないからね!
「どうしてもって言ったらだと? 言ってやるよ! んでもってお前には三回追加で言わせてやらぁ!」
「連勝宣言とは大きく出たね! 正直僕もまだちょっと動き足りないし決闘水晶のストックは山ほどあるからね! でも……」
「ああ? どうした?」
「その前に?」
「ええ、その前にです」
ナンダゴンドさんがさっきの対戦でため込んだカルマはすぐに再戦させてもらえるほど軽くないんだよね! マジで狙うつもりはなかった作戦だけど、結果的に僕の予想をはるかに超えるデリカシーの無さだったもんね……
説教役はコノカさんが来るかなと思ってたけど、キリコさんが来たね。
そして僕の方にクロが近づいてきてる。どうしよっかなー。逃げようかなー? でもなにか面白いことが起きそうな気もするんだよね。
「おい」
「はーい」
何かを言われる前に正座。とりあえずナンダゴンドさんの方に意識は向けておくけど。
「いや、そうじゃなくて腕の治療をだな?」
「ん~? 言われてみれば?」
『決闘水晶』使用中のダメージは肩代わりされるはずなんだけど、普通に怪我してるね? バグ? それともアイテムの品質の問題?
肩代わりしたダメージ量を基に判定されてるはずだから、怪我してるってことはこの分のダメージはリザルトに出てないかも? まあそれを加味しても僕が勝ってたかな!
【ヒール】は暴発したら悲惨なことになりそうなのでポーションを腕にじゃぶじゃぶとぶっかける。
「怒られるのが分かってるなら最初からやるなっていう話なんだよ。デザイン出た時点でもうちょっと工夫と配慮をだな……」
クロのお説教が始まったその裏で、しぶしぶ自分から正座しようとするナンダゴンドさんをキリコさんが押し止めた。ん? お説教じゃないの?
口で言っても反省する気配がないから諦めた? クロもついでに諦めてくれない? あ、こっち来た。
「ユーレイさん、『決闘水晶』を一つ売っていただいても? あと、先日狩った大猪の素材は残っていますか?」
「良いけど? 『決闘水晶』の設定の仕方はわかる?」
「概ねは。まあ適当でも問題ありません。それでは」
あらかじめどう行動するのか決めていたかのようによどみなくやり取りを済ませるキリコさん。
「では、改めて。攻略組リーダーナンダゴンド。あなたに決闘を挑みます」
「なるほど? 言葉でわからないなら武力で説得ってことか! 分かりやすくていいじゃねえか」
「技を誇り、武に頼るなど自らの未熟を晒すばかりで恥ずかしいのですが…… ええ、命がかかっているのであれば許されるでしょう」
ぶつぶつとつぶやくキリコさん。完全に目が据わってるよ?
クロも突然の状況変化に意識を完全に持っていかれてるので、しれっと足を崩してアイテムボックスから飲み物と自分の分のポップコーンを取り出す。
「ルールは?」
「そちらで決めて構いませんよ」
「ほう? 知ってると思うが俺は嘗められるのは好きじゃねえぞ」
おおー。ばっちばち。
ふーむ。キリコさん対ナンダゴンドさんか~……
キリコさんは基本的にSTR寄りのステータスで攻撃力に特化した物理アタッカーだけど、武器で攻撃する以上大盾をどう突破するかが問題になるよね。攻撃を当てたとしても鎧で受けられたらダメージは大きくならない。対して防御力がないキリコさんは攻撃をしっかり対処しなきゃいけないから攻め手が限られる。
タンクが強いっていうナンダゴンドさんの発言もあながち誇張じゃないんだよね。
「【ランスチャージ】!」
そして試合開始~!
ナンダゴンド選手安定の開幕ぶっぱで距離を詰めます! 軽率にも思えますが回り込まれても対処できる自信が有るのでしょう!
対するキリコ選手は静かにすり足で後退します。突進が届くまでにギリギリ走破距離の外側へ! しかし突進が終わってもその距離では槍を突き込めば届いてしま……
「え、なにそれ」
突進のモーションが終わって、腕の力で突き込まれた槍の穂先に、刀を押し当てて体の僅かに手前で止めた!?
勢いが完全に相殺されたことでお互いの動きと武器が一瞬完全に止まる。
「ふっ!」
そしてナンダゴンドさんが槍を引き戻す寸前に刀を振り抜いたキリコさんの足元に、何かの欠片が転がり落ちた。
「いい刀ですね。新装備の自慢、でしたか? 私も参加してもよかったのでしょう?」
「は? はぁあ!?」
形の変わった槍の先端を見て驚愕するナンダゴンドさん。というかこの場にいる全員理解が追い付いてないよ!
槍の穂先って刀で切れるものなの!?
「そういえば、決闘の意図を伝えていませんでしたね」
「お、おお……?」
「貴方が強いから最前線に向かい、強いからパーティーのトップを自然と任されているというのであれば」
もしかしてこれってそういう話?
「私があなたより強ければ、その席に私が座っても構わないのでしょう?」
ク、クーデターだー!?
これがデリカシーポイントを下げすぎたものの末路……




