縛り144,ノーパン(受難禁止)
「そこっ!」
大盾に向けて【チャージスラッシュ】。ドンピシャでとらえたと思ったけど、手ごたえが変! 透けてるから手ごたえって言うと変だけど、たぶんこれスカされたよね!?
大盾を蹴りこめば、案の定大した抵抗もなくあちらに押し込めた。
「【クリーブ】!」
でも、こっちの一撃をスカされた分の隙がそのくらいで覆せるはずもないよね! これは避けきるの無理!
猪の牙を使った槍は斬撃に使うには向いてないみたいで薙ぎ払いで切り裂かれるようなことはなかったけど、その分STRとスキルの勢いがフルに衝撃になって叩きつけられる。
無理な攻めで被弾が増えるのは当たり前だけど、それにしたってそんな避け方する?
「ふぅっ」
一回息を吐いて乱れた思考の整理! 攻撃を一回無駄にされたのはつらいけど、幸いに今のやり取りで距離が開いたから、足を使って引っ掻き回しつつ【チャージスラッシュ】を叩きこむ隙を……
「【チャージ】!」
「手札多すぎない!?」
【ランスチャージ】の前半だけ省略したわけじゃないよね? ということは、槍のスキルじゃなくて、おそらく盾のスキルでもない…… 考えられるのはさっき言ってた装備品についてるタイプのスキルかな!
今まで使わなかった理由は? 名前からして突撃系? でも突っ込んで来てるわけじゃないから、溜めるっていう方のチャージ?
叫んでから発動までのラグは約一秒。そして他の突進スキルを上回る速度でナンダゴンドさんがこっちにつっくんでくる!
「つうっ!」
肩からのタックルがほぼ直撃。全身鎧着けたタックルなんてそれだけで純粋な凶器だよね!
何が誤算って、突進スキルなのに多少とはいえ曲がれるってことだよもう!
即座に復帰して呪文を唱えながら杖を叩きつける。
「『魔力よ、わが敵を穿て』【マナバレット】!」
結果は制御不足。まあでも接写なら暴発しようが明後日の方向に飛ぼうがダメージになるもんね!
「いてえなおい! どういう防御力してんだそれ!」
「いいでしょ。あげないよ?」
「いらねえ!」
僕がすべきことは反撃を受けてもいいからとにかく【チャージスラッシュ】をなるべく痛い位置に叩きこむこと! ナンダゴンドさんが狙ってくるのは僕の動きの選択肢が減った時に突進系の避けづらくて強力なスキルを使うこと!
肉を切らせて骨を断ち、肉を切って骨を断たせない! 本命の攻撃をいかに悟らせないか、どれだけ手札を温存できるか。そういう勝負だね!
お互いの覚悟が決まったことで、戦いは一気に加速して熾烈になる。なんてことは全然なくて、むしろ傍目にはひたすら地味な読みあいを繰り返す段階に。
今更だけど【チャージスラッシュ】ってタメを作ってる間は魔法と併用できないんだよね…… 限界まで溜めての最大火力を狙うように見せかけたり、逆に下手な鉄砲式の【マナバレット】を連発して最速での一撃を狙ったり。ナンダゴンドさんもナンダゴンドさんで、本命に使いたい攻撃を切り替えながら戦ってくるから、頻度は少ないけど攻撃スキルも飛んでくる。
「【シールドバッシュ】!」
杖を大上段に構えた僕に対して、盾での打撃。
リーチギリギリで放たれたそれを一歩下がって回避。反転して背中から押し込めば、案の定ほとんど抵抗なく距離を詰められた。
僕の狙いが盾を持ってる手に有ると判断しての囮! 中距離で僕に手札を吐かせて槍での一撃を狙うつもりだったんだろうけど甘いよ!
「ちぃっ!」
さらに押し付けた背中を軸に一回転して、がら空きの背中側に回り込む!
「もらったよ!」
「【クリーブ】!」
スキルを利用しての反転を兼ねた反撃の一手。流石というべきだけど、槍の穂先はあえなく空振り。
声を上げつつ視界から外れたことを利用して【ハイディング】で気配をごまかしてる相手の体勢なんて分かりっこないよね! リンボーダンスだよリンボーダンス!
そのままバック宙しながら足で槍の持ち手を狙うけどこれは回避。盾を手元に引き戻される。スキルが使えない大盾なんて視界をふさぐ遮蔽物だよ!
体を低くして距離を詰めつつフェイントを一回、二回。突き出された盾は空振り。仕切り直しに【ステップ】を使えば完全に手札切れ。使わなければその腕もらうよ!
「くそっ!」
ナンダゴンドさんの判断は左後方に【ステップ】で下がって槍の間合いにとらえること。
これ以上時間をかければ大盾のスキルの再使用が可能になって【シールドスラム】で逃げ切られちゃうから僕も決め切りたい。
「しっ!」
さすがはトッププレイヤーだよね。スキル無しでも槍捌きは鋭いし正確だし。でも、牽制で細かく連打するような攻撃なら突っ切れる! 痛いけど! 盾の持ち手なんてみみっちいこと言わずに胴体に最大火力!
「【エナジースラッシュ】!」
「ぐおぉ!」
「『魔力よ――」
「ふんぬっ!」
追撃の呪文はショルダータックルで中断。手札が足りないね!
何はともあれ直撃だよ直撃! 怯ませるレベルでダメージ通ったのは間違いないね!
「あー、ハイレベルなんだろうなとは思うが、ぶっちゃけよくわからん。今何やってたんだあれ」
「クロさんは~、分かりましたか~?」
間合いが途切れて、お互い油断なく警戒しながら呼吸を整える。先にスキルが使えるようになるのはナンダゴンドさんだろうけど……
「ユーレイが盾を持ってる手を狙ってて、それを嫌がったナンダゴンドさんがフェイントの読みあいに負けたんだと思います。あそこまで完全に後ろ取った状態からさらにフェイントかける思考は俺もどうかと思いますけど」
「なるほどな」
「ただ、結果的に盾を失うことは避けられてるから、ダメージ量以上の不利は発生してないですね」
「つまりここからはまた盾狙いか……?」
解説どうも! たぶんそんな分かりやすい戦い方はしかけてこないだろうけど!
「うおぅりゃあ!」
「ほらぁ!」
「「ぶんなげたぁー!?」」
投げつけられた大盾は別に速いわけでもないけど、飛んでくる金属の塊を打ち落とす手段なんて僕にはないわけで! 咄嗟にその場に伏せて回避すれば、突進が迫ってきていて慌てて転がって避ける羽目に。
で、ナンダゴンドさんは結果としてぶん投げちゃった『大盾』を手放すことになったわけだけど…… あんまり状況は良くないね!
大盾を手放させるのは僕の狙いの一つだったけど、それは大盾と同時に左腕も封じられるならっていう話。大盾をすり抜けて攻撃されるなら防御力とスキルの数を犠牲にした方が良いっていうナンダゴンドさんの判断。そしてそこから繰り出されるのは、僕の防御力が一切発揮されない攻撃…… 掴み技だね!
「おらおらおらおらぁ!」
回避されること自体が目的というように雑に左腕を振り回され、さっきまでと違い遮蔽物がないからどちらに避けても槍で狙えるという圧!
「なるほど、ダメージを重ねられる前に手放したのか!」
「それに何の意味が有るんだ?」
「掴んでから攻撃すれば絶対当たるっていうことですかね」
「…………」
この服、柔道着とかと違って掴みやすい襟とかないんだよね……
「これは~、デリカシーポイント~、マイナス5ですね~」
「なんすかそのポイント」
「マイナスが~、3点溜まると~、お説教ですよ~?」
「説教一回分よりマイナスが多い!? いやまあ分かりますけど。俺もユーレイにちゃんと説教すべきですよねあれ」
「あの服装は~、マイナス2点ですよね~」
外野でコノカさんとクロがこの後の説教の相談してるのすごく怖いんだけど!?
ナンダゴンドさんは聞こえてないのか全く動揺してないし!
さらっと即答で断ってますけど、防御性能に目を付けたナンダゴンドさんがもしもユーレイと同系統の装備に手を出した場合…… 見た目の暴力が酷いことになりますね! 呪い耐性もないのでことあるごとに悲鳴を上げる筋肉質で半裸のおじさんが完成します。
アレクサンドロスさんの累計デリカシーポイントはそろそろマイナスが三桁に乗ります。




