縛り138,タンクキャラ使用禁止
三月ですね。
コロナなどと合わせて花粉も行きかう地獄のような季節となっておりますが作者は元気です。
まさか戦闘自体が成立しないなんて…… そして、クロの予想というか、妥当に考えるとこのままじゃナンダゴンドさん相手にも戦闘を成立させられない可能性が高いなんて……
ゲーム開始初期以来耐性の高さで何とかなる程度の呪いが大半だったし、ゲームの難易度もそんなに高くなかったし油断してたよね! まさか呪いの装備縛りがこんなに大変だなんて……
「『魔力よ、敵を穿て!』【マナバレット】!」
不発! 今のところ不発3暴発5成功1で残りの一割は制御不能になって明後日の方向に飛んでいったりするね! つまり九割は失敗。対人戦でそんな博打をしても隙をさらすだけだし、そもそも威力に対して詠唱長いし!
ちゃんと使おうとするとこんなに不便なスキルだったんだね【マナバレット】って。
「なあ、まだやるのか?」
「当然!」
ちなみに的は戦闘態勢を取ったクロ。【マナバレット】の射程まで近づいて、無防備に詠唱すると体が勝手に逃げようとするから、なおさら成功率は低いけど、本番はもっと過酷なわけで。
「なんかほかの方法考えた方が良いんじゃないか?」
「手札は一枚でも増やしたいしスキルは熟練度を1でも上げておきたいよね。というか今も考えてるよ!」
【呪い耐性・小】の熟練度がカンストしちゃってるのが今一番の問題だよね。スキル枠には余裕があるけど、正直この状態のまま活用できるスキルの当てはないし……
小が有るってことは小じゃないのもあるはずだと思うんだけど、一向に次を習得できないのは何か条件が有るのか、今までの呪いが弱すぎたのか。
呪いの負荷を受ければいいならそれで解決するかもだけど、そもそも呪いだけ解決しても対戦のスタート地点に立てるだけ。それならスキル上げも兼ねて少しでも実戦を積みたいよね。
「ユーレイさーん、買ってきました~!」
「ありがとうリンドウちゃん!」
というわけで、お金に物を言わせて準備したのは安全に対人戦をできるアイテム『決闘水晶』のランク低いやつ。スミスさんに作ってもらうことも出来たけど流石に仕事してもらいすぎだからね!
「というわけで今からひたすら決闘だよ!」
山と積まれた『決闘水晶』から一つを手に取って高らかに宣言するも、クロはやる気なさげ。
「そうか、頑張れよ」
「クロとやるんだよ?」
「畜生! やっぱりか!」
「ランク低いからルールはダメージ量一択かな」
HP残量とかのルール設定するにはクロのHPに対してアイテムの許容量が低すぎるみたいだねこれ。
まあ今回練習したいのは立ち回りだからあんまり問題ないかな?
「というわけで一回開始距離まで近づくから戦闘態勢解いて~」
「おう」
ふう~、リラックスリラックス。意識しちゃダメ意識しちゃダメ。
勝手に体が逃げようとするのが怖いから、怖いと感じるような呪いのせいだからっていうことを認識しちゃってから実は普通にめちゃくちゃ怖いんだよね!
MND、つまり精神力が初期値よりも低いからってこうなるとは思わなかったよ! さすがデスゲーム運営、普通のゲームじゃ倫理規定に引っかかる仕様をこうも堂々と入れられるなんて!
「じゃあ始めるよ~」
「おう」
アイテムを使うと、戦闘領域の端っこが光る壁みたいなもので囲われる。この壁の仕様把握も大事なテーマだね。
で、どこからかカウントダウンの声が響いてきて…… 2、1、0!
「行くぞ!」
「ぴゃあっ!?」
情けない悲鳴を上げたことが分かった時点で前後不覚に。
逃げなきゃダメなのに下がろうとしても背中に変な手ごたえが返ってくるばっかりでまったく距離を取れないし! 怖いし!
『今回の判定は引き分けです』
「へっ!?」
思いっきり尻餅をついた痛みで我に返る。ええと?
「おーい、大丈夫か~?」
決闘の時間制限って3分だったっけ…… つまり開始直後から戦闘態勢でこちらに圧をかけてただけのクロから逃げようにも逃げられず思考がバグった状態で3分……
「スキル習得の気配は……なし! 思った以上にキツいかもこれ」
「もうやめとくか?」
「いやいや! 戦闘にならないことが分かったならルールと時間を弄って戦闘範囲を広くすれば練習になるはずだし!」
あと、戦闘範囲の端っこの光の壁は、壁っぽいけどその実押し返される感じの場所で、触ったり蹴ったりすることはできなさそうっていう収穫はあったわけだし!
とりあえず、次の『決闘水晶』を手に取って設定を弄る。まずは30秒の一発先取でいいや。これでHPとMPを突っ込んで……
そういえば僕のMP最大値って今すごく下がってるんだよね。MP大量に消費するスキルはいまだに持ってないけど長期戦になればじりじり枯渇することもあるかも。頭の隅に置いておこうっと。
「じゃあ、次始めるよ!」
「お、おう」
カウントダウン。そして、クロが臨戦態勢に入る! ここで意識を飛ばさないようにしないと今後の立ち回りが組めないからここが正念場!
「ぴゃあっ!」
…………あれ? ここはフィールド端?
前を見れば、開始位置よりも後ろに下がったクロが呆れた目でこっちを見てた。
『今回の判定は引き分けです』
30秒って短いね~。あはは~。
「分かってると思うが、たぶんナンダゴンドさんの威圧感の方が強いぞ?」
「分かってるよ! スキル無しでも最低限直線じゃない逃げ方できるようにしないとなんだよ!」
「いや、素直に決闘辞めるか延期したら……」
「却下! というわけでとりあえず一回威圧感控え目でお願い」
「いや、どういう理屈で威圧されてるのかもわかんねえんだが?」
「とりあえず、がちがちじゃなくゆるっと構えてみてくれる?」
「まあやるだけやってみるが……」
その後何回も模擬戦を繰り返して、どうにかこうにか開始直後にパニックにならないように。はできなかったけどパニック中でもまっすぐ逃げる以外のことが出来るようになったし、壁とかを含めた決闘の仕様にもある程度詳しくなれたし、外周を広く使って距離を取る立ち回りも多少身につけられた。
逆に言うと全くまともに戦うめどが立たないまま決闘当日を迎えることになっちゃったんだけどね!




