縛り133,もろばぎり使用禁止
ほかの原稿を抱えてる時ほど関係ない原稿が進む法則……!
「ふうむ……」
僕たちが持ち帰った素材をじっくりと見分して、悩むスミスさん。ボス周回の中で変なテンションに突入し、そのまま徹夜で荷馬車を走らせたクロのお陰で、予定通りに素材を持ち帰れた。
「やっぱり、これかな」
「やっぱりそれ? ちょっと品質的に厳しいかなと思ったけど」
スミスさんが最終的に手に取ったのは、角が欠け、後頭部にひびの入った頭蓋骨。
「加工の性質上、素材としての品質よりも大事な要素が多いからね。ちなみにこれはどういった由縁のものなんだい?」
「生き埋めにされた挙句首だけ外に出されて、抵抗できないまま首を落とされて死んだ時のドロップだね」
「なるほど、首を守るように活用するか、首への攻撃への耐性が下がる代わりに性能を上げるか……」
そこまで呟いて、どうするか目線で問いかけてくるスミスさん。
難しい二択だね? 主義としてはデメリットを背負ってピーキーな性能で殴る方を取りたいけど、クリティカルは怖いし……
首かあ。奇しくも今の装備のナイフについてる即死効果と判定位置が同じ。武器を更新しちゃったらしばらくナイフは使えないから首狩り族プレイとはお別れだと思ったんだけどね。まさか狩られる側になるなんて。
「ピーキーな方で!」
「ははは。まあどのくらいピーキーにできるかはわからないけどね。死因よりも素材の性質の方が優先されるだろうし」
「ほどほどで!」
一撃死は怖い! って思ったけど、根性あるから問題ないんじゃ? むしろ根性のスキル上げに使えるかも?
「ちなみに、他のはどういう由来のものなんだい?」
「これが、順当に毒とガチンコバトルで沈んだやつで、こっちは崩落したところにさらに崩落させて、最後がれきを発破で崩した時にはすでに死んでたやつ。こっちはクロのジャイアントスイングで壁に叩きつけられたとき運悪くクリティカルして気絶したところに老師のフルボッコ、だったかな?」
たぶん合ってると思うけど、どの戦闘でドロップしたのかは覚えてても、それぞれどんな頭蓋骨が落ちたかまで一致させるのはちょっと自信がないね。
そこで、部屋の入り口からノックの音。この音は、クロかな? ……仮眠に行ったはずじゃ!?
スミスさんが気を利かせて、危険な加工の最中とでも言ってくれれば! 駄目だねスミスさんはボス戦周回での顛末なんて知らないもんね!
「結構無茶な戦い方しちゃったので寝る前に預けておこうと思いまして。修理はユーレイのヤツの加工が終わってからでいいんで」
そんなことを言いながら室内に入ってきたクロの視線が、床に並べられた頭蓋骨に留まる。完全にアウトだね。
「言い訳を聞こうか?」
「品質厳選は必要かなって」
「最初に落ちたのはいつだ」
「二戦目、かな……」
「嘘ついてまで厳選するか普通!?」
「もう二、三周とは言ったけど、落ちてないとは言わなかったよ!」
「結局そのあと五周しただろお前!」
いわれてみれば確かに騙してた!?
頭蓋骨のドロップ率は六割くらい。でも、全員トータルでも一戦で二つ以上落ちることはなかったからレアドロップに近いんだろうね。剥ぎ取りもしたら重複入手できるのかな?
叫んだら頭痛が酷くなったと言ってクロが自室に引っ込み、スミスさんと装備の打ち合わせが続く。ドロップしたアクセサリ類、鉱山のゴブリンの素材と相性のよさそうな鉱石、毎回血染めだと芸がないから今回は「のうしょう鞣し」で呪いを定着させるとか。色合いが地味になるけど染料を入れるか聞かれて、地味な方が『ぽい』のでそのまま行ってもらう。
そして、話し合いの最後に……
「それと、こっちは仕上がったから先に渡しておくよ」
「え、もう!?」
渡されたのは、外見的にはドロップした時と大差のない、森ゴブリンの杖。外付けの付与と、追加素材での強化。いわゆる+強化ってやつかな?
そういえば洞窟のゴブリン魔術師は杖使ってなかったね。
「あそこの敵ってキリコさんとは相性悪かった気がするんだけど」
素材のために初日に突っ込んで死んだ場所、死霊の森。あそこの敵は物理攻撃にかなりの耐性がある上に、リンクするし夜になると増えるしで、物理攻撃で立ち回るのはかなり厳しいと思うんだけど。
「ああ、斬鉄の練習になったって言っていたけど、いったい何者だい?」
「あー、そういえば持ってる鉈が本体的なフレーバーに見覚えが。ええぇ……」
死霊の森の入り口付近に出没するモンスターハチェットレイス。名前も装備も鉈なのに直接ドロップする装備はバックラー。比較的近い上にレベルも高めなので僕のソロレベリングスポットでもあったり。でもクロにレベルで負けてるってことはあいつ経験値効率悪いんじゃない?
どうやら本体の鉈を物理攻撃で破壊することでお手軽にワンパンできるらしいことが判明。なにそれ?
「とりあえず試し切りしてくるね!」
「ああ、気を付けてくれ」
「見るからに危ないもんね……」
ナイフとバックラーにお別れを告げ、改めて杖を装備。長さは70センチくらいで、杖としても手持ち武器としても長くはないけど、端っこ寄りに持てば振り回すのに十分。
宿屋の中庭で、立てかけた丸太に対して杖を構える。
「まずは普通に……」
杖を叩きつければ、ヒットした場所を中心にかまいたちのようなエフェクトが発生し、丸太に浅い切り傷がついた。そして、両手にちょっとした痛み。
斬撃付与ってそういう感じのやつなんだ? そして反動ダメージあり、と。
「スラッシュ! 【スラッシュ】!」
一度目は空振りで、二度目は丸太に当てて。
空振りではそもそも発動せず、当てた時はかまいたちのエフェクトが気持ち大きくなった。打撃自体も切れ込みを入れてるから、発動すれば斬撃ダメージになるっていう【スラッシュ】の効果は健在。
「問題はこれだよね。空振りで発動しないなら、そもそも発動できない可能性あるし…… 【エナジースラッシュ】」
腰だめにした杖に問題なくMPが溜まっていく感覚。そして振り抜けば、何の抵抗もなく丸太をすり抜け、発生したさっきまでとは規模の違うかまいたちが切断面をずたずたにしつつ丸太を上下に分けた。
「おお!」
そして僕の両腕も血まみれになってた。反動ダメージは与えたダメージ依存ってことね! 出血耐性低下装備と合わせたら死んじゃうから血染め不採用は正解だねこれ!
「でもこれなら……」
一撃目と二撃目の反動はちょっと痛いだけでほぼダメージなし。これは物理攻撃扱いでほとんど火力が出なかったのもあるだろうけど、たぶん反動ダメージに魔法防御での軽減が効いてるんだと思う。防具の新調が済めば【エナジースラッシュ】でも問題なく使える。
そして、杖を使った魔法攻撃の威力と、物理的に透過するっていうスキルの性質。間違いなくナンダゴンドさんにも有効だよ!
あとは防具の完成を待って、最終調整をするだけ! リベンジの時は近いよ……!
【呪い:諸刃】斬撃属性の追加ダメージ付与。与ダメージじ、与ダメージに応じた反動ダメージを受ける。
反動ダメージが割とえげつないのは呪い装備の重複によるデメリット強化の影響もあります。普通に使えば与ダメの二割で発生してそこから減衰、くらい。
あとは杖にも普通にゴブリン由来の呪いもついてます。




