縛り124,キメラの翼使用禁止
かなり短いです。
さて、翌日。僕たちはスミスさんの製作物を前に困惑していた。
いち早く困惑から立ち直ったクロがスミスさんに質問してくれた。
「あの、スミスさん、なんですか、これ?」
「見ての通り荷車…… というよりは人力車かな? まあそういうものだよ」
「いえ、それは分かるんですけど、なんでこれを?」
「必要だろう?」
「いやあ、どうですかね……」
スミスさんが荷車として作った人力車(?)は、掴んで引っ張る部分と、大きな車輪のついた荷台そして荷台の上のクッションという割りとシンプルな形状。
「専門知識が有るわけではないが、サスペンションは簡単なものを取り付けてあるし、引っ張りやすさなんかの部分は部品ごとに効果を付与して解決してある。それから……」
スミスさんがクロに対して人力車の仕様を説明してる間に、どうしてスミスさんがこれを作ったのか考えてみる。
最初は荷車を作るつもりだったんだよねたぶん。ということは人を運べるっていうのは元々はついでだった? もしくは人も物も運べるものを当初は考えてた? でもこのゲームはアイテムボックスが有るから、途中でそのことを思い出して、人さえ運べれば物も運べるっていう結論になったとか? なんかそれっぽい気がする。
「スミスさん、これ引っ張るのって……」
「今回はクロ君とそれから老師君も引っ張れることを念頭に設計してあるよ。老師君が引っ張ってクロ君が荷台に乗る場合鎧は外してもらった方が良いだろうね」
「ですよねえ」
わざわざ作ってまで人力車を使うメリットっていう面で考えてみようかな。まず、移動速度が統一できるよね。クロみたいなSTRとSGIを高水準で持ってるプレイヤーはそうそういないとは思うけど、今後全体のレベルが上がっていけばそれだけAGIに重点を置かない後衛や生産型のプレイヤーと前衛で戦うステ振りのプレイヤーの移動速度の差は大きくなっていくし。
それから、危険の少ないマップに限るけど、移動してる間荷台に乗ってる人は休んでおくことができるかな? 交代で引っ張りながら休憩を取れば、結果的にトータルの活動時間を伸ばせて、長い距離を移動できる。座席は…… 見たところふかふかだし、背もたれもしっかりしてる。
「よしっ、じゃあ乗ろっか!」
「あ、はい! わー、ふかふかですね!」
リンドウちゃんに声をかけて乗り込めば、期待を裏切らないふかふかのクッション。正直まだまだ普段の起床時間よりだいぶ早いし、寝不足とは言わないけどもうちょっと寝たかったからね。
「おい!? もう使うのは確定なのか!?」
「だって使わない理由も無いし? 目的地に着いたらクロはしばらく休憩してていいから」
「道中のモンスターとかどうするんだよ!」
「それじゃっ、安全運転でお願いねー」
「話聞け!? コイツもう寝る体勢に入ってやがる!?」
なんならリンドウちゃんはもう寝てるよ? なんだかんだ言ってクロと老師の二人なら道中の危険の排除なんてどうにでもなるだろうし。
それじゃおやすみなさ……
「あっ」
「話聞くきになったか?」
「スミスさん、伝え忘れてたけどキリコさんが素材売りに来てくれると思うからよろしくね。僕のお金預けとくから代金はそこから支払って」
「ああ、分かったよ」
「うん、それじゃ行ってきます」
「いってらっしゃい」
そしておやすみなさい。って言いたいところだけど、スミスさんは理由についてあんまり説明してないし、早く出発して欲しいし、クロにもちょっと共有しとこうか。
「クロ、どう考えてもこれが効率いいことがクロなら考えればわかると思うよ?」
「心情的なことをもうちょっと考えろ!」
「了解」
考える。STRが高いという理由でメンバーが乗った荷台を引っ張らされ、後ろではメンバーが気持ちよく眠っている。はた目にはめちゃくちゃこき使われてるように見えるかもねこれ。
「大丈夫、すぐにスタンダードになって周りの目線とかなくなるよ」
「なってたまるか! お前会話めんどくさくなってるだけだろ! 後で覚えとけよ!」
まあ二人がかりで引っ張れば移動速度はともかく筋力問題は解決するし、後でけん引役交代することで手を打ってもらうことにして今は寝よっと。
今度こそおやすみなさい。
(作者が)やりたい放題です。




