縛り120,失敗作廃棄禁止
週一更新くらいに落ち着けつつ、他のことにも手を出していきたいですね……
お昼の準備なんて時間にすれば十五分くらい。なおかつ自分一人で戦うとなればそもそも戦闘回数が稼げないよね。
という訳で、魔法で索敵して、片っ端から魔術師だけ暗殺したよ。戦闘回数は実質0回! 4匹ほど倒したところで、お昼までに倒して戻れそうな位置には獲物がいなくなっちゃったのでそれで終了。レアモンスターが条件型なら魔術師だけ倒すみたいな行動にも意味が有るかなと思ったけど、この回数だとどうにも試行回数不足な気がするね。
あと、どちらかというと怪しそうなのは魔術師だけ残す方だよね。魔術師だけになったら逃げていくわけだし。逃げた魔術師がどうするのかなーみたいな。魔術師のドロップ狙いだからやらないけどさ。
「ただいまー」
「返り血にまみれて帰って来るな! 飯だっつってんだろ!」
「ええ? そんなにひどい? なるべく気を付けてたんだけど」
とりあえず、返り血まみれで食事するのは僕も勘弁したいので、メニューから装備一式を血染めの服の方に切り替える。手袋はスペアが無いからそのまんまだけど、なんでかこの手袋って血では汚れないんだよねえ。やっぱり吸収とかしてるのかな?
「お前なあ……」
「なに?」
「いや、言っても仕方ないから言わねえよ」
んー? クロがなんか暗い? ツッコミにも普段の切れが無い気がするし。
原因は何だろうと思いつつも、とりあえずレジャーシートみたいな感じで使ってる布に座れば、目に入るのはお弁当箱に詰められた、サイケデリックな色合いの料理の数々……
『なんで!? リンドウちゃんが宿のキッチン借りたりしてる様子は無かったのに!?』
『俺が聞きてえよ! 見た目はムカデ肉の時よりはまともだが……』
クロに個人チャットでどうしてこうなったかを聞いてみるけど有力な情報は無し。
まだ希望を捨てちゃダメだよね。もしかしたら安全な食材と、まっとうな調理方法で作られてる可能性だって消えてない訳だし……
「リンドウちゃんお弁当作ってたんだ?」
「はい! みなさんを驚かせようと思って!」
「食材とか高かったんじゃない? お金出すよ?」
それとなく探りを…… このゲーム、食材の価格で素人が手出しして良いものかどうかだいたいわかるからね。
「いえ、大丈夫です! 美味しそうなお肉がびっくりするくらい安くって!」
「そうなの? 遠慮しなくていいのに」
びっくりするくらい安いお肉…… 豚肉かな~? 街の隣でたくさん取れるもんね~サワガニ的なやつとかの可能性もあるよね~。狼肉はいろんな意味で勘弁して欲しいな~。
『終わったな』
『うん、終わったね。周囲にばれないように毒見して危なそうなら「クロさん一人で食べちゃったんですか? も~!」みたいな方向で処理してくれる?』
『断りてえ…… けどそうも言ってられないんだよなあ』
『間違いなく今回の探索で最大のピンチだからね……』
そんなことを話す間にも、周りの面々は止まってくれないというか、事情を知らない攻略組の二人と、腹ペコの老師と、リンドウちゃん本人なので、僕ら二人で止まることなくカバーしなければいけない。
「それじゃあユーレイさんも戻ってきましたし、食べ始めませんか?」
沸かしたお湯でハーブティーを淹れながらのリンドウちゃんの発言に、被せて老師がサンドイッチを食べ始める。けっこう多めに買ったからサンドイッチを食べてる間は老師は気にしなくても大丈夫。問題は他の二人。
フレンドチャットで忠告できればそれで済んだんだけど、僕この二人とフレンド登録してなくない?
「いただきまーす」
とりあえず僕もサンドイッチを食べ始める。エックス君がキョトンとしてるのは、多分クロからフレンドチャットを受けてるんだろうね。
キリコさんもサンドイッチから食べ始めてるからとりあえず初動はセーフ。
『毒見の結果は……?』
『ダメだな。自然回復をはるかに超える速度でスリップダメージが入り始めた。一切れでこのダメージ量だと急いで完食するのは俺でもマズい。あとなんか知らんが防御力にバフが入ったな』
『つまり、急いでクロが完食しちゃう作戦は使えない、と。そしてバフ付き料理かー』
『そうなるな』
『ちなみに味は?』
『見た目とまったく一致してないことを覚悟してればまあ……』
ちらっと見たけど、クロが今食べたのはとんかつ的な見た目の何かだったね。豚肉だしとんかつなんじゃないの? あの見た目でどんな味だったの?
ともかく、これからクロが完食するまでの短くない時間なんとか誤魔化し続けなきゃダメ。クロが食べ終わるより先に他のみんなが食べ終わっちゃってもダメ。
となると話題を振るべき相手は老師だね。放っておくとひたすら食べる方で口を動かされて詰むよ!
「老師は今日くらいの感じだと手応え足りない感じ?」
「む? まあそうだな!」
「だよねー。だからって勝手にボス部屋入ったりしないでよ?」
「おお! その手が!」
「ダメだってば!」
かなり雑な切り出し方になっちゃったけど、まあ不自然な話題ではないしセーフってことで!
そんな会話をしてる間にクロは比較的安全そうなサラダに手を出し、表情を変えることなく額から脂汗を…… え!? それもアウトなやつなの!?
「それこそキリコさんと模擬戦とかすればいい刺激になるとは思うけど……」
「私ですか? 私は構いませんよ?」
「おお!」
「食事と今日のアイテム掘りが終わったらね?」
クロの手元のお弁当箱の中身はまだ二割も減ってない。キリコさんは何を察したのか手を出そうとはしてないけど、エックス君の様子がさっきからちょっと興味ありげなのが不安だよ。
「みなさんおかずは食べないんですか?」
そこでリンドウちゃんが満を持しての爆弾投下。
「食べてるぞ?」
「クロさんが食べてるのは見てました! どうですか?」
「あ、ああー。そうだな。上達してる、と思うぞ? 料理のこととかよく分かんねえけどな」
そもそも使われてるスキル的に、料理じゃなくて料理っぽい見た目の『錠剤』的なものなんじゃないかっていう気もするけどね…… とりあえず見た目は料理の形してる分だけこれまでの惨状よりは改善してるよね! 美味しそうに見えるだけ前より危険になったとも言える気がするけど。
「私もちょっともらって良いですか?」
普通なら作ったのはリンドウちゃんだし、クロ個人にあげたわけでも無いんだからと答えるところなんだけど。ここで問題です。果たして、リンドウちゃんはリンドウちゃんの料理を食べて大丈夫でしょうか?
「リンドウちゃんさ、作ってる途中で味見とか、した?」
「あっ、してません! じゃあ今から」
「いやいや味見ってそういうことじゃないから!」
「とんかつが自信作なんです!」
そう言ってフォークを取り出してとんかつへと伸ばすリンドウちゃん。しかし、フォークが届く前に横合いからクロのフォークが目にもとまらぬ速度でとんかつをかっさらってクロの口の中へと消した。
「あっ!? クロさん!?」
「悪い悪い、独り占めしようと思ってたわけじゃないんだが、ついついな?」
「もー!」
頬っぺたを膨らませて目いっぱいのおこってるアピールをするリンドウちゃん。でもどことなく嬉しそうなのはやっぱり独り占めする勢いで作ったものが歓迎されてるからかな。
実際は冷汗脂汗の必死の攻防なんだけど。身を挺してリンドウちゃんをリンドウちゃんの料理の魔の手から守るクロの漢気にちょっと感動。
「クロさん、脅すようなことまで言って独り占めなんてずるいっすよ」
「「あっ」」
いつからかこっちの様子をうかがっていたエックス君がひょいっとコロッケのようなものを奪って食べてしまった。
クロとリンドウちゃんが顔を見合わせて微笑みあっている。というかクロがそうやって毒を消化する時間を稼いでいる間に……
「んー、なんか不思議な味だな。美味しいような気がしなくもない……ぜ……?」
バタリ。エックス君があおむけに倒れて発見されました。四日目の朝です。違うよ人狼ゲームじゃないよ!
これはどう収拾付ければいいの!? まずは人命救助!? 吐かせる? 解毒薬? そもそもまだ生きてる!?
「あれ? エックスさん?」
パニックに陥り、一瞬動きが止まった僕とクロをしり目に、リンドウちゃんがエックス君に近づいていく。万事休すかな…… でもこれでリンドウちゃんが料理の危険性に気付いてくれればこれ以上犠牲者が増えることは……
「んー、この症例は、これですね! 【ドラッグ】」
リンドウちゃんが淡々と診察して、スキルを使って解毒薬を投与。しかしエックス君は起き上がってこない。
「リンドウちゃん、それ、どういう症例だったの?」
「え? よくある眠くなる奴ですね。ポーションでもたまにありますよ。風邪薬みたいな!」
「へ、へー。原因は分かってるの?」
「う~ん、なんでも無さそうな草でも何種類かの食べ合わせで後から急に出たりするので…… お腹空いてたなら拾い食いしないで誰かに言えばよかったと思うんですけど。でももう中和するお薬使ったのですぐ起きますよ」
「はっ!? 寝てた!?」
そこでエックス君がガバッと起き上がった。ひとまず何ともなさそうかな……?
「もう、拾い食いとかしちゃダメですからね!」
「拾い食い……?」
「ダメですからね!」
「お、おう。分かった」
首を傾げながらも返事をするエックス君。寝起きだからかもしれないけどなんだかんだ根っこが素直なのは良いことだよね。
リンドウちゃんがいまだに元凶の自覚が無いっていう現実からこのまま逃げ続けたいよ!
「改めて味見を…… あ、エックスさんもとんかつ食べます?」
「俺はもういいかな。なんかわかんないけどお腹いっぱいになったし……」
それ胃もたれっていうんじゃないかな……
リンドウちゃんが自分で食べるしかこの惨劇を止める手段は無いのかな。体力的にとんかつはヤバいと思うからそれだけは阻止しないと……!
「僕もとんかつもらおうかな! あれ? 空?」
「えー! クロさん、全部食べちゃったんですか!?」
「いやー、弁当とか久しぶりだった……からなー」
お弁当はとんかつとコロッケの他にも何種類かおかずが入ってたはずだけど、この短時間で全部行ったの!?
「あー、腹いっぱいになったら眠くなって……きたなー。ちょっと……寝るわ……」
そこまで言い切ると、クロはそのまま眠りについた。
「あっ! クロさん!? もう! しょうがないですね~」
リンドウちゃんが照れくさそうに目線をクロの顔以外に向けていなければ、あまりの顔色に何か気付かれたんだろうけど、ね……
「じゃあちょっと食休みにしよっか。クッキー作ってきたし、お茶のおかわり用意するよ」
「そのクッキー大丈夫なんだろうな」
「そろそろエックス君には僕の評価を改めてもらおうかな!」
こうして、僕らのパーティー最大の危機は一人の尊い犠牲を出しつつも過ぎ去った。
ちなみに、防御力以外にもいろいろバフがついてたらしいけど寝てる間に全部効果時間が過ぎたらしい。悲しいね……
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