縛り116,トラマナ使用禁止
グラブルが時間泥棒過ぎて……
エックス君がキリコさんにこっぴどく怒られる、なんてこともなく、探索は続く。
今は、僕とキリコさんとエックス君と、老師の四人で周囲の植物を調べてる。
「う~ん、この木も違うっぽいかなあ」
「樹皮を剥がして加工するだけで布のようになる植物、でしたっけ?」
「そうそう。ゴブリンが使うくらいだから特殊なスキルとかなくても見つけたり採取したりできるようなものだと思うんだけど」
「ゴブリンが意外にそういうことが得意な種族なのかもしれませんよ」
「まあその場合もクロがこっちに参加すればどうにかなると思うんだけどね」
「じゃあなんで今それやってんだよ。というか……」
今一つ採集にやる気の無さそうなエックス君が視線を戦闘音がしてる方向に向けたので、僕もそっちを見る。さっき確認したときと状況は変わってなくて、植物型のモンスターに武器を絡めとられたクロが、鎧の上からツルでの打撃を受け続けてる。
クールタイムごとにリンドウちゃんがいろんな色の瓶をスキルで投げつけてるけど、今のところモンスターもクロもまだまだ元気そう。
「アレは何をやってるんだよ」
「うん? 実験、かな?」
「もうちょっと状況に対する疑問を持てよ!」
「スキル上げとかの関係も有るし、今回はキリコさんとエックス君にはのんびりしてもらうつもりだからね。どうも、突き刺したり叩いたりっていう攻撃はあんまり有効じゃないみたいだし、けっこうタフだから僕達の中ではあれが一番有効な攻撃手段に成り得るんじゃないかな。今後同系統の敵が出たときの為にもデータは有るに越したことはないし」
「俺が間違ってるのか……?」
まあ、何を重視してプレイ時間やアイテムを使うかっていう話だよね。短期間しかプレイしないとか、攻略情報がすでに充実してるとかならごり押しや人の真似の方が早かったりするし。
ただ、今回みたいにけっこうがっつり何度も戦闘するつもりならあらかじめパターンを見極めとくのは有効っていうだけで。
「えっと、スキルの方を変えてみますね。【メディカルミスト】!」
「うぉい!? 巻き込むなら事前に教えといてくれ!」
「クロさんには効かないので大丈夫です! う~ん、これもあんまり?」
「そもそも毒が効きづらい種族なんじゃないか?」
「え? そうなんですか?」
「いや、あまりにも効かないから言ってみただけだ」
首を傾げながらスキルを使ってたリンドウちゃんが、何を閃いたのか、クロを巻き込む形で毒霧散布。クロにもモンスターにも効果は今一つ。
「い、今、味方ごと!?」
「まああんまり褒められた位置取りや狙いの付け方ではないよね。というか、植物って呼吸してないからあんまり霧状に広げてもダメなんじゃない?」
「そこじゃないだろ!?」
「味方に影響がないなら味方を効果範囲に巻き込むのは別に普通じゃない? 視覚的に邪魔になったり驚かせちゃうことも多いから声かけは大事だけど」
そんなことを話してると、近くでポップしたのか、騒いでるのを聞きつけたのか、今度はゴブリンの群れが現れた。クロが苦戦してるのを見つけると、そっちに向かっていく。
とりあえず、こっち側の木は一通り調べたし、次は反対側かな。
「なあ、助けたほうがいいんじゃないのか?」
「んー? あのくらいの強さならクロ一人でもどうにかすると思うよ?」
「あまりサボってばかりでも申し訳ないのですが」
「そういうことならサクッと手伝いに行こうか」
その言葉を聞くが早いが真っ先に飛び出す老師と、慌てて追いかけるように動くエックス君、きっちり自分のペースで追従するキリコさん。そして、範囲スキルでゴブリンに対処しようとするリンドウちゃん。
「ええっと、【メディカルミスト】! はさっき使ったばかりでした! 【トリートポンド】!」
「ほあたー! おっ?」
「不発……う!?」
「これは……!」
リンドウちゃんのスキルでゴブリンたちの足元に小さい毒沼とでもいうべきものが出現した。
すでに飛び回し蹴りを仕掛けてた老師。一回目のスキル宣言で足を止めかけたものの、不発だったと判断してそのまま近接戦闘を仕掛けようとしちゃったエックス君。二人が毒沼に足を取られてしまう。
キリコさんだけはリンドウちゃんが何かしようとしてるのを見て取った時点で、射線から外れつついつでも踏み込めるように待機してたから範囲の外にいたけどうん。大事故だね!
「おい! 大丈夫か!」
「すみません! えっと、解毒薬解毒薬……」
「救出してくるから薬の用意をしといてくれ」
植物モンスターに絡みつかれたまま、強引に毒沼の方へ足を進めるクロ。根っこごと引っこ抜かれたモンスターが激しく暴れてるけど気にも留めてない。
幸いというかなんというか、エックス君に関しては毒沼の端の方にいたし転んだりもしてなかったから僕の方で救出。毒沼の深さは脛くらいまでしかないんだよねこのスキル。足止めのために麻痺成分入りだからすぐに抜けないと自力で脱出できないんだけど。
「歩くのは無理そう?」
「歩きやすい所ならたぶん大丈夫だ」
「まあとりあえず肩貸すよ。リンドウちゃん、薬の準備は?」
「出来てます! どうぞ!」
「うっ! 苦ああああっ!」
解毒薬の苦さに悲鳴を上げるエックス君。そういう時の為の【投薬】スキルな気がするんだけど、完全にただの攻撃スキル兼回復スキルみたいな扱いになってるよね。
「はいお水。転んで状況悪化させないように無理な移動を避けたのは良い判断だと思うよ?」
「……褒めることもあんのな」
「当たり前じゃん。その前のダメダメっぷりはわざわざ指摘するまでも無いだろうし」
「ぐう」
「ぐふう!」
エックス君に水を飲ませていたら、べしゃりと音を立てて老師が降ってきた。リンドウちゃんが口に解毒薬の瓶を素早くねじ込む。いや、だからスキルをね……?
老師をこっちに投げたであろうクロの方を見れば、ゴブリン魔術師の攻撃魔法の直撃を食らいながらもぼんやりと首を傾げて腕に絡みついている植物モンスターを見ている。
「…………そおいっ!」
そして、エルボードロップのような体勢で自分の右半身ごとモンスターを毒沼にシュート! ちょっとの間もがいていたモンスターだったけどやがてぐったりと萎びて、絡みついていたツタもほどけた。
「ギギギャッ」
「逃がすか!」
毒沼から悠然と立ち上がる姿に前衛がいなくなったゴブリン魔術師が逃げ出そうとするも、機動力の差からあっという間に追いついたクロ。首根っこを掴んで半回転してのド派手な投げ技。ノーコン野郎奇跡のスリーポイント毒沼シュート。追撃のニードロップ。飛び散る毒飛沫。
絵面が! ひどい!
「ユーレイ、リンドウ、分かったぞ! アイツ根っこが弱点だ!」
「あ、うん。長時間戦闘お疲れ様」
毒沼をバックに、毒のしずくを滴らせながら迫って来る長身の全身鎧にエックス君の目が死んでるよ。えっと、強く生きて?
「なるほど、こういった連携パターンであれば確かに下手に手を出そうとするよりも採集に従事していた方が効率が良いのも頷けますね」
「もっと事前に説明しとくべきだったな。すまん」
「巻き込んじゃってすいません! 気を付けます!」
「大丈夫ですよ。治療もしてもらいましたし」
ちょっと引いた表情を浮かべながらも大人な対応で謝罪を受け入れるキリコさん。一番派手に巻き込まれた老師は普段からパーティー組んでるはずなんだけどね。
「はぁ…… まあ周りの人柄を気にしなければ確かにのんびりできるよな。うん、そう思おう」
「お疲れエックス君。ところで、老師に関しては?」
「いや、見た目の時点でまともじゃないだろ。なんでコスプレしてるんだよ」
まあ老師がマトモ枠にはならないよね。というかコスプレだったんだ。なんか納得。
クロの戦闘シーンは書いてて楽しいですね。




