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外にでてよくみてみると、女性たちが働いていた。何やら台の上で肉を捌いたり、服を作ったり、どこかで洗ってきたのかその服を干したり。
子供もいて走り回っている。
画面で見たおなじみの光景だけど、生きるエネルギーというか、活力がまったく違う。
あまり魔法には頼っていない様子だ。そもそも、この村にどれくらい魔法を使える者がいるのか。
ゲームでは細かい所までわからなかった。
「この村、珍しい?」
キョロキョロしていたら、アロイアが勇に聞いた。
「うん。僕の居た所では、こんな光景は見れないよ。テレビでたまに見かけても、あんまり実感ないしね」
「テレビ?」
(ああそうか、えーと)
「遠くのものを見られる機械、かな。機械っていうのは中身が複雑でうまく説明できないんだけど、これくらいのもの」
勇は手を四角く動かして、テレビの大きさを表現してみた。
「ええ、すごい。まるで魔法みたい」
キラキラした目でアロイアは言う。確かに、発達した科学は魔法と見分けがつかないって言った人もいるみたいだけど。
しかし実際に魔法を使う相手に言われては、恐縮してしまう。別に勇が発明したわけではないが。
「魔法のことは知らないけど、そんなに便利なものじゃないよ。たぶんね。決まったチャンネルしか見れないし」
「えーそうかなあ。でも、面白いね。もっと聞きたいな。ユウの世界のこと」
期待を込めてそう言われては、勇もまんざらではない。
何かわかりやすくインパクトあるものは……、と考える。
「他にうちにあるのは……冷蔵庫とか」
「レイゾウコ?」
「うん。こおんなに大きくて扉がついてて、中に食べ物を入れれてそうすると冷気の力で保存できるんだ」
「冷気って冷やすことだよね? へええ。冷やすと長持ちするんだ」
まずそこから驚かれてしまった。この村は食べ物どうしてるんだろう。
「まあ、テレビも冷蔵庫も動かすには電気が必要なんだけどね。物をそのままここに持ってきても、動かない」
「電気、魔力みたいなもの?」
「機械にとっては、そんな感じ」
そんな話をしていたら、村の子供がこちらにやってきた。
「わー、変な奴」
「あっちゃん、この人誰ー」
二人の子供の相手をアロイアがしようとした時、子供らしい大きな声につられて、他の人も集まってきた。
「あらあら、見かけない子ねー」
「どこからきたの? どこからきたの?」
「アロイアちゃんの知り合い?」
さすがにこれだけ集まるとがやがやとしている。女三人寄ればかしましい、どころではない。
皆の顔を見たところ五歳くらいから二十代後半くらいだろうか。ジュウガミ以外は皆若い。
こんなに女性に囲まれたこともないので、勇はたじろいでしまう。
「皆、落ち着いて」
アロイアが一旦そう呼びかけて、
「こっちの子はユウっていうんだ。今日からここに住むことになったから、皆よろしくね」
と、紹介した。
「よ、よろしくおねがいします」
アロイアは頼りになるなあと思いつつ、勇はぺこりと頭を下げる。するとまた、わっと騒がしくなる。
「まあまあ、こちらこそよろしくねー」
「なんだなんだー仲間かー」
「魔法は使えるのかー?」
「新しい服が欲しくなったら、私に言ってね。見たところあまり胸はなさそうね。よかったらその服、後で見せてくれると嬉しいわ」
「ユウっていうのね」
色々な声に混じってなにやら不穏な台詞が流れたが、勇にはよく聞こえなかった。
目の前の押しの強い展開に、引きながら手をふるばかりである。
「はいはーい。皆戻った戻った。一度に皆で来たらユウが大変でしょ」
ぱんぱんと手を叩き、アロイアは村人達を散らせていった。
「ごめんね。騒がしくて」
「ううん。大丈夫。なんていうか、皆良い人だね」
「えへへ。そうなんだあ。親切であったかいよ。だからこそ、私達が頑張って守らないとね」
そうか。なんだかほのぼのとしているけれど、ここは魔法の村なんだ。つまり、魔獣が存在する世界。さっき気になったことを聞いてみた。
「そういえば、ここってどれくらい魔法使える人がいるの?」
「それがあんまり、数人しかいないんだあ。使えるようになるにはちょっとした手順があってね。皆が使えるようになったら、もっと活動範囲が広がるんだけどね」
「なるほど」
誰も彼もが魔法をつかえるということではないらしい。
「それで戦える私達が今のとこ魔獣を倒して、お肉をとったり服の材料をとったり」
話を聞く限り、ゲーム的にいえばまだスタート地点くらいだろうか。ゲームのストーリーのように話を進めたら、どうなるんだろう。元の世界に帰れるようになるだろうか。
(都合が良すぎるかな……)
「大丈夫だよ。ユウに危険なことはさせないから。私達にまかせて」
黙り込んでいたせいか、アロイアに心配をかけさせてしまった。
「まだ案内が途中だったよね。といっても、ここはそんなに見るものもないんだけどね。えへ。えっと、最初に私達が出会った場所が瞑想するところで、ばあやの家にもいったし」
指で数えるように、アロイアはいう。
「あとはお風呂場と、その近くの洗濯場所と、皆でご飯を食べる所」
「ふむふむ」
武器を作ったりする施設はないんだろうな。魔法の村の通りだ。
「まだちょっとご飯には早いから、お風呂場いこっか」
「え、ちょ」
「ほらほら」
アロイアに連れられて、勇は村の外れに向かう。歩きやすいように均されている道があり、進んでいるうちに硫黄のような匂いがしてくる。ふと、昔家族で行った旅行を思い出してしまう。
更に進むと、見えてきた。まさに温泉。広々としたくぼんだ場所に、湯気を放ちながら濁ったお湯が溜まっている。誰かが掘ったのか、自然にできたのか。これさえあれば、村での生活も清潔にたもてそうだ。
「凄いでしょ。ここは皆にも人気だよ。ちょうどいいし、入ろっか。今日朝にちょっと動いたから、汗かいてるんだあ」
そう言って、服を脱ごうとするアロイア。別段物陰というわけでもない。
「ちょっと待って! その前に、言っておきたいことがあるんだ」
勇は慌てて止めに入る。
「なあに? 話なら、お湯に浸かりながらでも」
「違う違う。脱ぐのを止めて」
なんとかぎりぎりのところでアロイアは動きを止めてくれた。簡単な構造の分、脱ぎやすそうだ。リクリほどではないけど、出ている部分がなかったらあっさり脱ぎ終わっていたかもしれない。
肌色以外の色が見えていたらアウトだった。おへそや下着は見えてしまったけど、服とおなじ野性的な素材で、なんというかあまり色気がない。
(そうか。女性しかいないから、恥ずかしさとか無いのか。それに)
「ねえ、もしかして、僕のこと女だと思ってる?」
「うん? 他にあるの?」
そんな風にきょとんとした顔で聞かれては、まるでこの世に男なんていないという気になってくる。
いや、この世界ではそうなのか?
勇がプレイした限りでは、ストーリーにも男はでてきていない。
「ち、違うよっ。僕は男だから」
「男……?」
「男っていうのは、この村の人達とは違うというか、でも同じ生き物でもあって、性別の違いというか」
「?」
(ああ、全然理解されてない。どう言えば伝わるのか)
勇が言葉を探している間、アロイアも黙ってそれを待ち、結果二人の間にしばしの静寂が流れた。
「うーん、ばあやなら何か知ってるかなあ。お話はそれだけ?」
アロイアがその空気を破り、そう聞いてきたかと思うと、勇に近づいた。
「う、うん。え、なに」
さらに近づき、勇の上着に手をかけ、脱がした。さらにベルトに手をかける。
「んーこうかな」
「わ、なにするのっ」
「お風呂一緒に入ろうよ。恥ずかしがらなくてもいいんだよ。えへへ。一緒に入ると皆仲良しになるんだあ」
「わかった、わかったから、自分で脱げるから」
「遠慮しなーい。あれ? なんだろうこれ」
アロイアが男女の違いの決定的な部分に手をかけようとしたところで、勇はいままでの人生で体験したことのないようなスピードでアロイアから離れた。
「きゃっ」
そして急いで隠れながら服を脱ぎ、お湯に入る。もうこうなれば、自分から動いたほうが被害が少ないという算段だ。
「びっくりしたー。えへ。このお湯気持ちいいでしょ。私もはいろーっと」
びっくりしたのはこっちだと思いつつ、後ろを向く勇。今のアロイアをまじまじと眺める度胸はない。
アロイアも静かに湯に入り、はたからみてのほほんとした風景になった。突き抜ける青空、木々の揺れ、鳥の鳴き声、湧き出る湯の水音。
勇としては心臓の高鳴りが止まらないのだが。
二人は肩を並べて同じ方向を見ている。しかし距離は離れていた。アロイアがちょっと近づく。勇もすぐに距離をとる。
「もー、なんで逃げるの」
「そりゃ逃げるよ」
逃げる時にアロイアの方を見てしまったが、白く濁った湯のおかげで顔や肩しか見えなかった。
「だって、恥ずかしいよ。アロイアは平気なの?」
「え、全然。恥ずかしいのはねー、心に壁を作ってるからなんだって。ばあやが言ってたよ。もっとオープンになろうよ」
「アロイアはオープンすぎるよ……」
まだ会って一日もたっていないというのに、このフレンドリーさはどうだろう。田舎は家に鍵もかけないというけれど、それと同じようなものだろうか。
「それにしても、こんなに近くに温泉があるなんてすごいね」
「えへ。でしょ。ユウの世界にも温泉ってあるの?」
「あるにはあるけど、住んでる場所の近くにはないよ。随分と移動しないといけないんだ」
「魔法はないんだよね。どれくらい歩くの?」
「ううん。車だよ」
さすがに歩いて行こうとしたら何日もかかってしまう。
「あ、車っていうのは、座っているだけで移動出来る機械だよ。絵で描くとわかりやすいんだけど」
「くるま。どういうのだろう」
「昔は、よく家族と行ったものだよ。最近はあんまりだけどね」
また黙りこんでしまった。家族のことを思い浮かべたせいか。あまり場の空気を悪くしたくはないのだけど。
「ユウ」
アロイアに呼ばれ顔を向けたら、アロイアが急に立ち上がった。せっかくにごり湯で隠れていた部分があらわになり、とっさに顔をそむける勇。揺れたものなんて何も見ていない。
そのまま勇の方へ近づいてくる。立ち上がった分先程より早いし、急のことで動けない。そのままアロイアは隣に座った。
「えへ。やっぱりこれくらい近くないと話しづらいよね」
しかし、にこやかなアロイアを放っておいて、勇はまた離れた。
「あ、ちょっと」
結局、のぼせる直前まで勇は抵抗を貫いたのだった。




