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絶対防御魔王

作者: 雪人

、「ここが魔王城か……」

暗い空の下、眼前に聳え立つ城を見上げながら、青年が呟いた。

腰に携えた、勇者の証である剣の柄を握り締める。

「……行くか」

覚悟を決め、勇者は巨大な城門へと歩いていった。


ごごごご、と重々しい音を立てながら城門が開いていく。

そうして勇者が城門を開け放つと、そこは巨大なホールであった。

剣を抜き、構えながらゆっくりと中へ踏み入れていく。

最大限の警戒と共に、辺りを見回す。

しかし、そのホールには魔物が一体も見当たらない。

「……どこに隠れてやがる」

慎重に足を踏み出しながら探る。

ホールの周りの壁にはかなりの数の扉があり、いつそこから敵が出てくるかわからない。

剣の先に魔力を集中させ、いつでも『光の矢』を打てるようにしておく。

しかし、一向に魔物が出てくる様子は無く、遂にホールの中央まで来てしまった。

ここで一斉に出てこれるのが一番苦戦するパターンだ。だが、いつまで経っても音一つ立たない。

「誘ってやがるのか」

城門の延長線上、ホールの一番奥にある長い階段を睨みながら呟く。

おそらくその先は玉座の間である。そこで待ち伏せをするつもりか。

どうやら敵はバカではないようだ。

だが、いつまでもここでじっとしているわけにはいかない。

「……よし!」

一度深く息を吐き、一気に階段を駆け上った。


「はぁっ!」

ばん!と扉を開け、玉座の間へ飛び込む。魔力を剣の先端へ最大限に溜め構える。

目を動かし、辺りを確認する。


……敵がいない。

ここは確かに玉座の間だ。広い空間に赤絨毯が敷かれ、その先に仰々しい、黒い暗幕で覆われた椅子がある。

だが、それだけ。予想していた魔物がまったくいない。


と、そのとき、椅子にかけられていた暗幕が動いた。

いや、違う。それは黒いマントだ。椅子に座っていた人物が黒いマントを羽織っていたのだ。

マントを羽織っていた人物は椅子から立ち上がった。

身長は2メートルほど、黒いマントに身を包み、顔には竜の髑髏のような仮面が着けられていた。

「……よく来たな、勇者よ」

低い声で、そう言ってきた。かっ、かっ、と音を立てながら、勇者の元へと歩いてくる。

「お前が魔王か!!」

剣を構え、戦闘態勢に入る。

「いかにも!私がこの城の主である!」

かっ!と、足を踏み鳴らし、魔王は足を止めた。

すでに勇者との距離は3メートルほど。どちらかが飛び出した瞬間、戦いは始まる。


「ようやく会えたな。覚悟はできてんだろうな…」

張り詰めた緊張感の中、勇者が聞いた。

「……」

「だんまりかよ……。まぁ、いい。おい、手下はどうした?待ち伏せしてるんなら、さっさと襲わせろよ」

「待ち伏せ……?ふん、そんなもの、必要ない」

「……おもしれえ。なら見せてもらおうか……」

「……」

「お前の実力をよ!!!」

ダンッ!と勇者が飛び出す。心臓に向けて、一気に剣を突き出す。小細工無しの刺突である。

剣はマントに刺さり、魔王を貫く。

-かに思えたが、マントに触れたところで剣が止まった。何か見えない力に押されているのである。

「……ぐっ!」

一度、剣を引き、間合いを取る。

「おもしれぇ!」

剣を水平に構え、魔王へ向ける。

その剣の先端に光球が創られていく。

「これならぁ!!」

ダァン!!

ショットガンを放ったかのような音とともに、光球は打ち出され、矢となって凄まじい速度で敵を貫かんとする。が、マントに当たった直後、激しい風圧と共に光が弾けた。魔王のマントが風圧で激しくなびくが、矢は防がれた。

しかし、勇者はその内にも更に光球を溜めていた。

ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!

そして次は5発連続で打つ。

魔王が、片手をその矢へ向けてかざした。

すると、魔王の前に壁があるかのように、矢が次々と弾けていく。

凄まじいエネルギーと風が、玉座の間を吹き荒れる。

が、それでも魔王は傷一つ負わずそこに立っていた。

余裕のある動きで、手を下ろす。

「……終わりか?」

「ッ!まだまだぁ!!」

こうなったら城ごとぶっ潰しても仕方ない。

魔力による魔方陣を描き、短く呪文を唱える。

「『ジャッジメント!!』」

叫んだ瞬間、勇者の背後に巨大な魔方陣が浮かび上がった。

その魔方陣に魔力が走り、一気に弾ける。

その魔力の奔流は、幾重もの雷となり、魔王もろとも部屋を消滅させるかのごとく駆け巡る。

激しい光の明滅のなか、落雷の途轍もない音が間断なく響き渡る。

勇者の持つ神級魔法、『ジャッジメント』が、すべてを消滅させようと、その雷を振らせ続ける。

そして、1分ほど、圧倒的な電撃が放たれた後、魔方陣は静かに消えた。


光の明滅のせいで数秒だけ目が見えにくい。しばらくしてあたりを確認すると、床、壁は黒焦げになっていた。

……いや、違う。

魔王が立っている。そして、魔王を境に、部屋の向こう側は一切のダメージが無い。

当然のごとく、魔王は平然とそこに立っていた。

「な……」

さすがにこの事態には勇者も絶句した。この城一つをふっとばすつもりで放った魔法を、まったくの無傷で防がれたのだ。

「……終わりか?」

「はぁ……はぁ」

「……終わりだな」

「くぅ…!」

神級魔法を使った疲労、そしてなにより、絶望感が勇者の戦意を挫く。

だが、それでも己を奮い立たせ、剣を構える。

「勇者よ…もう戦いは終わりだよ…」

いつの間にか目の前に魔王が立っていた。

「…!」

がっ、と魔王は勇者の剣を掴み、奪い取り、放り投げた。


「これでもう戦えないな、勇者よ」

「……くそ」

「どうだ、もう戦意は無いか」

「……」

「くくく、哀れだなあ勇者よ。そんなお前にひとついいことを教えてやろうか?」

「…殺せよ」

「ん?」

「いいから、はやく殺したらどうなんだよ」

「ああ、なるほどなぁ!せめてこんな無様な時間は終わらせてさっさと死にたいと!!」

「…」

「ははは、残念だったなぁ!!私はお前を殺しはしないさ!」

「く……!!」

「なぜか知りたいか?仕方ない、教えてやる」

「……」

「それはなぁ、私には攻撃力が無いからさ!!」


「……は?」

「くくく、驚いてる、驚いてるなぁ」

「…なんだって?」

「いいか、もう一度しか言わないぞ!私はな!攻撃力が皆無なんだよ!!」

「……どゆこと?」

「要するに、お前を殺せるだけの力も、魔力もないんだよ」

悲しそうに、魔王がぽつりと呟いた。


勇者と魔王が、二人で向かい合っていた。とりあえず剣は拾った。

「え?なに?どういうこと?」

「いやだからさぁ、防御魔法しかおぼえられないんだよね、うん」

「…魔王なのにか?」

「まぁ、うん。魔王って言っても色々あるんだよ」

「…『ファイヤー』くらいは使えるよな?」

「ううん、無理」

「小学生でも使えるぞ!?」

「うるさいなぁ、でも『イージスの盾』くらいなら小学生のときに使えるようになったぞ」

「神話級魔法じゃねぇか!?」

「そうなんだよ。防御魔法だけは凄まじいんだよ」

「……」

勇者が絶句する。なんだそれは。

攻撃がまったく使えない魔王?どういうことだ?


「え、なに?じゃあ、お前俺と戦ってどうするつもりだったの?」

「ああ、そのことなんだけどさ」

思い出した、というように魔王が手を打つ。

そんな気さくな感じでいいのかよ、と少しだけ思った。

「とりあえず、和平交渉しようよ」

「…はぁ?」

和平交渉?何を言ってるんだ、こいつは。

「和平もくそも、じゃあなんで宣戦布告なんかしてきたんだよ。こっちは、お前が戦争しかけてきたから、戦争やってんのによ」

「いや、別に宣戦布告してないし」

「してきただろ」

「したのは魔神だよ」

「……してるじゃねぇか」

「違う違う!!魔神と魔王は別!あれは魔神が勝手に魔界全体として宣戦布告しやがったんだ!こちらは別に戦争なんかしたくない!」

「はぁ…?」

「ほら、お前らにだって国ってやつがあるだろう?」

「ああ、あるよ」

「魔界にもあるんだよ、そういうの。魔王がそれぞれ統治してる。で、魔神っていうのは魔界で一番でかい国のトップのこと。結構な権力は持ってる」

「はぁ…」

「で、そいつが勝手に戦争を人間界に吹っかけやがった。おかげで戦う気の無い我々みたいなのは大迷惑。しかも私の国、人間界にかなり近いし。案の定、勇者来たし」

「……」

「まぁ、つまり、こちら側に戦う意志が無いのはわかっていただけたかな?」

正直、よく分からん。魔界にも様々な事情があるのだろうということだけはなんとなく分かった。

だが、そう易々と和平というわけにもいかない。

「いや、まぁお前にも事情があるってことは分かった。でもさ、人間界にも事情がある。実際に被害を出された国だってある」

「まぁ、戦争に乗り気な魔王も結構いるからな」

「その時点で人間との和平交渉ってのは無理だと思わないか?」

「じゃあ、お前が和平交渉に乗らないなら、もういっかい戦うか?」

「それは嫌だ。帰る」

「じゃあ、人間界に攻め込む魔物たち全員に上級結界張ってやろうか?」

「な…!!」

それはあまりにも厄介すぎる。そんなことが実際にやられたら、人間に勝ち目がなくなってしまう。果たして本当に出来るか分からないが、しかし、こいつならやりかねない。こいつは、防御魔法だけは本当に最強だ。

……待てよ?

「なぁ、お前、防御魔法は最強なんだよな」

「まぁ、最強だな」

「防御力は?」

「肉体的には皆無だ」

「んじゃ、ここでたたっ斬りゃ死ぬよな?」

「……」

「よし」

「待て待て待て、ストップ!話だけでも聞いてくれ!!」

「…どうしてもか」

「どうしてもだ」

「……しかたねぇ、言ってみろ」

「よし、やっと乗ってくれるか」

「条件だけ聞いてやる」

「何、そんなに難しくない。私と、私の配下にいる魔物、そして私の城を攻めないことを約束してほしい」

「……それだけか?」

「それから、私以外にも戦争を望んでいない魔王はいる。そういう奴らも攻めないでやってほしい」

「それはきついだろう。いつ裏切るかも分からないじゃないか」

「だから、城ごとその魔王たちを私の結界で囲む。言っておくが、私の結界は魔神でさえも破るのに3ヶ月はかかる。なんなら、人間界の結界も使えばいい。これでどうだ?」

「……なるほどな。しかし、それだけで国は説得できないんじゃないか?」

「代わりに、私が人間界の国に防御結界を張る。強度はお前の折り紙つきだろう」

「……」

「だから、なんとか国に交渉してもらえないか?」


ふと気がつくと、魔王はとても必死な様子だった。

「なぁ、なんでそんなに必死なんだ?」

「ん?」

「だって、お前には結界があるじゃないか。なんなら、それで篭城しておけば安全だろう」

「ああ、まぁな…」

「なら、どうしてわざわざそんなめんどくさいことを…」

「……私の手下には、子供がいる」

「……?」

「女もいる。今はこの先の倉庫へ皆避難させている。…もちろん、お前の理屈は正しい。でも、何かの拍子に結界が破られるかもしれない。そんな恐怖が付きまとうんだよ、お前の理屈には」

「……」

「いくら世襲制で受け継いだ王位でも、民を不安にさせてはいけない責任が私にはあるんだよ」

「世襲制なのか……」


勇者は考え込んだ。

魔王の気持ちは分かる。どうやら、こいつは本当に戦争はしたくないのだ。

なんとしても、安全を民衆に与えてやりたいのだろう。

だが、人間はそう簡単に納得するだろうか?俺が王を説得することになるだろうが、果たして出来るだろうか?

……


「頼む、勇者、お願いだ…」

魔王が頭を下げた。

こいつは、民衆のために頭を下げることが出来るのだ。いとも簡単に。

…俺はどうだ?勇者などと呼ばれ、人を助けるために戦ってきた。

それなのに、いつの間にか、俺は敵を倒すために戦っていた。

民衆を守ろうとするこいつを、俺は斬るのか。自分の身を危険さらしてまで民衆を守ろうとしてるこいつを。

……そうじゃねぇだろ。


「顔上げろ、魔王」

「え…」

「分かった、俺が説得してきてやる」

「ほ、本当か!?」

そうだよな。俺は勇者だ。みんなを守る存在だ。それが魔界の者でも、変わらない。

「ああ、出来る限りやってやるよ」

「ああ、すまない!ありがとう!」

この魔王、魔王の癖に全然威厳が無い。こんなやつに一度は負けたかと思うと、非常に腹立たしい。だが、こんな魔王も悪くないと思った。

お読みいただきありがとうございます。

この話、頭に浮かんだことをつらつらと書いていったものなので、色々と読みにくかったり、おかしいところがあるかもしれません…


そういうところも含めて、感想、批評がいただければ幸いです。

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