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リバイバル Iwo-jima  作者: 双鶴


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第5話 「制海権のあるうちに」

 昭和十九年六月。

 栗林晴翔――いや、栗林忠道中将としての晴翔は、参謀本部の一室にいた。


 机の上には、硫黄島の地形図、兵站資料、工兵隊の編成表、そして補給船の運航予定表が並んでいる。

 藤田副官が横に控え、参謀たちが緊張した面持ちで待っていた。


 晴翔は深く息を吸い、口を開いた。


 「……まず、最優先は物資の搬入だ。

  制海権が完全に失われる前に、できる限りの資材を硫黄島へ送る」


 参謀たちがざわつく。

 だが晴翔は続けた。



 「地下陣地の構築には、木材、鉄材、コンクリート、工具が必要だ。

  特に木材は大量に要る。

  今のうちに、船団を組んで一気に運び込む」


 参謀の一人が口を開く。


 「閣下、硫黄島は港湾設備が乏しく、揚陸に時間が――」


 「だからこそ、今だ。

  米軍の潜水艦が増える前に、まとめて送り込む」


 史実では、工事資材は慢性的に不足し、地下壕の完成度が低かった。

 晴翔はそれを知っている。




 「工兵隊を増員する。

  さらに、民間の土木作業員を徴用し、硫黄島へ送れ」


 参謀たちが驚愕する。


 「民間人を……硫黄島へ、でありますか?」


 「そうだ。

  彼らの技術がなければ、地下壕は間に合わない。

  軍属として扱い、待遇は最大限に配慮する」


 史実では、工兵隊は人手不足で、地下壕工事は常に遅れていた。

 晴翔はそれを補うため、異例の決断を下した。



 「地質学者を呼べ。

  硫黄島の地熱と地層を調査させ、井戸掘削の可能性を探る」


 参謀たちが息を呑む。


 「い、井戸掘削を本気で……?」


 「本気だ。

  水がなければ戦えない。

  地熱が高いのは承知しているが、方法はある」


 さらに晴翔は続けた。


 「気象学者も派遣する。

  雨量、風向き、湿度――すべて地下壕の環境に影響する。

  データを集め、換気計画に反映させる」


 昭和十九年の軍で、ここまで科学者を前線に送る発想は異例だった。

 だが晴翔には、史実の悲劇を避けるための確信があった。



 「食糧は乾パン、缶詰、味噌、塩、乾燥野菜を中心に。

  最低でも六ヶ月分を確保する。

  弾薬は可能な限り前倒しで搬入。

  銃火器は九九式小銃、軽機関銃、擲弾筒、迫撃砲を優先する」


 参謀が恐る恐る尋ねる。


 「六ヶ月分……でありますか?

  硫黄島は、そこまで持久する計画では――」


 晴翔は静かに言った。


 「持久する。

  必ずだ」


 その声には、史実を知る者だけが持つ確信があった。



 藤田副官が慎重に口を開く。


 「閣下……水際撃滅を主張する古参の将校たちが、強く反発しております」


 晴翔は即答した。


 「更迭する。

  水際撃滅は、米軍の艦砲射撃で全滅するだけだ。

  反対派は全員、内地へ戻せ」


 参謀たちは息を呑んだ。


 「……承知いたしました」


 史実でも、栗林中将は水際撃滅派を排除し、持久戦へ舵を切った。

 晴翔はその決断を、史実より早く、強く行った。



 「戦闘訓練は、地下壕戦を中心に再編する。

  火炎放射器対策、通気孔の防御、壕間移動の訓練を徹底しろ」


 参謀が頷く。


 「了解いたしました。

  兵たちには、壕内での長期戦を覚悟させます」


 晴翔は地図を見つめながら言った。


 「硫黄島は、地上戦では勝てない。

  地下で、持久するしかない」



 晴翔は立ち上がり、参謀たちを見渡した。


 「米軍の潜水艦が増えれば、補給船は沈められる。

  今しかない。

  制海権があるうちに、すべてを送り込む」


 藤田副官が敬礼する。


 「閣下のご命令、直ちに実行いたします」


 晴翔は静かに頷いた。


 ――史実では、間に合わなかった。

 ――だが、今なら間に合う。


 その夜、晴翔は宿舎に戻り、机に突っ伏すように眠りに落ちた。


 次に目を開けたとき、そこはまた現代のアパートだった。


 「……よし。次は、硫黄島だ」


 晴翔は、決意を新たにした。


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