第40話 「地下を守る──湿気・病と疲労との戦い」
昭和二十年二月二十三日。
地上では米軍が再び隊列を整え、飛行場周辺での攻勢を強めていた。
だが、晴翔が最も気にしていたのは――
敵ではなく、味方の“消耗”だった。
地下壕は安全だ。
炎も砲撃も届かない。
しかし、湿気、病気、疲労は確実に兵を蝕む。
晴翔は参謀と医療班を呼び、静かに言った。
「今日の主戦場は“地下”だ。
敵ではなく、我々自身と戦う。」
硫黄島の地下は湿気が強い。
壁から水滴が落ち、床は常に湿っている。
放っておけば、
・皮膚病
・脚気
・呼吸器の不調
が兵を襲う。
晴翔は工兵隊長に命じた。
「排水溝をもう一本掘れ。
壕の奥に“乾燥区画”を作る。
湿気を避ける場所が必要だ。」
工兵隊長は驚いた顔で頷いた。
「乾燥区画……なるほど。
湿気を逃がすだけでなく、兵の休息場所にもなる。」
晴翔は続けた。
「湿気は敵だ。
壕が守っても、身体が壊れれば意味がない。」
医療班は地下深部に移動していたが、
晴翔はさらに細かい指示を出した。
「軽症者と重症者を分けろ。
同じ空間に置くな。
感染症は地下では広がりやすい。」
軍医が頷く。
「閣下……ここまで細かく指示を出す指揮官は、
私は初めて見ました。」
晴翔は静かに答えた。
「戦いは銃だけではない。
病気で倒れれば、弾を撃つ前に負ける。」
軍医は深く頭を下げた。
晴翔は兵站担当を呼び、
食糧と水の管理を徹底させた。
「今日から配給量を一定に保て。
増やすな、減らすな。
兵の体力は“安定”が一番だ。」
兵站担当は驚いた。
「閣下……戦況が良い時に増やすのではなく……?」
晴翔は首を振った。
「増やせば、次に減らした時に士気が落ちる。
戦いは長期戦だ。
“波”を作るな。
一定を保て。」
兵站担当は深く頷いた。
地下壕の奥では、兵士たちが静かに休んでいた。
疲労は濃い。
だが、表情には絶望がない。
「……昨日より湿気が少ないな」
「乾燥区画、助かる……」
「医療班が近くにいると安心する」
晴翔は彼らを見渡し、
胸の奥で静かに思った。
――史実では、疲労と病が兵を壊した。
――だが今回は違う。
――兵は守られている。
――心も折れていない。
晴翔は地図を見つめながら、
静かに呟いた。
「……戦いは、まだ続く。
だが、諸君は必ず生き残れる。
そのための準備は、すべて整えた。」
地上では米軍の砲撃が再び始まった。
だが、地下壕は揺るがない。
晴翔は拳を握った。
「……明日も、生き延びる。」




