第36話 「後部を撃て──戦車戦の極限」
昭和二十年二月二十日、正午過ぎ。
飛行場周辺の戦闘は激しさを増し、砂煙と硫黄の匂いが空気を満たしていた。
米軍は火炎放射戦車を失ったことで焦り、今度は通常のシャーマン戦車を多数投入してきた。
だが、晴翔は知っていた。
シャーマン戦車の最大の弱点は“後部エンジン”だ。
そして、歩兵がそこに回り込めば撃破できる。
栗林晴翔――栗林忠道中将としての晴翔は、壕の奥で兵士たちを集めた。
晴翔は木製の戦車模型を手に取り、兵士たちに示した。
「諸君。
シャーマン戦車は正面装甲が厚い。
だが、後部エンジンは薄い。
ここを撃てば、確実に止まる」
兵士たちは真剣な表情で頷いた。
「閣下……本当に、歩兵でも戦車を止められるのですか?」
「止められる。
だが一人では行くな。
必ず三人一組で動け。
片方が注意を引き、もう一人が回り込み、
最後の一人が爆薬を仕掛ける」
晴翔の声は落ち着いていた。
その落ち着きが、兵士たちの恐怖を消していく。
地面が震えた。
シャーマン戦車が砂煙を上げながら前進してくる。
砲塔が左右に揺れ、銃口が地下壕の位置を探っている。
歩兵がその後ろに続き、銃を構えている。
晴翔は短く命じた。
「狙撃班、戦車の視察孔を牽制しろ。
歩兵班、準備」
狙撃班が地上に出て、砂丘の影から視察孔へ牽制射撃を行う。
戦車は砲塔を振り回し、注意を奪われる。
晴翔は続けた。
「今だ。
後部へ回り込め」
歩兵三人が砂丘の影を滑るように移動し、
戦車の死角へと回り込んだ。
戦車は前方の狙撃班に気を取られ、後方は完全に無防備だった。
「……行くぞ」
先頭の兵が小声で合図を送る。
1人目が戦車の側面に石を投げ、注意を引く。
砲塔がわずかに動く。
2人目がその隙に後部へ走り込み、
排気口の位置を確認する。
3人目が爆薬を取り出し、
排気口の真下にそっと置いた。
「セット完了……! 離れろ!」
三人は砂丘の影へ飛び込んだ。
次の瞬間――
爆発。
戦車の後部から黒煙が上がり、
エンジンが停止した。
砲塔がゆっくりと下を向き、動かなくなる。
米兵が叫ぶ。
「後ろだ! 後ろをやられた!」
「どこから来た!?」
戦車は完全に沈黙した。
歩兵三人が無事に帰還すると、
壕の中は静かな熱気に包まれた。
「閣下! 戦車、撃破しました!」
「三人一組で……本当に倒せました!」
「閣下の言った通りでした……!」
晴翔は頷いた。
「よくやった。
諸君は強い。
知識と連携で、戦車は倒せる」
兵士たちの顔には、恐怖ではなく自信が宿っていた。
米軍は戦車が次々と沈黙するのを見て、
指揮系統が乱れ始めた。
「戦車が……全部止められている……!」
「日本軍はどこにいる!?」
「全部地下に潜っている!」
晴翔は静かに呟いた。
「聞いたことがないだろう。
これは“未来の戦い方”だ」
晴翔は壕の入口に立ち、煙を上げる戦車を見つめた。
――史実では、戦車に押し潰され、焼かれ、壊滅した。
――だが今回は違う。
――兵たちは恐れず、連携し、知識で戦っている。
晴翔は拳を握った。
「……諸君。
まだ戦いは続く。
だが、必ず生き延びるぞ」
硫黄島の戦場は、
日本軍が“生存のための戦い”を実現しつつあった。




