表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リバイバル Iwo-jima  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/48

第35話 「火炎の牙──だが、炎は届かない」

 昭和二十年二月二十日、午前。

 飛行場周辺の罠が米軍を大きく削った翌日。

 米軍は戦術を切り替え、ついに“あの兵器”を投入してきた。


 火炎放射戦車――

 M4A3R3、通称「フレーム・シャーマン」。


 炎で地下壕を焼き尽くすために作られた、

 硫黄島戦の“悪魔”とも呼ばれた兵器だ。


 だが、晴翔は知っていた。

 史実で日本軍を最も苦しめたのは、この火炎放射戦車だった。

 だからこそ、対策を徹底していた。



 飛行場西側の砂煙の向こうから、

 黒い影がゆっくりと姿を現した。


 砲塔の横に巨大な火炎ノズルを備えたシャーマン。

 その後ろに歩兵が続く。


 「来たな……」


 晴翔は壕の奥で、静かに呟いた。


 兵士たちの顔が強張る。

 火炎放射器の恐怖は、どれほど訓練しても消えない。


 だが晴翔は、落ち着いた声で言った。


 「諸君。

  恐れるな。

  炎は“偽の通気孔”に吸われる。

  本物の壕には届かない」


 兵士たちは息を呑んだ。


 「閣下……本当に……?」

 「昨日も閣下の言葉は全部当たった……」

 「信じよう……!」



 火炎放射戦車が、壕の位置を探しながら前進する。

 そして、地面に開いた“通気孔らしき穴”を見つけた。


 それは晴翔が作らせた、**偽の通気孔**だった。


 戦車の砲塔がゆっくりと向きを変える。

 ノズルが穴に向けられる。


 次の瞬間――

 轟音とともに、炎が地面に叩きつけられた。


 炎が穴に吸い込まれ、地中で爆ぜる。


 だが、壕の中は静かだった。


 兵士たちは驚きの声を上げた。


 「……熱くない……!」

 「煙も来ない……!」

 「閣下の言った通りだ……!」


 晴翔は頷いた。


 「炎は曲がれない。

  二段階の角度をつけた本物の通気孔には届かない。

  偽の通気孔に撃ち続ける限り、我々は安全だ」



 米軍は炎が届かないことに気づき、焦り始めた。


 「焼けないぞ!?」

 「地下壕が……どこにあるのか分からない!」

 「通気孔を狙っているのに、効果がない!」


 戦車は炎を吐き続けるが、

 それはすべて“偽の穴”に吸われていく。


 晴翔は参謀に命じた。


 「今だ。

  側面から狙撃班を出せ。

  火炎放射戦車は後部エンジンが弱点だ」


 参謀が頷き、伝令が走る。



 狙撃班は地下壕から静かに這い出し、

 砂丘の影に身を潜めながら戦車の側面へ回り込んだ。


 火炎放射戦車は前方に集中しており、

 側面は完全に無防備だった。


 狙撃班長が小声で言う。


 「……後部エンジン、狙え」


 銃声が一発だけ響いた。


 次の瞬間、戦車の後部から黒煙が上がり、

 火炎放射ノズルが沈黙した。


 米兵が叫ぶ。


 「後ろだ! 後ろを撃たれた!」

 「どこからだ!? 姿が見えない!」

 「地下だ! 全部地下からだ!」


 米軍は完全に混乱していた。




 狙撃班が無事に帰還すると、

 壕の中は静かな熱気に包まれた。


 「閣下……火炎放射器が……効かなかった……!」

 「偽通気孔が、本当に炎を吸った……!」

 「戦車も……倒せた……!」


 晴翔は静かに言った。


 「諸君。

  恐れる必要はない。

  敵は強いが、弱点もある。

  我々は“知識”で勝つ。

  そして、生き延びる」


 兵士たちの目に、恐怖ではなく確信が宿った。



 晴翔は壕の入口に立ち、煙を上げる戦車を見つめた。


 ――史実では、火炎放射戦車が日本軍を焼き尽くした。

 ――だが今回は違う。

 ――準備がすべてを変えた。

 ――兵たちの心も折れていない。


 晴翔は静かに呟いた。


 「……諸君。

  まだ戦いは続く。

  だが、必ず生き延びるぞ」


 硫黄島の戦場は、

 史実とはまったく違う姿を見せ始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ