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リバイバル Iwo-jima  作者: 双鶴


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第32話 「地下からの迎撃」

 昭和二十年二月十九日、午前六時三十分。

 硫黄島の空はまだ薄暗く、海は灰色の波を静かに揺らしていた。

 だが、その静けさは長く続かなかった。


 栗林晴翔――栗林忠道中将としての晴翔は、主壕の入口に立ち、海を見つめていた。

 昨日までの艦砲射撃で海岸線は削られ、砂は吹き飛び、地形は変わり果てている。

 だが、壕は耐えた。

 兵も耐えた。


 そして――ついに、その時が来た。



 海の向こうで、無数の揚陸艇が一斉に動き出した。

 灰色の海を埋め尽くすように、波のように押し寄せてくる。


 「……来たか」


 晴翔の呟きは、壕の奥にまで響いた。


 兵士たちは息を呑み、耳栓を押し込み、銃を握りしめる。

 だが晴翔は手を上げ、静かに言った。


 「撃つな。

  まだだ。

  水際では戦わない。

  敵を“飛行場”へ誘導する」


 兵士たちは頷いた。

 晴翔の言葉は、もはや絶対だった。



 揚陸艇が砂浜に乗り上げ、米兵たちが次々と飛び出す。

 戦車が海から現れ、砂を巻き上げながら前進する。


 だが――日本軍の銃声は一発も聞こえない。


 「……抵抗がない?」

 「日本軍は壊滅したのか?」

 「いや、そんなはずは……!」


 米軍の隊列が乱れ始める。

 史実と同じ光景。

 だが、今回は“罠”だ。


 晴翔は壕の奥で、静かに呟いた。


 「来い……飛行場へ。

  そこがお前たちの墓場だ」



 米軍は抵抗がないことに戸惑いながらも、

 “最優先目標”である飛行場へ向かって進撃を開始した。


 戦車が砂を踏みしめ、歩兵がその後に続く。

 航空支援が上空を旋回し、島の中心部へ爆弾を落とす。


 だが、地下壕はびくともしない。


 晴翔は参謀に命じた。


 「全隊、射撃準備。

  だが、まだ撃つな。

  敵が散開し、袋小路に入り込むまで待て」


 参謀たちは頷き、各壕へ伝令を走らせた。



 兵士たちは息を潜め、銃口を暗闇に向けた。

 外では戦車の轟音が響き、米兵の怒号が飛び交っている。


 だが、地下は静かだった。

 まるで深海の底のように。


 兵士の一人が小声で呟いた。


 「閣下……本当に、飛行場で迎撃するんですか……?」


 晴翔は静かに頷いた。


 「そうだ。

  敵は飛行場に殺到する。

  そこが“罠”だ。

  諸君は、ただ待てばいい」


 兵士たちは深く頷いた。

 晴翔の言葉は、恐怖を消し、心を落ち着かせる力を持っていた。



 午前九時。

 米軍は飛行場西側に到達し、散開を始めた。


 戦車が誘導溝に近づき、歩兵が袋小路へ入り込む。

 偽の弱点に向かって隊列が伸びる。


 晴翔は壕の奥で、静かに手を上げた。


 「……撃て」


 その瞬間、地下壕の蓋が一斉に開き、

 狙撃銃、機関銃、迫撃砲が火を噴いた。


 米軍は完全に不意を突かれた。


 「伏せろ! どこから撃ってきている!?」

 「地下だ! 地下からだ!」

 「戦車が……動けない! 溝に落ちたぞ!」


 飛行場周辺は、一瞬で地獄と化した。



 晴翔は冷静に戦況を見つめていた。


 ――史実では、この瞬間に日本軍は力尽きた。

 ――だが今回は違う。

 ――準備は整っている。

 ――兵も壕も、心も折れていない。


 晴翔は静かに呟いた。


 「……諸君。

  ここからが本当の戦いだ。

  生き延びるための戦いが、始まる」


 硫黄島の地獄は、ついに火を噴いた。


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