第24話 「上陸初日の迎撃計画」
昭和十九年十一月下旬。
空襲の回数はさらに増え、硫黄島の空は一日に何度も黒煙で曇った。
米軍の偵察機は島の上空を旋回し、海の向こうでは艦隊の再編が進んでいるという報告が相次いでいた。
栗林晴翔――栗林忠道中将としての晴翔は、参謀たちを司令部の作戦室に集めた。
机の上には、南部の海岸、二つ根浜と翁浜の詳細な地図が広げられている。
「今日から、上陸初日の迎撃計画を詰める。
敵がどこに来るか、どう動くか……
すべてを予測し、準備する」
参謀たちの表情が引き締まった。
晴翔は地図の一点を指で叩いた。
「参謀本部の最新分析では、米軍は南部の海岸から上陸する可能性が最も高い。
特に、千鳥飛行場の南側の海岸線が有力だ」
参謀が頷く。
「地形が緩やかで、戦車の上陸に適していますからな……」
晴翔は続けた。
「敵はまず艦砲射撃で地上陣地を破壊し、
次に空爆で島全体を焼き払う。
その後、戦車と歩兵が一気に突破を狙うだろう」
兵士たちの顔が強張る。
晴翔は静かに言った。
「だが、我々は水際で戦わない。
地上で戦わない。
地下で迎え撃つ。
これが我々の勝機だ」
晴翔は地図に赤い線を引いた。
【米軍の初動予測】
- ① 南部海岸に戦車・歩兵が上陸
- ② そのまま摺鉢山方向へ進撃
- ③ 飛行場を最優先で確保
- ④ 島を南北に分断し、日本軍を孤立させる
参謀たちが息を呑む。
「閣下……敵は、先ずは飛行場確保と島の分断が目的なのですね」
晴翔は頷いた。
「そうだ。 飛行場が破壊されたら本土空襲の中継基地にできないからだ。
だからこそ、我々は“飛行場を餌にする”。
敵が飛行場に殺到した瞬間、地下から撃つ」
晴翔は青い線を引き、迎撃計画を示した。
【迎撃計画】
- ① 水際には兵を置かない(損耗を避ける)
- ② 敵が散開した瞬間、地下壕から狙撃・迫撃砲
- ③ 夜間に小規模奇襲で敵の補給線を断つ
- ④ 戦車は“壕の角度”で誘導し、火炎放射器を無力化
- ⑤ 飛行場周辺に“偽の弱点”を作り、敵を誘導する
参謀が驚く。
「閣下……これは、島全体を使った“罠”ですな」
晴翔は静かに頷いた。
「その通りだ。
正面から戦えば勝てない。
だが、島を使えば勝てる」
晴翔は兵士たちを広場に集めた。
「諸君。
米軍は南部の海岸から上陸する。
だが、我々は水際で戦わない。
地下で迎え撃つ。
敵が散開した瞬間、撃つ。
夜は奇襲で敵を削る」
兵士たちの表情が変わった。
「閣下……我々は、勝てるのでしょうか?」
晴翔は静かに答えた。
「勝てる。
正面からではなく、“方法”で勝つ。
この島そのものが、我々の武器だ」
「だが、真実は勝つというより耐える、だ。
耐えて時間を稼ぐのだ。
そして、生き残って見せようではないか」
兵士たちの目に光が宿った。
司令部に戻ると、晴翔は机に向かい、地図を見つめた。
――史実では、上陸初日に南部海岸が突破された。
――だが、今回は違う。
――地下壕は強化され、偽装は完成し、兵の心も折れない。
――迎撃計画も整った。
晴翔は拳を握った。
「……次は、飛行場周辺の“罠”を完成させる」
視界が揺れる。
眠気が襲う。
机に突っ伏した瞬間、意識が沈んでいく。
次に目を開けたとき、そこは静かなアパートの天井だった。
晴翔はノートを開き、書き始めた。
「……飛行場周辺の罠。
史実では突破された場所を、逆に“袋小路”にする。
次は、その設計だ」




