第23話 「艦砲射撃に耐える心」
昭和十九年十一月中旬。
空はどんよりと曇り、海は荒れ、硫黄島全体が重苦しい空気に包まれていた。
米軍の偵察機は日に日に増え、空襲も断続的に続いている。
栗林晴翔――栗林忠道中将としての晴翔は、司令部の前に兵士たちを集めていた。
壕の最終強化は進んでいる。
偽装も完成しつつある。
だが――まだ一つだけ足りない。
心の準備だ。
晴翔は兵士たちを見渡し、静かに口を開いた。
「諸君。
米軍は上陸前に三日間、艦砲射撃を行うと予測されている。
その威力は……地形そのものを削り取るほどだ」
兵士たちの表情が固まる。
晴翔は続けた。
「だが、恐れる必要はない。
恐怖は“知らぬこと”から生まれる。
今日は、艦砲射撃にどう向き合うかを話す」
兵士たちの背筋が伸びた。
「諸君、三日間だ。
三日間耐えて、反撃の狼煙を待とう」
そして、晴翔は地図を指し示しながら言った。
「艦砲射撃の最中、諸君がすべきことは三つだ」
【艦砲射撃中の三原則】
- 動かない — 地上に出れば即死する
- 声を出さない— 壕内の混乱は死に直結する
- 互いを見失わない — 壕の奥で肩に触れ合い、存在を確認する
兵士たちは真剣に聞き入っている。
晴翔は続けた。
「艦砲射撃は、音と衝撃で心を折りに来る。
だが、壕は耐えられる。
問題は“心”だ。
だからこそ、今日から精神訓練を行う」
晴翔は参謀に合図した。
壕の奥から、巨大な鉄板が運ばれてくる。
「これから、壕内で爆音を鳴らす。
実際の艦砲射撃に近い衝撃を再現するためだ」
兵士たちがざわつく。
「閣下……本当に、こんな訓練を……?」
晴翔は静かに頷いた。
「今までの上陸戦では、艦砲射撃で心が折れた兵が多かった。
だが、今回は違う。
我々は“耐える訓練”をする」
鉄板が叩かれ、壕全体が震えた。
兵士たちは驚き、思わず身を縮める。
晴翔は声を張った。
「肩を組め! 互いの存在を感じろ!
壕は壊れない! 恐れるな!」
兵士たちは肩を組み、震える身体を支え合った。
訓練が終わると、兵士たちは汗だくになりながらも、どこか誇らしげだった。
「閣下……壕は、本当に強いのですね」
「音は怖いが……耐えられます!」
「これなら、三日間でも耐えられる気がします!」
晴翔は彼らを見つめ、静かに言った。
「諸君。
艦砲射撃は、我々を殺すためのものではない。
“心を折るためのもの”だ。
だが、心が折れなければ、我々は生き残る」
兵士たちの目に光が宿った。
司令部に戻ると、晴翔は机に向かい、深く息を吐いた。
――これで、兵の心は折れにくくなる。
――史実では、艦砲射撃の三日間で多くの兵が戦意を失った。
――だが、今回は違う。
――彼らは“知っている”。
――そして“備えている”。
晴翔は拳を握った。
「……次は、上陸初日の迎撃計画だ。
敵がどこに来るか、どう動くか……
すべてを予測し、準備する」
視界が揺れる。
眠気が襲う。
机に突っ伏した瞬間、意識が沈んでいく。
次に目を開けたとき、そこは静かなアパートの天井だった。
晴翔はノートを開き、書き始めた。
「……上陸初日の戦闘。
史実では南部海岸からの突破が早かった。
だが、今回は違う。
迎撃計画を練り直す必要がある」




