第18話 「備えを重ね、島は牙を研ぐ」
摺鉢山の影が長く伸びる早朝。
栗林晴翔――栗林忠道中将としての晴翔は、海岸に並ぶ輸送船団を見つめていた。
これが、二度目の大補給。
潜水艦の脅威が増す前に、押し込めるだけ押し込む最後の機会だ。
藤田副官が報告する。
「閣下。銃火器、弾薬、保存食、医療物資、すべて予定量を積載しております」
晴翔は頷いた。
「急げ。
この補給が、島の命運を決める」
兵站将校が帳簿を読み上げる。
【銃火器】
・九九式小銃:追加1,200丁
・三八式歩兵銃:800丁
・軽機関銃(九六式・九九式):60丁
・重機関銃(三年式):15丁
・迫撃砲(八一式):20門
・擲弾筒(八九式):100基
【弾薬】**
・小銃弾:150万発
・軽機関銃弾:40万発
・重機関銃弾:20万発
・迫撃砲弾:1,200発
・擲弾筒弾:2,000発
兵士たちがざわつく。
「これで……本当に長く戦えるぞ」
「弾が尽きる心配が減る……!」
晴翔は静かに言った。
「弾薬は命だ。
だが、無駄撃ちは許さん。
必要なときに、必要なだけ使え」
兵站将校が次の帳簿を開く。
【保存食】
・乾パン:20万食
・干し野菜(大根・芋・椎茸):大量
・味噌・梅干し:各数千樽
・魚の缶詰:数万缶
・麦混合米:大量
・砂糖:1トン
【医療・衛生】
・消毒液
・包帯
・乾燥布
・石鹸
・塩
・簡易冷却布
・蚊帳(感染症対策)
晴翔は保存食の山を見て、胸の内で呟いた。
――これで、栄養不足と脚気は防げる。
――医療物資も、史実よりはるかに充実している。
次に晴翔は工兵隊を集めた。
「雨水を集める設備を作る。
屋根に布を張り、傾斜をつけて樽に流し込む。
壕の入口にも同じ仕組みを作れ」
工兵隊長が頷く。
「はい。雨量は少ないですが、無いよりははるかに良い」
晴翔は続けた。
「地質班の報告で、地下に“冷えやすい層”がある。
そこに貯水壕を作り、蒸発を防ぐ」
参謀たちが驚く。
「貯水壕……!
そんな発想は……」
「必要だ。
水がなければ、戦えない」
晴翔は医務室に向かい、軍医に指示した。
「排泄場所を壕ごとに明確に区分しろ。
汚染を防ぐため、土をかぶせる作業班を作る。
石鹸は定期配布し、手洗いを徹底させる」
軍医は深く頷いた。
「閣下……これほど衛生に気を配る指揮官は初めてです」
晴翔は静かに言った。
「病で倒れれば、弾を撃つ前に戦力を失う。
衛生は兵站の一部だ」
夕刻、兵士たちが広場に集められた。
晴翔は前に立ち、声を張った。
「諸君。
参謀本部の分析によれば、米軍は次のように動く可能性が高い」
兵士たちの表情が引き締まる。
晴翔は淡々と、しかし重く言った。
【参謀本部予測(=史実の米軍作戦)】
・まず艦砲射撃で地上陣地を徹底的に破壊
・続いて空爆で島全体を焼き払う
・上陸は南部海岸
・戦車と歩兵が一気に突破を狙う
・摺鉢山を制圧し、飛行場を奪取する
兵士たちが息を呑む。
晴翔は続けた。
「だが、我々は地上で戦わない。
地下で迎え撃つ。
壕間連絡路で動き、敵が散開したところを撃つ。
夜は奇襲で敵を消耗させる」
兵士たちの目に光が宿る。
晴翔は訓練計画書を掲げた。
【迎撃訓練の体系化】
・火炎放射戦車への対処
・壕間移動の迅速化
・夜間奇襲の反復訓練
・狙撃位置の固定と交代制
・弾薬節約射撃
・壕内での煙対策
・負傷者搬送ルートの確保
「これを毎日繰り返す。
米軍は強大だ。
だが、我々は“島そのもの”を武器にする」
兵士たちは一斉に敬礼した。
「はっ!!」
訓練を見守りながら、晴翔は胸の内で呟いた。
――これで、史実よりはるかに強い島になった。
――だが、まだ足りない。
――次は、航空偵察への対策だ。
視界が揺れる。
眠気が襲う。
机に突っ伏した瞬間、意識が沈んでいく。
次に目を開けたとき、そこは静かなアパートの天井だった。
晴翔は息を整え、ノートを開いた。
「……航空偵察の癖、影の落ち方、偽装の見破られ方。
全部調べておく必要がある」
未来を変えるための準備は、まだ続く。




