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リバイバル Iwo-jima  作者: 双鶴


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第15話 「心を折らせないための言葉」

 摺鉢山の麓にある司令部前の広場。

 朝の湿気は重く、硫黄の匂いが兵士たちの鼻を刺す。

 だが、整列した兵たちの表情は引き締まっていた。


 栗林晴翔――栗林忠道中将としての晴翔は、ゆっくりと前に進み出た。

 藤田副官が声を張り上げる。


 「全員、注目!

  閣下より“軍令部伝達”がある!」


 兵士たちの視線が一斉に晴翔へ向けられた。


 晴翔は深く息を吸い、静かに口を開いた。


 「諸君。

  私は先日、東京の軍令部に赴き、硫黄島の情勢について意見を交わしてきた」


 兵士たちがざわつく。

 軍令部――帝国海軍の中枢。

 そこからの情報は、兵士にとって絶対だ。


 晴翔は続けた。


 「軍令部は、米軍の動きを詳細に分析している。

  その中で、諸君に必ず伝えねばならぬことがある」


 晴翔は一拍置き、兵士たちの顔を見渡した。



 「米軍は上陸前、三日三晩にわたり、

  艦砲射撃と空爆で島を叩く可能性が高い」


 兵士たちの表情が固まった。


 「その規模は、これまでの戦場とは比べものにならん。

  地形そのものが削り取られるほどの砲撃だ」


 兵士たちの喉が鳴る。

 誰もが恐怖を感じている。


 晴翔は、あえて淡々と続けた。


 「だが――恐れる必要はない」


 兵士たちの視線が再び晴翔に集まる。


 「我々は地上で戦うのではない。

  地下で戦う。

  地下で生き残る。

  地下で敵を迎え撃つ」


 晴翔は地図を広げ、壕の配置を指し示した。


 「この島の地下壕は、従来のものとは違う。

  地質を調べ、換気を整え、支保工を強化した。

  艦砲射撃にも耐えうる構造だ」


 兵士たちの表情が変わった。

 恐怖から、理解へ。

 理解から、覚悟へ。



 「諸君。

  爆撃は恐ろしい。

  だが、恐怖は“知らぬこと”から生まれる」


 晴翔は静かに言った。


 「軍令部は、硫黄島の地下壕が十分に耐えうると判断している。

  我々が作っている壕は、帝国陸軍の中でも最高水準だ。

  地上がどうなろうと、我々は生き残る」


 兵士たちの背筋が伸びる。


 ――史実では、爆撃で多くの兵が心を折られた。

 ――だが、今の彼らは違う。

 ――準備している。

 ――知っている。

 ――心が折れない。


 晴翔は胸の内で呟いた。


 (絶対に、あの時のようにはさせない)



 晴翔は兵士たちを見渡し、声を張った。


 「諸君。

  この島は、帝国の盾だ。

  諸君は、その盾を支える柱である。

  恐れるな。

  備えよ。

  そして、生き残れ」


 兵士たちは一斉に敬礼した。


 「はっ!!」


 その声は、硫黄の匂いを押し返すように力強かった。


 兵士たちが散っていく中、藤田副官が近づいてきた。


 「閣下……あのような情報を、よく軍令部が……」


 晴翔は静かに答えた。


 「必要なことだ。

  心の準備がなければ、戦えん」


 藤田は深く頷いた。


 「……確かに。

  兵たちの顔つきが変わりました」


 晴翔は空を見上げた。

 灰色の雲が、ゆっくりと流れていく。


 ――嵐は必ず来る。

 ――だが、心が折れなければ、戦える。


 晴翔は静かに拳を握った。


 「次は……湿気対策と夜間奇襲の訓練だ」


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