第13話 「最後の大補給」
摺鉢山の麓にある仮設司令部。
朝の海風がわずかに吹き込むが、硫黄の匂いは相変わらず強い。
栗林晴翔――栗林忠道中将としての晴翔は、補給船団の到着を見つめていた。
これが、ほぼ最後の大規模補給になる。
――ここで揃えなければ、八月まで持ち堪えることはできない。
その言葉は胸の内だけに留め、表情には出さない。
藤田副官が敬礼する。
「閣下。銃火器と弾薬の積載量、確認が完了いたしました」
晴翔は頷いた。
「報告を聞こう」
参謀が帳簿を開く。
「九九式小銃、追加二千丁。
三八式歩兵銃、千五百丁。
軽機関銃(九六式・九九式)、合わせて百二十丁。
重機関銃(三年式)、三十丁。
擲弾筒(八九式)、二百基。
迫撃砲(八一式)、四十門。」
工兵たちがざわつく。
「これだけの量を……硫黄島に?」
晴翔は静かに言った。
「この島は、帝都を守る最後の盾だ。
必要なものはすべて揃える」
参謀が続ける。
「火炎放射器は……本土でも数が少なく、追加は十基のみです」
晴翔は頷いた。
――火炎放射器は貴重だ。
――だが、壕の構造を工夫すれば、敵の火炎放射戦車に対抗できる。
参謀が次の帳簿を開く。
「小銃弾(7.7mm・6.5mm)、合計三百万発。
軽機関銃弾、八十万発。
重機関銃弾、四十万発。
擲弾筒弾、五千発。
迫撃砲弾、三千発。」
兵士たちが息を呑む。
「こんな量、見たことがねぇ……」
「これなら……持久戦ができる……!」
晴翔は彼らを見つめた。
「弾薬は命だ。
無駄撃ちは許さん。
だが、必要なときには惜しまず使え」
兵士たちは力強く頷いた。
史実では武器弾薬も食料も何もかも輸送船が撃沈され届かなかった。
バロン西こと西竹一少佐の戦車隊も戦車が皆無の戦車隊でしかなかった。
ここが史実と今の決定的な違いだ。
晴翔は参謀たちを集め、地図を広げた。
「弾薬庫は、地下深くに分散して配置する。
一箇所に集めれば、艦砲射撃で全て失う」
参謀が頷く。
「はい。三十箇所に分散し、壕間連絡路で結びます」
晴翔は続けた。
「湿気対策を徹底しろ。
火薬が湿れば、弾は死ぬ」
工兵隊長が答える。
「木箱の底を高床にし、通気を確保します。
乾燥材も可能な限り集めます」
晴翔は満足げに頷いた。
晴翔は紙束を取り出した。
「これが、物資管理の新しい方式だ。
班ごとに担当物資を決め、毎日入出庫を記録する。
弾薬は“壕ごと”に配給量を固定し、残量を週ごとに報告させる」
参謀たちは驚いた。
「閣下……まるで商社のような管理方式ですな……」
晴翔は淡々と言った。
「持久戦では、物資の管理が勝敗を決める。
兵站を軽んじる者は、戦を語る資格がない」
その言葉に、参謀たちは背筋を伸ばした。
補給が終わると、晴翔は兵士たちを集めた。
「今日から迎撃訓練を始める。
火炎放射戦車への対処、壕間移動、夜間奇襲――
すべて実戦を想定して行う」
兵士たちの表情が引き締まる。
晴翔は続けた。
「敵は必ず南から来る。
だが、我々は地上では戦わない。
地下で動き、地下で撃ち、地下で生き残る」
兵士たちは一斉に敬礼した。
「はっ!」
訓練を見守りながら、晴翔は心の中で呟いた。
――これで、ようやく“戦える島”になりつつある。
――だが、まだ足りない。
――もっと準備が必要だ。
そのとき、藤田副官が声をかけた。
「閣下。お休みになられたほうが……」
晴翔は首を振ろうとしたが、視界が揺れた。
――眠気だ。
机に手をついた瞬間、意識が沈んでいく。
次に目を開けたとき、そこは静かなアパートの天井だった。
晴翔は息を整え、ノートを開いた。
「……次は、壕内の湿気対策と、夜間奇襲の戦術だ」
未来を変えるための準備は、まだ続く。




