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リバイバル Iwo-jima  作者: 双鶴


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第11話 「現場の壁」

 摺鉢山の麓にある仮設司令部。

 朝の湿気がまとわりつくように重く、硫黄の匂いが鼻を刺す。


 栗林晴翔――栗林忠道中将としての晴翔は、工兵隊長と参謀たちを前に立たせていた。


 机の上には、昨日まとめた地下壕の再設計図が広げられている。


 「本日より、この新しい配置案に基づいて工事を進める。

  壕間連絡路はここを主動線とし、換気孔は角度をつけて設置する」


 工兵隊長は図面を見つめ、眉をひそめた。


 「閣下……この角度の通気孔は、従来の工法では前例がありません。

  掘削に時間がかかり、崩落の危険も――」


 晴翔は静かに言った。


 「だからこそ、地質調査の結果を使う。

  脆い地層は避け、硬い岩盤を通す。

  崩落の危険は最小限にできる」


 工兵隊長は息を呑んだ。


 「……承知しました」



 工事現場に向かうと、すでに工兵たちが資材を運び、土木作業員が汗だくで壕を掘っていた。


 だが、現場には混乱もあった。


 「おい、支保工の木材が足りねぇぞ!」

 「鉄材はどこだ! 昨日の場所と違う!」

 「換気孔の角度が図面と違う! やり直しだ!」


 晴翔は状況を見て、すぐに指示を飛ばした。


 「資材置き場を統一しろ!

  木材は南側、鉄材は北側にまとめる!

  作業班は三班に分け、班長を明確にしろ!」


 藤田副官が横で呟いた。


 「閣下……まるで、長年の土木工事の経験者のような……」


 晴翔は答えず、現場を歩き続けた。


 ――混乱は当然だ。

 ――だが、ここを乗り越えなければ持久戦は成立しない。



 壕の奥では、兵士たちが新しい配置図を見ながら訓練していた。


 「入口が“く”の字になってる……?」

 「これじゃ火炎放射器は届かねぇな」

 「壕間連絡路が増えてる。移動が楽になるぞ」


 晴翔は彼らに声をかけた。


 「この島では、地上戦は長く続かない。

  地下で動き続けることが、生き残る鍵だ」


 兵士たちは真剣な表情で頷いた。


 「はい、閣下!」



 そのとき、工兵が駆け込んできた。


 「閣下! 北部の掘削班から報告です!

  地熱が予想以上に高く、作業が困難とのこと!」


 晴翔は地図を見つめた。


 ――地質調査では“比較的低い”とされていた場所だ。


 「案内しろ」


 晴翔は現場に向かった。



 北部の掘削現場は、まるで蒸し風呂のようだった。

 地面から熱気が立ち上り、兵士たちは汗で顔を真っ赤にしている。


 「閣下……この温度では、長時間の作業は……」


 晴翔は地面に手を触れた。

 熱い。

 地質学者の報告よりも、はるかに高い。


 ――地熱は一定ではない。

 ――場所によって大きく変わる。


 晴翔は即座に判断した。


 「ここは休息地には向かない。

  掘削を中止し、別の地点を調査させろ。

  地質班に“再調査”を命じる」


 工兵隊長が驚いた。


 「閣下……計画を変更するのですか?」


 晴翔は頷いた。


 「計画は状況に合わせて変えるものだ。

  地熱が高い場所に壕を作れば、兵が先に倒れる」


 工兵隊長は深く頭を下げた。


 「……承知しました」



 司令部に戻ると、晴翔は机に向かい、地図を見つめた。


 ――地熱の変動。

 ――資材の混乱。

 ――作業効率の低下。


 どれも、史実の硫黄島が抱えていた問題だ。


 だが、晴翔は拳を握った。


 ――まだ間に合う。

 ――一つずつ潰していけば、必ず形になる。


 そのとき、藤田副官が声をかけた。


 「閣下……お休みになられたほうがよろしいかと」


 晴翔は首を振った。


 「まだやることが――」


 言いかけた瞬間、視界が揺れた。


 ――眠気だ。


 机に突っ伏すようにして、意識が沈んでいく。



 次に目を開けたとき、そこは静かなアパートの天井だった。


 晴翔はゆっくりと身体を起こした。


 「……地熱の再調査。

  それと、作業効率の改善策を考えないと」


 未来を変えるための戦いは、まだ続く。


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