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リバイバル Iwo-jima  作者: 双鶴


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第10話 「地質調査報告」

 摺鉢山の麓にある仮設司令部。

 朝の湿った空気が、硫黄の匂いとともに漂っていた。


 栗林晴翔――栗林忠道中将としての晴翔は、机の前に立っていた。

 藤田副官が、分厚い報告書を抱えて入ってくる。


 「閣下。地質調査班より、第一報が届きました」


 晴翔は頷き、報告書を受け取った。


 ――これで、島の“骨格”が分かる。


 地質を知れば、

 ・どこを掘れば安全か

 ・どこが崩れやすいか

 ・どこが熱いか

 ・どこが冷えるか

 ・どこが戦車の進めない地盤か

 ・どこが隠密移動に使えるか


 すべてが戦術に直結する。



 地質学者の一人が前に出て、地図を広げた。


 「閣下。島の地層は大きく三つに分かれます」


 晴翔は静かに耳を傾けた。


 「まず、摺鉢山周辺は火山岩が多く、硬い地盤です。

  壕を掘るには時間がかかりますが、崩落の危険は少ない」


 晴翔は頷いた。


 「ならば、司令部や主要壕は摺鉢山側に置くべきだな」


 学者は続ける。


 「中央部は火山灰が厚く、掘りやすい反面、崩れやすい。

  支保工を強化すれば、壕間連絡路に適しています」


 晴翔は地図に印をつけた。


 「壕間移動の主動線に使えるな」


 学者はさらに指し示す。


 「北部は地熱が比較的低く、湿度も安定しています。

  兵の休息地に向いています」


 晴翔の目がわずかに光った。


 ――休息地。

 ――兵の体力を守る場所。


 史実では、そんな余裕はなかった。



 地質学者は、さらに重要な点を示した。


 「閣下。ここをご覧ください。

  島の地下には、古い溶岩流の“空洞”が点在しています」


 参謀たちがざわつく。


 「空洞……?」


 学者は頷いた。


 「はい。自然のトンネルのようなものです。

  場所によっては、人が通れるほどの空間があります」


 晴翔は地図を見つめた。


 ――これは、使える。


 「その空洞を利用すれば、壕間連絡路の工期を短縮できる。

  さらに、敵に気づかれずに移動できる」


 藤田少佐が息を呑んだ。


 「まさに……不意打ちの動線ですな」


 晴翔は静かに頷いた。


 「島全体を“地下の迷路”にする。

  敵が地上を制圧しても、我々は動き続けられる」


 参謀たちの表情が変わった。

 恐怖ではなく、希望の色だった。



 気象学者が前に出る。


 「閣下。風向きと湿度のデータが揃いました。

  この島は、南東からの風が多く、湿度が非常に高い」


 晴翔は地図を見ながら言った。


 「ならば、換気孔は南東側に多く設置する。

  壕の奥に空気を流し込むように配置しろ」


 学者は頷く。


 「はい。さらに、地熱の低い北部に“冷却壕”を作れば、

  兵の体力回復に役立ちます」


 晴翔は内心で驚いた。


 ――冷却壕。

 ――そんな発想は史実にはなかった。


 だが、確かに効果は大きい。



 視察の途中、工兵たちが晴翔に敬礼した。


 「閣下! 新しい壕の配置図、拝見しました!

  これなら、火炎放射器も戦車も怖くありません!」


 「壕間移動が楽になります!

  これなら、持久戦ができます!」


 晴翔は彼らを見つめた。


 ――彼らは、史実では生きて帰れなかった兵士たちだ。


 胸が締め付けられる。


 だが、晴翔は静かに言った。


 「焦るな。

  一つずつ確実に進める。

  この島は、我々が守る」


 兵士たちは力強く頷いた。



 その夜。

 晴翔は司令部の机に向かい、地図を見つめていた。


 地質調査の結果は、想像以上に大きい。

 壕の配置、連絡路、換気、休息地――すべてが変わる。


 ――これなら、史実よりはるかに長く持ち堪えられる。


 だが、その言葉を口に出すことはない。

 疑念を生むだけだ。


 晴翔は深く息を吸い、地図に新たな線を引いた。


 「……ここを繋げば、夜間の奇襲が可能になる」


 ペンを走らせる手が震える。

 視界が揺れる。


 ――眠気が来た。


 晴翔は机に突っ伏した。


 意識が沈む。

 硫黄の匂いが遠ざかる。




 次に目を開けたとき、そこは――

 静かなアパートの天井だった。


 晴翔はゆっくりと身体を起こした。


 「……次は、火炎放射戦車の弱点を調べるか」


 未来を変えるための準備は、まだ続く。


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