悪、夢
三題噺もどき―はっぴゃくにじゅうはち。
―――――!!」
息が止まったかと思った。
びくりと体が跳ね、勢い目が覚めた。
バクバクと心臓が悲鳴を上げている。
「――、」
やけにそわそわとして落ち着かない。
視界には、見慣れた白い天井が広がっている。
視線を右隣に移せば、サメのぬいぐるみが冷えた目で笑っている。
「―、――」
汗をかいたようで、冷えた室内の空気に一気に体温を持って行かれる。
足先はとうに冷たくなっていたようで、氷のように冷えている。
……おかげで、多少落ち着いた。
「……、」
枕元に置かれていた、スマホを引き寄せる。
ロック画面は、あの子が好きだと言ってくれた百合の写真。白い花弁に、水滴が滑り、光に照らされている。……夏になれば、向日葵の写真を撮りに行こうかな。
……時計を見れば、まだアラームが鳴る時間には余裕があった。
上に表示されている通知のアイコンに、時計のマークが残っていた。
「……」
時間まで寝直そうかとも思ったが、そんな時間でもない。
かと言って、まだ起きて動くような気にもなれない。
そもそも、どうしてこんな最悪な目覚めをしないといけなかったのか……。
「……」
昨日、というか早朝か?寝るに眠れず、いつの間に寝たのか……結局何時に寝たのか正直覚えてない。殆ど寝落ちに近かったんだろう。スマホをこんな所に置いた記憶もない。
その上で、いつもより早く、目覚めさせられた。
強制的に覚醒させられた。
「……」
まぁ、こういう時は。
大抵変な夢を見たせいなのだけど。
最近はあまりないから、忘れていたのに。
「……」
睡眠不足な上に、よくもない夢を見せられて、覚醒して。
今日が休みだったらよかったのに……。
これからまた起きて動いて学校に行かないといけない。
「……」
憂鬱だ。
まぁまだ、夢の内容を覚えていないからマシな方かもしれない。
鮮明に残っていると、それを脳内で勝手に繰り返すからいいことなんて1つもない。
ぱちんと消えるしゃぼん玉のように、簡単に消えてくれたようで……。
「……」
パタリと、スマホを再度伏せながら、仰向けになる。
隣にいるサメのぬいぐるみは、割と有名なぬいぐるみだ。緩くて可愛らしい見た目のサメ。それなりに値段はしたけれど、その店に行くまでがかなり距離があるので記念に買ってもらった。……もう行くことはないだろう。
「……」
ベットの端に当たる右上には、巨大内クマのぬいぐるみ。
これもまぁ有名なものだ。このサイズはもう、買った帰りが大変だったけど、可愛いし個人的には気に入っている。……ここにももう行けないだろうな。
「……」
行こうと思えば行けなくもないのだけど、それなりに距離があるのだ、この田舎からだと。まぁ、田舎らしい田舎でもないが、都会と比べれば田舎だろう。
そんな遠くの場所まで行って、写真を撮ったり、こうして何かを買ったり、有名なものを食べたり……そんなことをするのが、少し難しくなった。
「……」
遠くから、また、サイレンの音が聞こえてきた。
救急車だろうか、パトカーだろうか。
この辺音の違いがよく分からないよな。
「……」
あの日から、それまでは何とも思っていなかった。
サイレンの音が、少し苦手になった。
脊髄が凍り付くような、ジワジワと痛めつけられるような、徐々に苦しくなって、ふいに死にたくなるような。
「……」
まだ、実感としてはないのだけど。
帰ってきて、家に居ない事に違和感を覚えながらも、実感はないのだけど。
土日に、家にいないことに対して、若干の不安のようなモノを覚えながら、実感はないのだけど。
「……、」
ピピ―、ピピ―、と、アラームが鳴りだした。
もう、起きる時間だ。
お題:脊髄・しゃぼん玉・夢




