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偽装された異世界召喚〜喚ばれて早々用済みになった俺は、最強の偽装能力で魔神に復讐する〜  作者: 石畑サン輔
第一章 召喚と偽装

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7話「雷が落ちた山道にて」


 雷が地面に落ちる。

 

 短い人生で、滅多にできない経験だ。

 それこそ、魔法で空を飛んだのと同義だろう。

 正確には昇って落下しただけなんだが。


「いたい」


 俺は土の上を盛大に転がった。

 その勢いが止まって、目を開ける。

 

 夜の星空が広がっていた。

 無限におもえる星の輝き。

 美しくて、思考が固まりそうだった。

 

 ──と、その星空に人影が差し込まれる。


「成功してよかった。

 2人での転移は不安だったから」


 レイネだ。

 大の字で寝転がる俺を見て、ほっとしていた。

 

 その蒼い瞳は星にも劣らない。

 燃えるような髪は存在主張を強くしている。

 フェイルノートやアルタとも違う、別種の美しさがあった。

 

「初めて会った姿に戻ってる。

 それがあなたの素顔ってことでいいのかしら?」


「え? あ──」


 意識がはっきりして、自分の格好を見た。


 自分の服装が、元のジャージに戻っていた。

 オーバーキャスターの変身が解けたのか?

 おそらく、いつも通り曇雨晴だ。


 さっき力は一体──?


「急いでここを移動するわ。ついてくるなら好きにして」


「ちょ、ちょっと!?」

 

 レイネは先に歩き出してしまった。

 

 俺は慌てて体を起こし、辺りを見渡す。

 

 夜の森だ。

 木々が立ち並ぶ山道。

 アスタフィア王国を囲む山のどこかだろうか。


 レイネの背中が離れていく。

 彼女に、ついていくべきか?


 何か知っている様子だった。

 フェイルノートや、あの国の事情を。


 結果的に助かったんだ。

 今生きているのはレイネのおかげだ。


 ──レイネは、信用していいよな?

 

「待ってくれ!」


 意を決した。

 ジャージについた土汚れを払う。

 

 信用以前の問題だ。

 今は彼女にしか頼れない。

 俺は小走りして、レイネに追いついた。


「教えてほしい、何が起こったのか。なんで殺されかけたのか!」

 

 レイネは立ち止まり、振り返る。


「それはこっちのセリフ。私からすれば、あなたが正気を保ってあそこにいたことが異常だわ」


 彼女は俺を観察してくる。

 目を細めて、見定めるように。

 

「つい助けてしまったけれど、怪しいわね。まずあなたが何者かを教えなさい。それから話すかどうか決める」


「俺が何者か?」


 人畜無害のひ弱な異世界人だよ。

 なんて、ふざけているのかと怒られそうだ。


 別に隠すこともない。

 正直に話そう。

 信用を勝ち取るなら、それが手っ取り早いし。


「俺は曇雨晴、17歳。

 出身は日本で、大好物は寿司。

 曇家3人兄妹の次男にして、高校3年生──」


「下手くそな自己紹介ね、まあいいわ」


 必死に伝えたつもりなんだが。

 レイネは呆れたような顔をした。


「17歳って私より下じゃない。感謝することね、私のおかけで助かったんだから」


「……俺も君を助けたよ?」


「それは──あの女に少し遅れをとっただけ。

 私のおかげで逃げられたんだから、いいでしょ」


 態度でかいな。

 でもまあ事実だ、文句は言わないさ。

 謙虚さを持ち合わせていれば、最高だっただけだ。


「アメハル、あなたはどうしてあそこにいたの」


 俺はここまでの経緯を簡潔にまとめた。

 そして二言で話す。


「フェイルノートって美少女に、あの国で召喚された。

 そしたら、訳のわからないまま殺されかけた」


 夕日を背にした、あのアルタの姿。

 思い出すだけで恐怖する。

 背筋に寒気が走るトラウマを、あの騎士に残されてしまった。


「理不尽にもほどがある、どうしてこんな目に──」


「魔神フェイルノートがそういう奴だから。簡単なことよ」


 レイネは拳を握り締めた。

 フェイルノートのことを魔神と、そう呼んだ。


「ま、魔神?」


 繰り返すと、レイネは答える。


「知らない? 人類を脅かす敵よ。

 人の心に付け込んで支配する、姑息で卑怯な奴」


「なんだそりゃ……」


 この評価からするに、ろくでもない人物らしい。

 

 魔神とは、とんでもなく危険な響きだ。

 確かに「神」と名乗ってはいた。

 善性とは言えない類いだったというわけか?

 

 レイネはその魔神と、なんの因縁がある。

 今度はレイネが何者なのかを聞こう。

 そう声をかけようとした。

 

 ──だが突然、体がドッと重くなる感じがした。


「ぐっ……なんだか、急に疲れがきたような……?」


 頭が少しクラつく。

 膝をついて呼吸をせざるを得ない。


 レイネは「あぁ」と答える。


「魔力切れ? やっぱりあの『契術』は、強力な分消費が激しい能力だったのね」


 言われたことが半分くらい理解できなかった。


 魔力切れ? けいじゅつ?

 前者はなんとなくわかる気もする。

 だが後者は初耳だ。


「生き返ったのは契約したからか。

 その理由なら納得」


「け、けいじゅつ? 契約ってなんの話?」


 勝手に納得されては困る。

 当事者が置いてけぼりですよ?


 呆れと疑念。

 レイネはその両方が入り混じった表情をした。


「はあ?」


「……なんだよ」


 なんで俺を睨むんだ。

 そんな「ふざけているのか」みたいな顔をされても。


「もう契約内容を忘れたの?

 悪魔と契約を交わす──それを忘れることは自殺行為に等しい。勝手に破棄すると死ぬって噂の代物でしょう?」


 とんでもない説明に鳥肌が立った。


「なにそれ。本当に知らないから怖いんだけど!?」


 悪魔と、契約だって?

 物騒な内容に胃もたれしそうだった。

 そんなものにチェックした覚えはないぞ!?


 ……いや、待てよ?

 もしかしてあれか?

 死にかけたあの時に聞こえた謎の声か?


 契約がなんたらと言っていた気が──?


「ふーん……覚えてないのね、まあいいわ。

 せいぜい些細なミスで死なないよう心がけることね」


「軽く片付けていい話じゃないよ! 些細なミスで死ぬことがあるの!?」


 命懸けのNGワードゲーム。

 知らぬ間にそれに参加してしまった気分だ。

 あの力を使うたび精神がすり減るとか、そういうデメリットがあるパターンだろ。


 焦る俺とは裏腹に、レイネは平然と駆け足になる。


「無駄話してる暇はないわ。この近くに村があるはずよ、ひとまずそこに身を隠しましょ」


「全然無駄じゃないって!

 あっ、ちょっと置いてかないで!」


 俺の声は届いていないのか。

 レイネの足は速くなっていった。

 

 乗り物酔い。

 あと立ちくらみが混ざったみたいな体調だ。

 それでも、レイネについていかないといけない。


 いくらなんでも酷だと思う。


「……魔力切れ、か。

 それってつまり、俺にも魔力があるって意味じゃ?」


 あの時、体に湧き上がった感覚。

 あれが魔力というやつか。

 

 ついに、俺も念願の魔力持ちになったわけだ。

 ここまで流れはすごく悪い。

 でもこれで、夢だった魔法も使えるようになる!


 ──どうして急に魔力が?

 

 俺の魔力量はゼロだと聞いた。

 斬られる前まで予兆も何もなかったはず。

 死に際で急に覚醒した、とか?

 

「クソ、何事も十分な説明が要る性格だってのに!」


 半病人が行くには、険しい山道。

 多くの理不尽に苛つきつつ、ふらふらと登っていった。

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