36話「姉の弟の偽物」
「ノーだ」
「……っ!」
俺ははっきりとそう答えた。
フラメアの表情が悪くなる。
「こんな学園、いるだけ無駄だ。軍でならお前にも輝ける場所がある!」
彼女は声を荒げて俺に訴えてくる。
無駄だ、俺はルシアンじゃない。
「魔法使い? 憧れは諦めた方が賢明で、生き残ること考えろ。そもそも才能がないから父上に追放されたはずだ。それなのに、なんの未練があって――」
今の言葉で、アイツの心情を大体理解できた。
たった数日の付き合いのはずなんだけどな。
いじめられてもなお、あの日まで耐え続けたわけを。
「やっぱり答えはノーだよ。多分、変わらないとおもう」
「なんで……ッ!」
「認められたいんだ」
これは俺なりの解釈だ。
ルシアンの気持ちをトレースし、口から吐き出す。
「情けないままでおわりたくなかった。家に追い出されても、諦めたくなかった」
ルシアンはきっと、きっとこう考えていたはずだ。
俺たちと会って、今の考えが同じかどうかは知らないが。
「見返したかった。成長して、また家族になりたかった」
「ルシアン……お前は――」
「憧れから逃げたくない。だから、この学園に残るんだ。すまない」
俺にできる精一杯の答えだ。
勝手に決めて悪いな、ルシアン。
どうせ事が終わればここを去る、責任なんて負えないけど。
「……そうか。なら、好きにしろ」
フラメアは俺から離れた。
これ以上詰めることはなく、背を向けた。
「近いうちに、皇帝から緊急指令が下される」
「緊急指令?」
「剣士斬りとその他諸々に終止符を打つ。軍の警戒態勢が解けるまで、外には出るな」
なにが行われるんだ?
大規模な作戦に聞こえるが、一体どんな?
「話は終わりだ、あたしは警備に戻る……」
フラメアはそのまま、廊下を歩いていった。
警備――軍人の彼女が学園にいるのは、それが理由か。
悪いことをしてしまったかな。
軍が安全というなら、イエスと答えてもよかったけど。
レイネは、軍の内部に魔神関係者がいると言っていた。
その時点でこの話はノーだな。
知人がひどい目に遭うのは想像したくない。
「――あっ、そうだッ!」
と、廊下の奥から聞こえてきた。
フラメアは、なにやら大急ぎで俺のもとへ戻ってくる。
「黒髪黒目の奴、見なかったか!? 制服着た不法侵入者!」
「……え?」
おもわず、たじろいだ。
その短い特徴で、一瞬にしてピンときた。
俺以外に当てはまる奴なんていない。
「えっと、なんのことで?」
俺は咄嗟にシラを切る。
フラメアは怒った顔で、手をワキワキさせた。
「あの店の時点でシメておくべきだった。まさかあんな……堂々と食堂で昼飯を楽しむ奴があるか!」
「ずいぶんと攻めた不審者ですね」
「ああ、あたしたちを舐めた野郎さ!」
あれからずっと探し回ってるのか。
そりゃそうか、警備員なら見逃すわけないよな……。
「きっと、地下にある制御魔道具を狙ってやがるんだ。それ以外の目的なんざありえない!」
制御魔道具?
なんだそれは、初めて聞く単語だな。
「そういうわけだ。今のところ被害はないが、この学園も安全じゃない。早く退学するのが身のためだぞ」
フラメアは深呼吸して、落ち着きを取り戻した。
「見つけたらあたしに報告しろ。今度こそ、問答無用で燃やす!」
「わ、わかった」
ふんと鼻を鳴らして、今度こそ彼女は去っていった。
なんだかんだ、弟を大事にしている。
そんな風にしか見えなかったな。
ある程度の距離感はあるけど、仲が悪くないのは本当らしい。
俺が侵入しているのが、制御魔道具のため。
フラメアはそう言っていた。
予想は外れなのだが、俺以外の侵入者ならどうだ?
なぜ学園なんかに潜伏しているのか、ずっと疑問だったが。
魔神関係者の狙いは、もしかしてそれか……?
「身内にフラメアがいてくれてよかった」
聞かずとも喋ってくれたのだから儲け物だ。
確証はまだない。
それでも有力な情報を手に入れた、はず。
「そこに何をしているのかな?」
「っ! ……ベルマン先生」
現れたのはベルマンだった。
後ろから突然声をかけてくるな、心臓に悪い。
「さきほどの学生は、君のお姉さんですね」
「ええ、それが何か?」
見られていたのか。
ベルマンは微笑みながら、廊下の方を見つめている。
「炎の契術を操り、軍に最年少で抜擢された優秀な学生だ。制御魔道具の守護者でもある」
「……誇らしい限りですよ」
フラメアってそんなにすごいのか。
すごさの度合いはわからないが、それなりに知られているらしい。
「では、これで」
俺はこの場を逃げようとした。
長話せずに教室へ戻ろう。
どうもこの教師に対して苦手意識がある。
優しそうだけど、掴めない人物というか……。
「待ちなさい」
体の向きを変えると、ベルマンに止められた。
「いやなに。剣士斬りの事件は聞いているだろう? 君も気を付けてくれ」
「はあ……ありがとうございます」
苦手といえど、教師であることには変わらないか。
その気遣いに感謝して、軽く頭を下げた。
「それじゃあ」
ベルマンはそう言って、廊下を歩いていった。
終始、彼の表情は穏やかなままだった。
わざわざ、それを言うために?
てっきり剣術道場のことを言われると思っていた。
師範をぶん殴った件は、不問にしてくれるのだろうか。
「――地下の制御魔道具」
それを視野に入れて行動する。
この学園での目標は、定まった。
そこに行けば、魔神関係者に会えるかもしれない。
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