表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/37

29話「剣術の指南講座」


 チュンチュンと小鳥の声が聞こえる。

 どの世界でも、朝はそんな音で人は目覚めるらしい。


 朝? もう朝なのか。


 じゃあ起きないとな。

 学校……異世界の学園に遅刻してしまう。


 心地が良くて、いつまでも寝ていられる。

 この魔性のベッドから起きないと――


「……今、何時だ?」


 俺は思考をフル回転させ、ベッドから飛び起きた。


 制服を着て、鞄を拾い上げる。

 寝癖など気にしてられるか。

 一刻を争い、俺の命運もかかっている!


「あら、お客様――」


「おはようございますいってきます!」


「ど、どうして制服を!?」


 階段を降りているところを召使いさんに見つかった。

 事情は知らされていないのか?

 後でルシアンに適当な理由つけてもらおう。

 

 俺は裏口から、屋敷を猛スピードで出た。


「はあ、はあ、はあ!」


 通学路を全力疾走する。

 登校2日目にして寝坊とは、我ながら怖い。

 以前の夜型の生活が裏目に出るなんて!


「〈偽装〉……ルシアン!」


 誰も見ていない。

 学園が見えてきた辺りで、契術を発動させる。

 黒霧はいつも通り、俺の体に漂った。


 置き去るように走っても、ぴったりとついてくるから不思議だ。

 

 最近は頭痛になることが少ないし、偽装対象によって体にかかる負荷が違うのかもしれない。

 

「あ! きたきた」


 校門の前で手を振っているのは、ディオナだった。

 笑顔で俺を迎えてくれる。

 それはいいのだが、どうしてここに?


「いやいや、遅刻するぞ!? はやく――」


「1限目は武術だよ? 剣術道場にいかなきゃ」


「……なにそれ」


 武術の授業。

 剣術道場というのも聞き覚えがない。

 ディオナも急いでるようには見えなかった。


「有名な剣術の師範に教えてもらえるんだって。昨日ベルマン先生が言ってなかった?」


「い、言ってたっけ?」


 荒かった呼吸が、自然と落ち着いていく。


 ということは、まだギリギリセーフということか?

 覚えていないが、1限目は教室じゃない?


「ディオナはなんでここに……」


「君を待ってたんだ。一応聞くけど、ルシアン君じゃないよね?」


「……そうだよ」


「ならよかった。僕に怯えてこないんじゃないかって、心配してたから」


 ディオナは笑みを浮かべている。

 こっちの心を見透かしてくるかのように。


 改めて、しくじったな。

 主導権を握られ、いつでも切り捨てられる。

 怯えるのも無理ないだろう。

 

「道場は帝国の西にあるんだって。一緒にいこうよ」


 彼女は歩き出した。

 

 学園で授業をするわけではないらしい。

 まあ、剣術は教室でやらないか。

 剣道場に、わざわざ行かなきゃいけないのか。


 よし。


「えっと、実は起きてから体調悪いんだ。

 保健室に寄って、1限目は休もうかな〜って――」


 俺は気分の悪さを装う。

 ディオナはそれを見て足を止めてくれた。


 学園を離れるのは困る。

 だって、魔神関係者は学園の中にいるんだ。

 このサボり時間をつかって、捜索をしたいところ……。


「今日の武術の授業、参加できないと成績がくっと下がるんだって。それでもいいの?」


「冗談です。早くいきましょう」


 気分がよくなった。

 立ち往生してる場合じゃない。

 

 これ以上、ルシアンに迷惑かけてたまるか。



――――



 学園から西地区へ歩いて、30分ほど。

 足が悲鳴をあげるギリギリで剣道場に着いた。


 ディオナからの質問を躱しつつ歩いてきたが、ずいぶんと時間がかかった気がする。


「遅刻だね。潔く怒られよう」


「結局か……」


 まあまあな数の階段を登って、剣術道場を前にする。


 道場という名の修練場。

 そこで運動着の学生たちが、木刀を手に何度も素振りを行なっていた。


「あれがガイゼフ師範かな? 厳しそう」


 学生の中心に、壮年な男が立っている。

 ガイゼフ師範というらしい。

 

 白い道着に足には下駄。

 貫禄のある顔立ちで、鋭い目つき。

 後ろに手を組んだ、いかにもな男だ。

 

「俺、運動着とか持ってきてないぞ」


「貸してくれるとおもうよ。遅刻してきた僕たちに、同じ対応をしてくれたらだけど」


 ディオナが目線に、俺は釣られた。

 ガイゼフ師範が俺たちのことに気づいたようだ。

 学生たちの間を抜け、こっちへ近づいてくる。

 

「君たちも東の学生かね」


 ガイゼフは渋い声で聞いてきた。

 手に持つ木刀も相まって、威圧感マシマシだ。


「遅刻は厳禁と伝えていたはずだが?」


 ガイゼフは顎に蓄えた髭を撫でた。

 雰囲気からして、かなり厳格そうだ。

 どう返したものか……。


「今からでも参加できますか? 僕たちはてっきり、学園内の運動場でやるものだと勘違いしてしまいまして」


「ふむ――」


 ディオナはありきたりな言い訳をした。

 これで納得してくれればいい。

 彼が、簡単に許してくれそうには見えないのが残念だ。


 ガイゼフは俺とディオナを交互に見た後、


「みなのもの、休めッ!」


 後ろを振り返って叫んだ。

 その命令に学生たちは従い、木刀を振る手を止める。

 

「君、名はなんという」


「え……ルシアンですけど……」


 俺の目を見て名前を尋ねられる。

 ディオナではなく、俺だけに聞いてきた。


「ルシアン……シュタイン家の次男か? そうか、では中央へきなさい」


 ガイゼフはそう言い放ち、道場の真ん中まで歩いていった。


 なぜ俺だけご指名されたんだ?

 中央にこいって、みんなが注目してる中でなにを?


「今から皆に、剣術とはなにかを教えよう。ルシアン君にはその見本になってもらう」


 見本?

 

 早くいけと急かすように、学生たちの視線が俺に集まっている。

 意味はわからないが仕方ない。

 俺はガイゼフがいる道場の中央へ足を運んだ。


「この木剣を使いなさい。私と模擬戦をしようじゃないか」


「模擬戦?」


 ガイゼフに木剣を差し出され、それを受け取る。


「さあかかってきなさい。君の遅刻がいかに愚かだったのかを、思い知らせてやろう」


 ……なるほど。


 軽い粛清をしようというわけだ。

 叱るのではなく見せしめ。

 みんなの目がある前で、俺をボコす気か。


 ここでも舐められている。

 ディオナではなく俺を選んだのがその証拠だな。

 俺が悪いのは事実だが、気分を悪くされれば話は別だ。


「……」


「ん? なんだ、その構えは――」


 舐めるなよ。


 俺がGNOでなにをやっていたとおもってる。

 剣士だ。

 プレイヤーランキングに名を馳せる、剣士だぞ。


 俺は木剣を垂直に構えた。

 対人戦はあまり得意じゃないがな。

 オーバーキャスターでなくとも、動きは真似することができるだろう。

 

 一呼吸。

 そして地を蹴った。

 ガイゼフへと、木剣で斬りかかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ