表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/37

28話「経過報告会」


「ということがあったんだ。悪いな」


「……」


 学園が終わり、日は沈んだ。

 あの後は何事もなく、通学路から帰ることができた。


 昨日から俺たちは、このルシアン邸に客人としてお邪魔させてもらっている。

 ルシアンが1人で住んでいるという、立派な屋敷である。

 

 ルシアンは家族から追放されたらしい。

 なんでも、魔法の才能を重んじる家系だそうだ。

 落ちこぼれだの、姉に劣るだの、ボロクソに言われてルシアンは孤立。

 

 あとは想像通りの展開で、せめてもの慈悲としてこの家を与えられたそうな。


 ルシアンには悪いが、俺たちにとって好都合。

 一時の間だけ、ここを拠点として借りるに至ったわけだ。


「ディオナって子に、思いっきり偽装見られた。いやはや不覚だね」


 今は大食堂で夕食をとっている最中だ。

 召使いたちに豪勢な食事を運んでもらい、長テーブルの皿と向き合う。

 

 俺は昼間の雪辱を晴らすべく、張り切って口に料理を頬張った。

 なんという美味。肉は柔らかく、野菜はフレッシュ。

 異世界だろうとなんだろうと、美味いものは美味いのだ。


「眷属は候補が多すぎて特定できなかった。すまん」


 食事のついでに、隣にいるレイネに今日のことを報告していた。

 ところどころの間をあけて。


 ぴくりとも動かないレイネを尻目に、料理を口に入れていく。

 

 お、このフルーツも甘くて美味いな。

 空腹だった分、味わいが深くなって体に染み渡るというか。

 

「……アメハル、こっちを向いてちょうだい」


「ん? ――むぐ!?」


 レイネの方を向くと、突然指が飛んできた。

 俺のデコからいい音が鳴る。


 口から料理を吹き出しそうになるが、なんとか堪えた。

 料理だったものを急いで食道へ流し込む。


「れ、レイネさん?」


「はあ……あなた、危機感が欠如しているの?」


 彼女は、俺の想定通りの呆れ顔だった。

 流石にお咎めなし、とはいかないよなぁ……。


「よくそんな平然としていられるわね。第三者に正体がバレて、契術のことも知られた?」


 レイネは報告事項を並べ立てる。

 感情に任せ、皿の肉にフォークを刺して口に運んだ。


 俺は潜入調査なんて、初めての経験だぞ?

 ゲームの中ですら、せいぜいその場の隠密行動くらいだ。

 少しくらい許してくれたって……。


「おまけに、俺が渡した金貨を無駄にしただと?」


「うぐ……!」


 ルシアンからも俺の失態を指摘されてしまった。


「くくっ、変な啖呵も切ってくれおって。

 まったく、見た目よりも相当の阿呆らしいな、アメハルは」


 ルシアンは笑いながら、ナイフとフォークを動かす。

 その上品な食べ方が、情けない俺をおかずに楽しんでいるように見えて、ちょっとムカついた。


「そういうお前らはなにしてたんだ?」


 俺は衝動的になり、2人に聞く。


 レイネは俺と別行動だった。

 学園以外の魔神反応を追うと言っていた。


 今日一日なにをしていたか、聞いてやろうじゃないか。


「ふたつ目の魔神反応、その位置を大体把握できたわ」


 レイネは簡潔に答えた。


「北にある、帝国軍の軍事司令館。そこに魔神、あるいは眷属が潜伏している」


 具体的な場所までわかったのか。

 彼女は続けて調査の進捗を話していく。


「多分、軍人に紛れてるんだわ。容易には近づけないし、建物の中に侵入するのもおそらく不可能よ」


 要するに、そっちも特に成果なしか。

 

 軍の拠点といえば、想像するのは国の重要機関だ。

 軍人のふりをしているとなると、接触は困難かつリスキーだろう。


「だから、もうひとつの反応を追うことにしたの」


 レイネの視線はルシアンに向けられた。

 話を振ったので、次はお前が話せというように。


「……この帝国では最近、不埒な輩が出没していると話題になっている」


「不埒な輩?」


 俺が聞き返すと、ルシアンは一拍開け、静かに食器を置いた。


「――剣士斬りだ」


「剣士斬り……?」

 

 その名前はどこかで聞いた覚えがある。

 聞いただけで、どういうものかは深く考えなかったが。


「都市の夜道に現れ、なぜか剣士だけを狙っては斬りかかる。その殺人鬼につけられた異名だ」


 ……辻斬りかよ。


 剣士だけを斬るから、剣士斬り。

 安直でも、怖さを煽るならちょうど良い塩梅だった。


「犯人は未だ捕まっていない。巧みに姿をくらませる剣士斬りに、軍も捜査が難航しているとのことだ」


 厄介なやつもいるもんだ。

 剣士だけを狙うというところが、不可解極まりない。

 そんなことをして、何になるんだ……?

 

「私はその剣士斬りを追ってみるわ」


「え、なんで?」


 レイネは突拍子のないことを言ってきた。

 反射的に聞き返すと、すぐに答えてくれる。


「3つ目の魔神の反応は、西に感じているの。

 そして……剣士斬りもそれと同じ区域で多く発生している」


 剣士斬りが、魔神関係者だという読みか。

 ただの快楽殺人者で、まったく無関係である可能性もあるが、怪しさ満点なのは確かだ。


「軍事司令館は後回しにして、剣士斬りを探るわ。行き止まるかより、その方がマシだもの」

 

「なるほどな。でも……大丈夫なのか?」


 剣士斬りを追う。

 すなわち、彼女1人でそいつと対峙するということ。

 どんな危険が待っているかもわからない。

 

「心配いらないわよ、今はまだ様子見だけ。

 戦ったりするのは、人物を特定してからだって言ったでしょう?」


 レイネはそう言って席を立った。

 食事を終え、大食堂の出口に歩いていく。


「さっそく今夜、夜道に張り込んでみるわ。

 アメハルも引き続き、マーキングをお願い」


 そうか、剣士斬りは夜中に現れるんだったな。

 だから彼女は装備をつけたままだったのか。


「くれぐれも――今日みたいな油断はしないで」


「はい……」


 こわい。

 レイネの顔は冷徹モードだ。

 剣士斬りを探すため、彼女は夜の帝国へ繰り出していった。


「初めてだから仕方ない……なんて言ったら、燃えかすにされるんだろうな」


 念を押されてしまった。

 振り返れば、俺のやらかしは相当やらかしている。

 ひっくり返すくらいの成果がないと、許されないだろう。


「俺も、風呂入って寝るか」


 そのためにも、明日も早起きしなければ。

 スマホの充電はすでに切れ、することもない。

 日本での生活とは真逆だが、これもいいものだ。


「アメハル」


「ん?」


 席を立って大食堂を後にしようすると、ルシアンに呼び止められた。


「この家はどうだ。何か不満はあったか?」


「いやいや、不満なんてない。

 こんな屋敷を提供してもらって、むしろ悪い気持ちがするよ」


「気にするな。元々部屋は有り余っている、好きに使えばいいと言ったろう」


 ルシアンは穏やかな笑みを浮かべていた。

 座ったまま、俺の方へ体を向けてくる。

 

「お前がやったクロイツへの侮辱は、許されるものではない。近々、何かしらの動きがあるだろうな」


「や、やっぱり? 勢い余ってつい……」


 あの時はどうかしていたのだ。

 

 我慢できなくなったというか、止まるブレーキが壊れていたというか。

 オーバーキャスターの時といい、偽装をしていると気分が高まる傾向がある。

 なぜかは知らないが、テンションがおかしくなる。


 ルシアンには悪いことをしてしまった。


「だが――爽快感があった」


 俺の考えとは裏腹に、ルシアンはそう答える。

 爽快感?


「お前の話を聞いたとき、心がスッキリしたのだ。

 俺の代わりに、奴らを侮辱してくれた。

 ただ何もせず、泣き寝入りするだけだったはずが、な」


 わからない。

 どうして俺に感謝するような感想なんだ。


「たとえクロイツから処罰が下ったとしても、俺がお前の代わりに受け入れる。

 そんな心晴れやかな気分だ」


 さすがに違うだろう。

 胸を張って言われても、肩代わりされる筋合いはない。

 俺は自分の意思で、口を出しただけだ。


 誰かに背負わせるつもりはない。


「……俺が勝手にしたことだぞ。責任はちゃんと取る」


「ふん、今さらなにを。やらかしをやる気に変えてやると言っているのだぞ?」


「はあ?」


 俺の覚悟は羽虫のように払われた。


「お前たちの追うものが何かは知らん。関わりたくもないが……情報の提供はしてやる。こう見えて、それなりのツテがあるからな」


 するとルシアンは、懐から1枚の紙を取り出した。

 それを俺に渡してくる。


「……これは?」


「俺が学園にいない間、身を隠している場所だ。そこに信頼できる友人がいる」


 ずっと屋敷にいたわけではなかったらしい。

 ルシアンが安心して居座れる場所があるのか。


「なんて書いてあるんだ?」


「……お前、読み書きができんのか? 『ハルトライン商会』の招待状だ。特別に用意してもらった」


「え、ハルトライン商会って――」


 帝国の外壁門で会った、あのおっさん。

 ガハハと笑う彼の姿を思い出した。

 その商会の招待状? ルシアンがおっさんと友達?

 

 世間は広いようで、案外狭いんだな……。


「頼りになるかは保証できないが、困ったら駆け込んでくるといい。お前たちが探す、怪しい者とやらの情報があるかもしれない」


「あ、ありがとう。でも、なんでここまで……?」


 ルシアンの代わりに学園へ行かせてほしい。

 要求はこれだけだったはずだ。

 屋敷の無料宿泊、この招待状、さらには俺の責任をすべて受け持つだって?


 ――それこそ怪しい。

 こんな疑いは、持ってはいけないのだろうか。


「俺の姿で好きにやれ。そういうことだ」


 どういうことだよ。

 そう返す前に、ルシアンは大食堂から出ていった。


 俺は招待状に目の焦点を合わせたまま、その場で立ち尽くしてしまった。


 どう考えてもわからない。

 利益と損が見合っていないじゃないか。

 君の立場を、好き勝手に利用しているだけなのに。


「……なんだよ、それ」


 似ている。


 俺の過去に。

 平然となりすました、自分の罪に。

 

 贖罪もせず、また繰り返そうとしている。


「お客様?」


「……あぁ……すみません」


 テーブルの片付けをしにきた屋敷の召使いさん。

 声をかけられて、俺は正気に戻った。


 疲れたな。

 用意してくれた俺の部屋に向かおう。

 それで広い屋敷の廊下を進み、浴場の風呂に浸かって疲れを落とす。


 最後にふかふかのベッド。

 ゆっくりと飛び込んで、今日を終えるんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アメハルの能力最強でかっこよかったです。読みやすいので世界観にもぐんぐん引き込まれました。ルシアンを通してアメハルが自分を見つめる展開もアツいです。これから楽しみですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ