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27話「第三者」


「そ、そろそろいいんじゃないか……?」


 俺は手首を引っ張るディオナに、声をかける。

 ディオナの足は止まって、あっさりと手首を解放してくれた。


「なんで、黙っててくれたんだ?」


 後ろ姿の彼女に真意を尋ねる。

 俺のことをベルマンに伝えて、引き渡せたはずだ。


「うーん、なんでだろうね? 強いていうなら……」


 ディオナは振り返り様に笑う。

 

「おもしろそうだから」


 楽観的で考えなし。

 そんな、あまりに軽い答えを出した。


「お、おもしろい??」


 意味がわからない理由だ。

 さっき俺を拘束したのは、彼女にとって俺が不審者であり危険人物だと判断したからだろう。


 なのに、ただ愉快さで見逃すだって?

 

「正義の味方さんなんでしょ、なら許しちゃう」


 ディオナの思惑は読めない。

 だが黙っててくれるなら、好都合だ。

 これが嘘だった場合は……それまでの話だが。


「意味、わかんないけど……ありがとう?」


 反射的にお礼を言った。

 それをディオナは静かに受け取って、また歩き始める。

 

 脅しとか取引とか、そういうのはいらないのか?

 本当に黙っていてくれるのだろうか。


「本物のシュタイン君は? もしかして登校代行?」


「えーっと……」


「さっきの魔法じゃないよね? どーゆー原理?」


 答えづらい質問が次々に飛んでくる。

 そうだよな、俺でもそうするさ。

 回答はもちろん濁すしかあるまい。


 俺もディオナに質問したい。

 洗練されたあの動きは、学園で習ったものか。

 ルシアンと彼女はどういった関係、とか。


「答えられないならいいけど、気になるなぁ。僕も君に協力してあげたいからさ」


「協力?」


 ディオナは「そうそう」と、頷いた。


「君が困るならやめるよ? でもかっこいいよねぇ、潜入任務とかの真っ最中なんでしょう?」


 ふわふわとした動機で関係を求めてくる。


 なんだろう、この感じ。

 友好的に見えるが、探りを入れられている?


「ねぇいいでしょ〜? お願い、僕も正義の味方やりた〜い! ね、ね!?」


「な、な……!」


 彼女はその美顔を、ずいっと近づけてきた。

 両手を両手で包まれ、バカみたいな懇願をされる。


「なんだそりゃ……スピーディかつわけわからん提案を、俺が飲めと? そんなことできるわけ――」


「バラすけどいいのかな?」


「……きたないぞ」


 それを言われたら、手出しできないじゃないか。

 あと近い。距離感がバグっている。

 

「君のことはこれから知っていく。だから、今日はこれで勘弁してあげる、よ!」


「イタッ!?」


 両手を離された刹那、ペチンとデコピンされた。


 いきなり繰り出された上、なかなかの威力だ。

 俺がデコをさする間に、ディオナは先を歩いていく。

 

 一挙一動がまるで予測できない、掴みどころのない女子。

 これも俺が苦手なタイプだ。

 すべてを手玉に取られる、そんな気がする。


「初日に正体を知られるとは幸先最悪だな。レイネに報告したら、なんて言われるか――」


 ああ、レイネの呆れる顔が目に浮かぶようだ。

 ため息をついて、廊下を進む。

 

 教室に戻ったらまた授業だ。

 腹も減ったしフラメアもいるし、散々だぞ。

 まあ、ルドが登校してこないだけマシか……?


 俺は頭を悩ませながら、放課後を過ごすこととなった。



――――



 午後の授業がおわった。


 2時限ほど受けたが、内容のさわりだけを軽く復習して、すんなりと解放された。

 ベルマンが言っていた通り、今日は最初の授業。

 彼の授業が例外だっただけで、インフォメーションだけの簡単なものだった。


 今は夕方。

 俺は黄昏の光を浴びながら、帰宅路を歩いている。


「君はシュタイン君の家に帰るの?」


「……まあ、そうなるかな」


 ディオナは俺と横並びで歩いている。

 絶え間なく来る質問に、曖昧な返答をした。


 もっと学園で魔神関係者を探したかった。

 だがルドたちやフラメアのこともあり、早々にルシアンの豪邸へ帰宅するべきと判断した。


 即刻走り出して、彼女も撒きたいところだが……。


 ここは、なるべく友好的に接するべきだな。

 下手に関係を悪くすると、俺の正体をバラされかねない。

 彼女には、そんな危うさが内包されているのだ。


「……俺からも、聞きたいことがある」


 ディオナの質問攻めを、強制的に断ち切った。


「なにかな」


「ルシアンとは、友達なんだよな?」


 俺は気になっていることを直接尋ねた。

 今までの様子からして、ディオナはルシアンの友達に見える。


「んー、そこはわかんないかも」


「わ、わからない?」


 思いがけない答えが返ってきた。

 わからないとは、どういう……?


「シュタイン君とは同じクラスメイト。それ以上の関係を築いた覚えはないし、話したこともなかったな」


 ディオナは、特に思い出はないと微笑した。


 そんなはずはない。

 彼女は友達ではなくとも、数回は話したことがあるような距離感で――。


「でも今日のシュタイン君は……違ったよ」


 ディオナの足が止まった。

 数歩後ろで、俺の目をジッと覗いてくる。


「明らかな他人。それが僕にはわかったんだ。仕草や喋り方、雰囲気に変な違和感があった」


「それは、あの部屋で見られたから――」


「ううん。僕は気づいてたよ、後出しになっちゃうけどね」


 彼女は譲らない。

 本物ではなく、偽物である俺の存在。

 今朝の時点で、この偽装に勘づいていたって……?


「今日友達になったのは……その仮面の奥にいる君。この答えじゃ、ダメ?」


 上目遣いのような、見定めるような。

 ディオナは俺の方へ一歩近づいてくる。


「君のことを密告する気はないよ。その代わり――」


 その代わり?


「僕に見せて。帝国に何が起きるのか、君が何を阻止するのか」


「……何を言ってるのか、わからない」


 俺には理解できなかった。

 ディオナが提示した取引のようなもの。

 まるで、俺の目的を見透かしているみたいじゃないか。

 

 魔神のことを知っている、のか?


「それじゃあまた明日ね! 楽しみにしてるからね!」


 屈託のない笑顔だった。

 彼女は背を前に向けて、駆け出していく。

 俺に手を振りながら、先の分かれ道を曲がっていってしまった。


「…………また、明日」


 俺はその姿を眺めるしかなかった。

 呆然と立ち尽くし、夕陽が沈むのを肌で感じる。

 

 そうして、1日目の学園生活は幕を閉じた。


読んでいただきありがとうございます。


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