21話「最初の試練」
帝国。
皇帝が統治する国。
一体どんなもんかと、色々想像はしていた。
だが、それが姿を現した時。
俺は帝国のありようを思い知らされた。
「でっか……山じゃん」
広大な大地に、ドンとそびえ立つ巨壁。
四方から攻められる痛手を捨てた、大胆不敵な位置に帝国は陣取っている。
遠くからでもその存在を認知できるほどに。
俺たちはようやく森を抜け、帝国を前にした。
馬車を目立たない場所で止める。
「あれが帝国? あんな草原のど真ん中に……」
「カルヴェルム帝国。その特徴はこの広い領地と、圧倒的な軍事力ね」
レイネは帝国について話し始めた。
カルヴェルム……フラメアもその名前を口にしていたな。
「皇帝が統治する土地は、今もなお開拓中で、着実に勢力を広げているわ。その皇帝の指揮によって育成された帝国直属の軍は、エルド大陸随一。正面から挑んで勝てる外敵はいないと」
鉄壁の守りを誇る国。
皇帝は有能で、最強クラスの軍とは。
戦争ゲームなら、敵に回ったら厄介極まりないタイプだろう。
「詳しいな。帝国にきたことがあるのか?」
「別に、知識として知っているくらいよ。名前を聞く機会が多いから」
レイネの話から察するに、よほど有名な国らしい。
き、緊張してきた。
入ったらいきなり粛清とかないよな?
そんなことを考えていると。
俺は帝国の前に、人だかりがあるのを見つけた。
「なんか並んでるな」
遠目からでもわかる。
俺たちと同じような馬車や、大きな荷物を持った人たちだ。
揃って列になり、その足を止めている。
「おそらく検問ね。身分を確認したり、入国税を取っているんだわ」
理由は簡単か。
きっと列の先に、帝国に入るための門があるんだ。
これは単なる順番待ちの状態なのだろう。
「……身分か」
「そこが問題なのよ」
レイネは馬車から降りて言った。
俺はどこからともなく現れた異世界人だ。
こっちに戸籍情報があるわけもなく。
かと言って、あちらが不審者を不用心に通すことはないだろう。
「私だけならなんとかなったわ。アメハルも、ってなると……」
「ああ。レイネは身分証とか持ってるのか?」
「私はこの外套があるから」
彼女は着ているローブを見せつける。
それが身分証……と言っているわけじゃないらしい。
「これは魔道具よ。認識阻害の効果が付与されていて、このフードを被れば、周りの目を誤魔化すことができるの」
「魔道具……」
ゲームで聞き慣れた用語だ。
認識阻害とはまた妙な。
レイネはふふんと鼻を鳴らす。
自慢するようにローブをひらつかせた。
「今まではそうやって、ひっそりと国に忍び込んでいたわ」
「つ、つまり、それで乗り切ってきたと?」
まさかの不法入国。
そんな誇らしげな顔で言うもんじゃない。
ああ、だからアスタフィアで目立たずに行動できたのか。
彼女はアルタに不審がられなかった。
冒険者ギルドで目を離した時、一瞬で見失ったのもそれのおかげというわけか?
でも……俺がいるせいでその手は使えない。
これからどうするかが悩みどころだ。
「ひとまず並びましょう。
様子を伺って、それから考える」
そんな行き当たりばったりな。
「……レイネって、実は直感型か?」
「さあ。あなたが現れてからは、ずっとこんな感じね」
それは悪いことをした。
俺もできることなら、入国に貢献したいが――
「そうだ! 俺の偽装で解決するってのはどうだ」
「……できるの?」
「やってみよう」
今の俺たちの馬車は、ボロついていて小型だ。
それを違和感なく改装し、商人っぽく振る舞えばなんとかなるんじゃないだろうか。
商人であるために、怪しまれない要素はなにか。
馬車の外観と売る商品等の荷物。
あとは、商会の札とか?
「なあ、この世界で有名な商会の名前ってわかる?」
「えっと……最近はセレス商会かしら」
「よし」
試すだけならタダだ。
失敗しても体調は悪くならないし、支障はない。
俺は馬車の荷台に手を置いた。
イメージしろ。
こういう時は、大体イメージが大事になる。
そうだ。例えば、GKOで見たあんな感じの――
「〈偽装〉、商人の馬車!」
精一杯の想像力を働かせた。
俺の声に呼応し、黒い霧が姿を現す。
馬車は黒い霧に包まれる。
いつもより多い、倍近くの霧だ。
それは10秒ほどでやっと晴れ、偽装が完成した。
「どうよこの出来! 審査を!」
「……すごいわ、本当にそれらしいものになった」
まさに中堅商会の馬車といえよう。
小型から中型の大きさに。馬車に放り乗せられてあった空の袋たちは、すべて中身が膨らんでいる。
極めつけはこの、『セレス商会』と刻まれたキラキラの札だ。
俺は馬車に乗り込んで、袋を確認する。
「どれどれ。……中身は何も入ってない。外からはあるように見えるのに」
ハッタリもハッタリだった。
袋が膨らんでいるのは空気のようなもの。
ただそう見せかけているだけ。
「これでいってみよう。上手く乗り切れるかはわからないけど」
偽装は一定時間で解除されると考えている。
込めた魔力量がどれほどなのか。
それは俺にも把握することはできない。
しかし。
俺の偽装が見せかけを作る能力なら、オーバーキャスターはどういうことだ?
本物と相違ない力を引き出せているが……。
「アメハルの偽装を信じるわ。もしバレても逃げればいい、侵入する方法を探しましょう」
「そうならないことを願おうか」
俺たちはアスタフィアの村から来た商人だ。
その心構えで、帝国の門に向かうことにした。
カルヴェルム帝国からの、最初の試練だ。




