15話「白騎士もどき」
すごいな。
この光景はなんだ?
宿屋の外に出ると、気味の悪い声で溢れ返っていた。
まさにウォーキングデッド。
村人全員がゾンビになっている。
異世界というのは、割となんでもありらしい。
「あー、ごほん。この中にまだ生きてるよってかたー!」
俺を一斉に見るゾンビたち。
一応の確認だ。
生存者がいたら保護しないとな。
「全員人間って感じはしない、と。」
とりあえず斬ってみるか。
俺は提げた剣をもう一度構えようとして――
「貴様ァ!」
「ん?」
上から声がした。
なんだなんだと後ろを見上げてみる。
宿屋の屋根の上だ。
見覚えがあるような男が、怒鳴り顔で立っていた。
「あぁ……門番にいた奴か」
「俺の肉人形を躊躇なく壊しやがって! 人の心がないのか、ええ!?」
男はやかましく吠える。
俺たちを、笑顔でこの村に引き入れてくれた男。
ただし善意ではないだろう。
あの言い振りと、背中に生えた翼がそれを証明していた。
「お前がこんな趣味の悪いことを?」
「ふん、そうとも! 俺が変えてやったんだ、吸血鬼の忠実な手足になあ!」
コイツも吸血鬼か。
彼は口の牙を見せながら下品に笑う。
宿屋の周りはゾンビだらけだ。
全員が例外なく武器を持っている様は、なんとも言い難い。
「あっそう。よくもまあ俺に人の心を説いたもんだ」
とにかく、アイツを倒せばゲームクリア。
余裕をかましている今がチャンスだ。
「さあお前たち! 俺に食事を貢ぐため、そいつを」
吸血鬼が何か言う前に、俺は地を蹴った。
急速に距離が縮まる。
剣が当たる間合いまで跳べた。
剣を片手で勢いよく、振り抜く。
「なっ!? ぐ――」
吸血鬼は反応が遅れて、動きが鈍い。
だがすんでのところで避けられた。
俺の剣は木の屋根を叩いてしまう。
「俺を襲わせるには鈍足すぎるぜ? いちいち待ってなんかられないって」
空中に逃げた吸血鬼。
その臆病さを笑ってやった。
吸血鬼はおちょくられて怒ったのか、顔が歪む。
「す、すでに魔法を使っていたのか?
それよりお前はなんだ、あの黒髪のガキはどこに――」
全身白色の俺。
曇雨晴が同一人物だと思うのは、無理があるだろうな。
だからその前の質問に答えてやる。
「俺はオーバーキャスターだ。
実はちょっと寝不足でさ、さっさと終わらせて休みたいんだ」
「人間の分際でよくも、そんな」
「ほら降りてこいよ。経験値の足しにしてやる」
指をクイクイとして挑発した。
わかりやすい挑発に乗ってくるだろうか?
「望み通り、殺してやる!」
簡単に乗ってきた。
いよいよ我慢できなくなったらしい。
吸血鬼は俺の方へ急降下してくる。
単純な落下攻撃だ。
俺はひょいと躱す。
がら空きになった吸血鬼の背中を蹴り飛ばした。
「がぁっ!?」
吸血鬼が無様に地面へダイブした。
この世界の魔物……と言っていいのだろうか。
確かに動きは速い。
だが、脅威にすらならない。
俺は屋根から降りて、手首を回す。
これから行なうのはテストだ。
身体能力の他、GKOでできたことができるのかを試したくてたまらない。
自分の性能を知る。
知らないことを確認する。
この偽装という謎能力には、説明書がない。
だから吸血鬼に、カカシになってもらおう。
「手始めに――メニューウィンドウ、オープン」
俺は約3年、ほぼ毎日口にしていた言葉を紡いだ。
しかし、おなじみのメニュー画面は出なかった。
流石に、この世界に適応はしていないらしい。
「出ないか。それなら、クイックチェンジ。
……これも無理?」
反応なし。
武器が入れ替わる予兆はない。
システムは軒並みダメだな。
「お前ら! そいつを殺せッ!」
吸血鬼が叫ぶ。
すると、周りのゾンビが反応した。
俺を囲うようにして、ゾンビたちは走り出す。
「ということは……持ってこれたのは身体能力だけ?」
ゾンビたちをあしらいながら考える。
身体能力の項目。
主にパワー、スピード、ディフェンス、そしてスタミナ。
この場でそれらの数値を見ることはできない。
直接動かして、実感するしかない。
俺は一番近くのゾンビに近づいた。
拳を握る。
限りなく、全力に近いパンチを喰らわせた。
ゾンビは吹っ飛んだ。
うめき声をあげる暇もなく、簡単に。
「パワーは上々。お次は、スピードッ!」
迫り来るゾンビたち。
俺はそのわずかな隙間を潜ってみせる。
剣が舞う。
針に糸を通すかのようなステップを刻む。
短い距離での切り返し。
スタミナが健在であることを教えてくれた。
「調子に乗るな人間が――!」
吸血鬼が接近してきた。
鋭く尖った手刀。
高速で俺に放ってくる。
「おっと危ない」
俺は上体を反らした。
体操でもするかのような、なめらかさだ。
吸血鬼の手刀は綺麗に命中しない。
「ごほぉ!?」
俺の足が上に向いた。
その過程で、吸血鬼の顎に強打してしまったようだ。
不可抗力なので大目にみてほしい。
「よ、よくも〜ッ!!」
吸血鬼は顎を蹴り上げられて憤慨した。
彼の少し体が浮いている。
お構いなしだ。
続けて、渾身の回し蹴りを披露しようとして――
「……っ!」
俺は吹っ飛ばれた。
どこからきた?
横からの突然の攻撃だった。
瞬時にガードしたから、大した怪我はしていない。
見事に村の民家の壁を突き破ったな。
ダイナミック入宅といったところか。
家の持ち主には心からの謝罪を送ろう。
俺は体を起こして、吸血鬼の方を見る。
「はーっははは! 怒らせたな、この俺を。夜の支配者たる吸血鬼を!」
吸血鬼の腕は変容し、巨大化していた。
なぜか大声で笑っている。
なるほど。
あれに殴られたのか。
でもこれで、ディフェンスも確認できたな。
「スキルが使えないのは残念だけど、ステータスはレベルマックス同然。それで十分」
支障はない。
「あとは偽装ってやつを試すだけだな」
俺に宿った契術。
仮に、名前は偽装としておこう。
能力の予想を立てる。
おそらくだが、偽装は頭に思い描いた人物を、そのまま自己へ投影する力なんだ。
オーバーキャスターは偽物だ。
電子の中にしか存在していないからな。
この現実でなれるわけがない。
それを、ここまで忠実に再現できている。
どこが偽装なのかは疑問だな。
考えられるのは、「偽物を装備する」という意味だ。
本来の意味は少し違った気がする。
でもまあ、些細なことだろう。
頭がクリアになったせいか?
思考が上手く回っていくぞ。
「悪魔の契術……どれほどのものか見せてもらおうか」
ワクワクする。
自然と笑ってしまうほどだ。
ゲームはするだけ無駄。
昔、誰かがそう言っていた。
実に耳障りなことだ。
人生に無駄なことなど何一つない。
全人類に言ってまわりたい。
それほど俺は、今喜びの極致にいる。
どこのどいつがこの力を授けたのかは知らない。
思う存分、契術の恩恵に与ろうじゃないか。




