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13話「狩りがはじまる」


 爆発。


 テレビで見たことがある。

 戦隊モノがポーズを決めると、後ろで爆薬が起動するんだ。

 これも同じだ。

 俺が開けたから、作動したんだ。



 木造の宿屋に激震が走る。

 俺は爆発の余波に吹き飛ばされた。


 痛い。

 床に転がり、体のあちこちをぶつける。


 焦げ臭い火花。

 立ちこめる煙。

 ぼろぼろと落ちる木屑の音がする。


「いって……」


 幸い、生きている。

 爆発に直接巻き込まれたわけじゃなかった。


 確か、レイネが俺を押してくれて――


「レ、レイネ……だいじょぶか……」


 俺の喉から掠れた声が出た。

 上手く大声が出せない。

 レイネは無事なのか!?

 倒れたまま、爆発が起きた方を見上げた。


 宿屋の壁が木っ端微塵にされていた。

 外から丸見えの穴が出来上がっている。

 

 夜風がダイレクトに入ってきて、俺の意識をはっきりとさせてくれる。

 

 あのまま、あれが俺の手の上だったら――。

 想像したらゾッとする。


「大丈夫!?」


「あ、ああ」


 レイネが駆け寄ってきた。

 床に転がったものの、おかげで勢いを殺すことができたんだ。

 俺、逆に心配されて情けないな……。

 

「咄嗟にあれを投げてくれて、助かったよ」


「まったくだわ、硬まってる暇があったら動きなさい。危うく死ぬところだったのよ?」


「うっ……ごめんなさい」


 ぐうの音もでない。


 レイネが包み紙を素早く掴み、壁の方へ投げ捨てたのだ。

 おかげで、爆風に吹き飛ばされるだけで済んだ。


 彼女も怪我をしていないようだ。

 俺を庇うように爆発から守ってくれた気がしたのだが、かすり傷しかないようでよかった。


 しかし、目下で考えるべきことがある。

 

「なんで爆発なんか……」


「――おや、声がするということは、死んでいませんね?」


 声が響いた。

 理解できずにいる頭に直撃してきた。

 次から次へと、休む時間をくれよッ!


 爆発で風穴を開けられた壁。

 俺たちはその向こう側を見た。

 何者かが、月光を浴びてそこにいる。


「あ、あんたは!」


 宿屋の受付にいた、おじさん。

 彼が声の持ち主だった。

 だが様子が違う。

 背中に黒い翼を生やし、宙に浮いている。


 にやにやと不気味に笑うおじさん。


「せっかく二度と目覚めない眠りにつくことができたのに、そちらのお嬢さんの勘がよかったのかな?」


「調合された魔力がダダ漏れ。

 よほどのバカじゃない限り警戒するに決まってるわ」


「マジかよ……」


 迂闊だった。

 まさか罠とは思わなかった!

 初対面の奴に知らないものは貰わない方がいい。

 寝不足とはいえ、こんな当たり前を忘れていたなんて!


「ちょうどこの村の在庫が尽きてね、君たちには今夜の食事になってもらう予定だった。

 楽に血を吸えると思って期待したが、何事も簡単にはいかないねぇ」


「なんだそれ、吸血鬼のつもりか?」


「ご名答」


 え、本当に吸血鬼?


 おじさんの顔の形がボコボコと変形する。

 もはやおじさんではない。

 別の誰かが、その正体を現す。


「そう、我らは吸血鬼。

 宴の贄として、血を垂らしながら死ね!」


 おじさん改め、吸血鬼。

 容姿が若返って、歯が牙と呼べるものに変わっていた。

 彼は狂気の笑みを浮かべた。


 同時に、羽ばたいた。

 翼を広げて、こっちへ一直線に襲ってくる!


「さあどちらからいただこうかぁ!」


 やばいぞこれは。

 突っ込んでくるぞどうすれば!?

 

「ちょっとどいてッ、《ヴェルト・サンダー》!」


 動けずにいた俺の前に、レイネが立つ。

 彼女は2本の短剣をクロスさせた。

 勇猛果敢にも、吸血鬼を迎え撃った。


「ぬおっ!? この小娘が!」


「はあッ!」


 赤い雷を纏ったレイネ。

 宿屋の壁から、勢いよく飛び出した。

 砕けた木片と埃が舞う中、彼女はそのまま吸血鬼と鍔迫り合いになる。


 力の押し合いだ。

 レイネと吸血鬼は村の奥へ消えていき、すぐに見えなくなってしまった。


「……レイネ1人で大丈夫なのか?

 いや、彼女も疲れてるはずだ! た、助けにいかなきゃ」


 棒立ちしてる場合じゃない。

 レイネに迷惑かけたままじゃダメだ。

 少しでも恩を返す。


 あの力を使うか?

 でも、危険かもしれないって話だし――


「ん?」


 ふと、物音がした。

 廊下の方からか?

 派手に爆発したから、他の宿泊客が見に来て……?


「ず……ゔぁぁ……」


 最初は人間だと思った。

 でも違った。

 部屋に入ってきたそれは、生きている人間の動きをしていなかった。


 人の形をしている何かだ。

 歩き方、呼吸、視線。

 どれも正常ではないことがすぐにわかった。

 

 体が崩れていて歩みは遅い。

 人の名残として服と防具、その手には武器を持っていた。


 ああ、これゾンビだ!!


「冗談じゃないぞこれは!」


 パニック映画の中に迷い込んだのか?

 次々と似たような奴らが、部屋に雪崩れ込んでくる。


「やばいやばい! 銃なんてないのに!」


 奴らの動きはゆっくりだ。

 それでも、確実に後ろへ追いやられている。

 このままでは風穴の空いた壁に落ちるぞ……!


「そ、そうだ、魔法! 出ろ、アルマ・ファイア!」


 俺は魔法を唱えた。

 出ない。

 

 出る気配すら感じられないのは、なんとも虚しい。

 魔力がある今ならできると思ったのに!


「ぐ、クソッ、来るな! どうすれば――」


 やっぱり、あれしかないのか……?

 

 アスタフィア王国から何時間経った?

 レイネは俺が魔力切れと言っていた。

 魔力ってのは、こんな短時間で回復するものなのか?


「できてくれ、やれなきゃ終わりだ。

 頼むできてくれ、頼む……!」


 早口で祈った。

 やらないと詰む。

 体調は元気なんだ、きっと大丈夫。


 悪魔との契約。

 それを契術というのだそう。

 物騒な代物だ。

 でも、迷っている暇なんかない。


 一番近くに寄ってきた、仮称ゾンビ。

 持っていた剣が振りかざされる。

 

 俺の首めがけて、薙いできた。


「〈偽装〉……オーバーキャスターッ!」


 剣が届くよりも前に、信じて叫んだ。


 ――できた。

 

 全身に力が漲るのを感じる。

 黒いモヤが晴れるよりも、速く動き出した。


 ゾンビの剣を躱す。

 その腕を乱雑に掴んだ。

 俺はすかさず、右腕を正拳突きのように繰り出した。


「どけ」


 鈍い感触。

 手の甲がゾンビの腹にぶち込まれる。

 ゾンビは苦しみのようなうめきをあげ、仲間もろとも宿屋の廊下に吹っ飛んだ。


「ったく、いい加減休ませろっての」


 無事変身は完了した。

 これからどうするべきか。

 仮に、この変身に時間制限があるのなら、下手に動かない方がいい。


「確かあの吸血鬼、「我ら」とか言ってたな。

 このゾンビ操ってる奴が別にいんのか?」


 種族的な意味か。

 それとも他に仲間がいるのか。

 この村に隠れている場合、いちいち走り回って探すのは面倒だな。


「コイツら片っ端から倒せば勝手に出てくるんじゃないか? ハッ、じゃあ暴れるか。そうするぜ!」


 俺は腰から剣を抜く。

 ゾンビたちに向かって走った。

 部屋を出て通り様に、斬り刻む。

 次から次にターゲットを変えて狩る。

 

 奴らは遅い。

 よくこれで俺を殺ろうとしたものだ。


 量じゃ圧倒的な質に敵うはずがない。

 それを今から証明しよう。


「経験値がいっぱいだなァ!?

 そら、早く出てこないとテメェの手持ちがなくなっちまうぜ、吸血鬼野郎!」


 輩みたいに笑いながら戦った。

 こんなこと、今まであっただろうか。

 

 やけに気分がいいのだから、仕方のないことだ。

 

 レイネは……多分大丈夫だろう。

 俺は俺として、レベル上げに専念しよう。


 狭い建物の中で、向かってくるゾンビたちを躊躇なく倒していった。


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