11話「同じ部屋でいいんですか!?」
しばらく山道を歩いた。
ついに、森から開けた場所に出れた。
「ちょ、ちょっと……置いてかないで……」
運動不足が仇になった。
おまけに寝不足で精神的疲労。
ここまで来れた、そんな自分を褒めよう。
レイネは前で立ち止まっていた。
ようやく彼女に追いついたぞ。
体調は回復してきた。
だがそれよりも、道が険しくて普通に息切れする。
俺を見て、レイネはため息をついた。
「あら、白い彼はあんなに強かったのに。
アメハルはすごくだらしがないのね」
「う、うるさいな。これでも全力なんだよ」
正直、もう一回変身してやろうか悩んだ。
ダサい気がするのでこれは隠すけど。
「それよりも、ほら」
レイネは指を差す。
その先には、明かりの灯る集落があった。
小規模だが、明らかに人が住む村だ!
「今夜はあそこで身を隠すしかないわ。
追手が来ないうちに早くいきましょう」
「……追手に、見つかったときは?」
「戦うだけよ。そうならないよう祈ることね」
んな無茶な……。
レイネは村へ続く坂道を下っていった。
ここがアスタフィア王国から、どれくらい離れているのかわからない。
すぐには追いつける距離にもいない。
追手だって、俺たちがどこにいるかわからないはずだ。
「……っ!」
得体の知れない獣の遠吠えが聞こえてきた。
何かが羽ばたいた音もする。
後ろを振り返ると、真っ暗闇の森がこんばんは。
「ま、魔物とか平気でいそうだな。異世界だし」
いつ何が飛び出してもおかしくない。
そんな気がする。
俺は急ぐように坂を下った。
「ええ、なので一晩だけ泊めていただきたく……」
「なるほど。そういうことなら歓迎しよう」
「ありがとうございます」
レイネは村の前で、門番らしき人物と先に話をしていた。
丁寧な口調と柔らかい声。
さっきまでの彼女はどこへ行ったのか。
「そちらの少年も?」
「はい、魔物退治の依頼に苦戦しまして。
あのように疲労困憊なのですよ」
魔物退治?
それっぽい理由を捲し立てているな。
「それはそれは。
さあどうぞ中へ、今夜は村の宿屋に泊まるといい」
案外、すんなりと村の門を開けてくれた。
もっと警戒されると思っていたが、安心した。
俺は軽くお辞儀をして、レイネと村に入る。
おお。
村の中は篝火で照らされていて、暗くはない。
森と比べての話だが、安心感というものが違うな。
村人は、数人出歩いているのが見える。
俺たちには目もくれない。
旅人はそれほど珍しくもないのだろう。
「適当に理由をつけてしまったけれど、無事入れたわね」
「適当って……」
「早く宿に行きましょう。
今後の方針を決めないと」
レイネは平静な顔つきで、俺の前を進んでいく。
正直、苦手なタイプだ。
外見はすごく可愛らしい。
俺が出会ってきた異性の中では、彼女の容姿はトップクラスだ。
ただ、それと負けないくらい強気な内面。
どうしても心が萎縮してしまうのだ。
これも、面と向かって女子と話す機会が少なかった弊害か……。
「ここね」
レイネは一軒の建物の前で止まった。
建物の扉を開け、入っていく。
ここが、宿屋?
なんだか古臭いが、こういう文化を受け入れることも大切だろう。
俺は宿屋らしき建物へ足を踏み入れた。
「……いらっしゃい」
かろうじて聞き取れた。
ずいぶん覇気のない歓迎だな。
受付には、目元に隈ができたおじさんが立っていた。
黒ずんだ壁。
軋む床。
年季が入った宿屋らしいが……少し不気味だ。
「何名で」
「2人」
「部屋は2つでよろしいかな?」
「一部屋でお願いするわ」
「え!?」
流石に聞き流せなかった。
なにをスムーズに会話してるんだ!
今、一部屋と言ったのか?
「なによ?」
レイネは文句でもあるのかという目をして振り返った。
不意に殴られたかのような衝撃。
それはつまりこの美少女と俺が、一緒の空間で寝るということで?
その経験を今日ここで!?
「ど、どうして?」
「別にあなたと同じ部屋でも気にしないわ。
それに一部屋の方が安いし、何かあったとき動きやすいでしょう?」
いいんですか!?
願ってもない申し出だが……。
「それはそうだけど、こっちが気にするというか。俺、一応男ですよ?」
仮にも男子高校生だった者だ。
一般童貞に、いきなりその刺激は強いぞ。
多少の動揺と緊張は当たり前、だろう!?
俺のぎこちない様子に、レイネはジト目になった。
「なに? ……変な想像でもしたの?」
「い、いや!?」
図星です。
強く否定したが、逆に怪しかった。
断じて、その「変」とやらを期待しているわけではなく!
「ふん、安心なさい。
もしあなたがその気になっても……」
レイネは静かに笑った。
「容赦なく、燃えカスにするだけだから」
否、笑っていない。
声色と心が、明らかに。
「一部屋で」
「そうかい。奥の4号室だよ」
彼女はおじさんから鍵を受け取った。
スタスタと、無言で宿屋の階段を上がっていった。
「もえ、かす?」
こわい。
それに尽きる表現だった。
怒らせるとまずいタイプか。
こりゃ余計なことは言わないほうがいいぞ。
漫画のようなお約束は、妄想程度に控えるのが身の為だな。
「はぁ……」
身体、精神ともに疲れた。
俺はため息をつき、階段に向かおうとした。
「待ちなされ、お客さん」
「はい?」
突然、呼び止められた。
受付のおじさんだ。
こっちにおいでと手招きしている。
「ずいぶんとお疲れの様子。
これを差しあげましょう」
そう言って何かを差し出された。
これは……包み紙?
紐で硬く結ばれた、手のひらに収まるくらいのもの。
「えっと、これは?」
「安眠効果のある薬草ですよ」
「薬草?」
「これを火で焚いて置いておけば、今夜はぐっすりと眠ることができるかと」
「へぇ、そんなものが」
火で焚く。
お香みたいな、良い香りが出るのか?
この世界の嗜好品的なものらしい。
「もらっていいんですか?」
「ええ。宿屋のサービスなので、お気になさらず」
良いサービスだ。
ただより嬉しいものはない。
おじさんの所作は丁寧だった。
見た目や雰囲気だけで判断するのはよくなかった。
若干の抵抗はあったが、薬草の包み紙をもらった。
ジャージのポケットにそれを突っ込む。
……でも、やっぱり雰囲気は不気味だ。
「あ、ありがとうございます。
これで俺もぐっすりですね……はは」
精一杯の、目上に対する会話を試みる。
すると受付のおじさんは、薄ら笑いを浮かべた。
「ごゆっくり」
「は、はは」
もう耐えられない。
俺はそそくさと階段に向かった。
とはいえ、せっかくもらったし焚いてみよう。
なにせ今の俺には魔力がある。
小さな火ぐらい、自分の魔法で出してみせるとも。
「っと、部屋は……4号室だったか」
ギーギーと鳴る床。
階段から、4つ目の扉の前まで歩いていく。
壁に燭台がある。
照らしているのは僅かな範囲だけだ。
この細長い廊下を進むたびに、恐怖を煽ってくる。
「なんでこんなに暗いんだ。
明かりぐらいもっとつけてくれよ……!」
真っ当なクレームだろう。
いくらなんでも設備不足だ!
異世界はこれが常識なのか……?
ちなみに、俺はお化け屋敷には行かない派。
別にビビリなわけではない。
必要ないから行かないだけだ。何事も明るい方がいい。
目的地の部屋に着いた。
さっさと扉を開けて、4号室の敷居を跨いだ。




