表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/25

8話「偽装転身」


 夜の街の中心に、俺は悠然と立つ。

 

 心地いい。

 さっきまでの不調が嘘みたいだ。

 瀕死から快調へ、そんな劇的な変化を遂げたのだ。


「俺はオーバーキャスター。略さず呼べよ」


 偽装という言葉。

 それを口にしたとたん、状況は一変した。


 謎の声。

 突然生えた力。

 なぜ死ななかったのか。

 契約とは何か――


 気になるが今は置いておこう。

 目先の目標は、敵の打倒だ。

 新たにこしらえた姿で、アルタと対峙する。


「オーバーキャスター……?」


 アルタが困惑していた。


 無理もない。

 顔つきは似ているようで異なる。

 背丈も伸びている。

 髪色は黒から白へ反転した。

 筋肉だって、前より発達している。


「これなら戦える、今の俺は最強だ!」


 拳を握り締めた。

 両腕を上げ、この歓喜を解放する。

 この奮い立った昂りを、抑えられるはずがない。

 

 学校指定のジャージから、戦うための服装に。

 ボロついたマントもちゃんとある!

 

「なにが――」


 赤髪の女の子も、端っこで愕然としていた。

 

 大丈夫。

 コイツは俺がなんとかする。

 そう語りかけるような顔を向けてあげた。


 女の子はさらに困惑するようだった。


「話が違いますね。

 今、貴方から感じ取ったのは間違いなく魔力。

 まさか隠していたのですか?」


 アルタはそう言って剣を構えた。

 不愉快だ、そう言わんばかりの目をしている。


 魔力。

 あの、力が湧き上がるような感覚のことか?

 でも、そんなのはどうだっていい。

 

「俺にはわからない。

 この世界やお前たちの目的、俺の身に起こったことさえも」


 重要なのは、戦う力を手に入れたこと。

 この局面をなんとかする希望だ。

 だから言ってやる。これからすることを。


「だから、騎士アルタ。

 とりあえずお前を倒して、それから考えるよ」


 俺はアルタを指を差した。

 この宣言はハッタリなんかじゃない。

 それができる確信が今の俺にはある。


「……大きく出ましたね」

 

 不機嫌ながら笑みを浮かべたアルタ。

 彼女は、剣を前に突き出した。


「貴方が有力な人材だと証明できたのなら、処遇を変える検討をしていただけるかもしれませんよ」


「んー、それはいい。どうせまた裏切られ――」


 最後まで言い終わっていない。

 にも関わらず、アルタはこちらに迫っていた。

 曇雨晴には、認識できなかった速度だ。


 俺はアルタの剣を片手で止める。


「ッ!」

「ひどいな、話してる途中はなしだろ」


 身体能力も問題なし、と。

 掴んだ剣を離してやる。

 その一瞬の隙をつき、蹴りをお見舞いした。


 よし、動ける。

 

 本当にオーバーキャスターになっているんだ。


「ぐっ、今のは……魔力が込められていない?

 純粋なパワーでこれを?」


 アルタは勢いよく後退した。

 彼女は体勢を整え直し、地面を軽く踏みしめている。


「《ヴェルト・シャイン》」


 どんなに速かろうが、今なら追える。

 

 光を帯びたアルタが突っ込んできた。

 それを難なく躱せてしまうほどには、余裕だ。


「本当にッ、先ほどとは別人ですねッ!」


 アルタは俺の後ろにまわる。

 そして、驚異的なジャンプ力で上へ跳んだ。


「《エルダ・シャイン・ホークス》!」


 カッと空が光った。


 まるで流星群だな。

 鳥の形をした光弾が、無数に落ちてきているのが見えた。

 当たればひとたまりもない。

 

 であれば、あれらをすべて避けるだけだ。

 地面を蹴って、走り抜ける。

 降ってくる光の雨を、当たる寸前で躱していく。


「おっ」


 移動していたその先に、アルタが待ち構えていた。


 光弾が破裂した土煙の中だ。

 まだ空中にいたはずじゃ?

 猛スピードで先回りとは恐れ入った。


「《ヴェルト・シャイン》」


 薙ぐように放たれた、極光の刃。

 俺を斬ったときと同じ軌道だ。

 だが速度が増している。

 おそらく威力も。


 だが見える。

 動きを合わせられる。

 二度、同じ目に合うつもりはない。


「――驚きました、これを防ぐとは」

 

 タイミングよく剣をぶつけた。

 彼女の剣の勢いを相殺する。


「驚くなかれ、初期装備は絶対に壊れない!」


 この剣は、サービスと同時に配られた剣だ。

 故に良心設計。

 破壊不能武器として、プレイヤーたちに好評だった。


 内心ハラハラはした。

 果たして、その性能のままなのかと。

 想定通りで助かった。

 

 アルタの剣の重み。

 それがズシンと体に響いた。

 若干腕がぷるぷるする程度で、本当によかった。

 

「私の剣を、そんな質素な剣で耐えるとは……」


「GKOは親切なゲームなんだ。

 ルーキーに配られる武器の耐久度は無限なのさ」


 運営万歳。

 どうしてサービス終了したんだ運営。


「ふふ……何を言っているのかわかりません」


 身体能力は上々。

 武器も設定通りとは。

 これが偽装? 本物そのものじゃあないか!


 このまま、俺のペースに持ち込んでやる。


「性格、変わりましたか?

 あの弱腰の情けない貴方は、どこへ行ったのですか?」


「これが俺だからな」

 

「その自信に満ちた態度を、崩したくてたまらない」

 

「なに――」


 剣が、重く……!?

 

 片手で余裕を見せていた。

 それを両手に持ち変えて、支えるほどまでに俺が押されている?


「私は星国を守護する1人の騎士。

 ゆえに、それ相応の力を持たなければならない」


 まずい。

 押し負けそうだ。

 

 アルタの体に帯びている光。

 それがだんだんと強くなっていってる気がする。

 

「私の魔力総量をみたでしょう。

 全力でも、2時間の戦闘継続は可能です。たっぷりとお相手して差し上げます」

 

 キラキラと輝いている。

 あれはアルタの魔力というやつか?

 なんて威圧感と神々しさ。


「いいぜ……望むところだ」


 啖呵をきった手前、ビビるわけには――


「はっ!? はいっ、主様ッ!」


「あ?」


 ふっと軽くなった。

 剣にかかっていた重みが消えた。

 アルタの輝いていた光も、急激に弱くなって……。


 彼女は、空を見上げて笑った。


「はい、はい。それは……はい、承知しました」


 誰かと、話している?

 アルタはどこかと交信するように、こめかみを押さえている。

 俺との戦いを放置して。


 アルタは、剣を下ろした。


「主様はこうおっしゃいました。

 『クモリ・アメハルを生け捕りにしろ』と」


「はあ?」


 俺の方に向き直って、そう言った。

 

「つまり、評価が逆転したということ。

 おめでとうございます。貴方はフェイルノート様に認められたのです!」


「バカにしてんのか?」


 俺の口角がピクリと動いた。

 おかしさではない。

 苛立ちからだ。

 

 絶対剣は下ろしちゃダメだ。

 油断もするな。

 曇雨晴のように、考えなしで動くのもやめろ。


「認められて、なんだって?」


「今後の召喚実験のために、生かしてくださるとのこと。

 喜ばしいことです、手足は取られても少しは長生きできるかと」


「上等だよ。なぁにが騎士だ、悪党め」


 はっきりしたのはいいことだ。

 気兼ねなく、本気で武器を向けられるというもの。

 絶対後悔させてやる。


「じゃ、今度はこっちからいかせてもらおうか。

 遠慮なくぶちのめして――」


 前へ飛び出そうとした。


 その時、強い力によって後ろへ引っ張られた。


「ぐうぇっ!?」


 だ、誰かに服の襟を掴まれている!

 いや、すぐにその手を離したぞ!?


「どわッ!」


 体が浮く。

 俺はびたーん!と、地面に墜落した。

 気づくと、路地裏の入り口だった。

 

「いって……なにすん――」


 上を見上げると同時だ。

 俺の手首がガシッと掴まれた。


「立って、逃げるよっ!」


「あぁ!? って、いたなぁそういえば」


 謎の赤髪美少女じゃないか。

 自分のことに手一杯で忘れていた。


 さっき脱いだ黒いローブをまた着ていた。

 掴まれた俺の手首を引っ張ってくる。

 こっちにくるようにと促してきた。

 

「てっきりもう帰ったのかと」


「ずっといたわよ。それより、この国を出るわ。あなた正気なんでしょう?」


 正気?

 あぁ、そうだ。

 剣を持ち直し、その場を立ち上がる。


「いや、俺は戦わないと。

 まだボス倒せてないしな」


「私と一緒にきて。逃げる方法が…………え?」


 負けたままなんだ。

 これじゃあ気はおさまらない。

 離れてしまったアルタの方へ、俺は歩こうとした。

 

「また逃げるつもりですか? 私としては、穏便に済ませたいのですが」


 どの口が言っているんだ。

 と、言おうとしたところで、何か音が聞こえてくる。


 これは、足音?

 それも一つじゃない、たくさんだ。

 大通りの奥を見てみると――


「あれは……」


 人が集まってきていた。

 あれは、アスタフィア王国の住民たちか?

 続々と、アルタの周りに集まってくる。

 

 みな、生気を吸い取られたような顔をしていた。


「さあ皆さん、彼らを捕まえましょう。主様が褒めてくださいますよ」


 アルタのその言葉が合図になった。

 集団が一斉に動き出す。

 全員が武器を持ち、無表情でこっちに走ってきた!


「私に、ついてきて」


「でもこのまま逃げちゃ、格好がつかない。ただでさえひどい目にあったのに――」


「格好!? それなら私カッコ悪すぎてしぬわ!

 とにかく今は、ここを離れるべきよ!」


 赤髪の女の子は声を張り上げた。

 体を翻し、路地裏に走っていく。

 

 彼女を追うべきか?

 そもそも信用してもいいのか?


 この姿でまた敗走するわけには――


「ああクソッ、おぼえとけ!!」


 考えている暇はなかった。

 

 屈辱だ。

 いつか必ずこの決着をつけてやる。

 心の中でそう誓った。

 

 俺は多勢の敵に背を向け、少女の後を追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ