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プロローグ「仮想・前」

 俺がゲームをする理由は何だ。


 娯楽だから? 違う。

 楽しいから? 違う。

 ストレス発散? 違う。

 目標の達成? 違う。


 すべては使命感からだ。

 もしくは、ある執念に取り憑かれたからかもしれない。



 だって俺は、偽者だから。


 

 オーバーキャスター。


 長くて呼びづらい、名前らしからぬ名前だ。

 変更不可が災いしたせいで、これが名前なのだ。

 略すとダサくなるのでフルネームが好ましい。


 顔はあどけなさがある。

 それでいて、さわやかな印象。

 

 特技は剣術。敵の攻撃を読むこと。

 回避とかカウンターが好きな戦闘スタイル。

 少しでもHPゲージが減ると、どうしても気になってしまう性格で――


「大丈夫だ、俺は強い」


 自己暗示。

 心を落ち着かせる試みだ。


 サラサラの白髪。

 白を基調とした装備。

 暗い場所でもよく映えるだろう。

 

 あとは、はためく破れかけのマント。

 我ながらそのアンバランスさが良い。


 これが俺の、ここでの姿だ。


「暗いな」


 灰にまみれた漆黒の城。

 俺は今、その最上層にいる。


 見上げると、果てしない暗闇が広がっていた。

 おまけにこの黒い橋は、少し視界が悪い。

 

 周りに人の気配はない。

 俺は静寂の中を、ただ歩いていく。


「ん?」

 

 そんな中、ピコンという電子音が鳴った。


「メニューウィンドウ、オープン」


 チャット欄を見る。

 数件の通知があった。

 きっと、途中で脱落してしまった仲間たちからだ。

 

 メッセージを開くと、一斉にお出迎えされた。

 謝罪と励まし、応援や期待。


 各々が自分の気持ちを、俺に送ってくれている。


『よろしく頼むよ。オバキャスさん』


 イラッときた。

 オバキャスって略すのはタブーだぞ。

 

 と、つっこみたい欲を堪えた。

 メニューを操作して文字を打つ。


『任せろ』


 これがいいだろう。


 簡潔だが、精一杯の意気込みだ。

 その一言だけを残して、俺はチャット欄を閉じた。

 

 負ける気なんてない。

 たとえ1人だけでもな。

 ここにたどり着くまで、相当な時間がかかった。


 このゲームのサービス終了まで、残り1時間。

 もう一度挑戦する時間は……おそらくない。


「これがラストチャンス、か。しかもソロとはな」


 だからこそ無駄にしたくない。

 今までの苦労を噛みしめて、最後の戦場へ向かう。

 

 橋の先端まで辿りついた。

 黒い門の前だ。


 俺はここで、一度立ち止まる。


「あれ……だな」


 目を細めて、橋の向こうを見た。


 巨大な円形の広間。

 ただ黒く、なめらかで平らな床がそこに浮かんでいる。

 注目すべきは、中央に置かれた玉座だろう。


 鎧を身につけた『なにか』が座っている。

 巨体で厳つい体躯、人形のなにか。


「ここに足を踏み入れたら、アレが動き出すのか? 事前準備ができるだけ優しいね」


 俺は慣れた手つきで、再びメニューウィンドウを動かした。


 目の前には多くのスキル欄が並んでいる。

 それを順に、素早く発動させていった。


 パワーにスピード、体力上限アップ。

 加えて、感覚サポートや防御力も大幅強化だ。


 これだよ、これ!

 力が湧き上がるこの感覚は、毎度癖になる。


 体の限界のタガを、1つずつ外していく感じだ。

 

「もう最後なんだ。大盤振る舞いといこう」


 さらにダメ押しだ。


 使い切りのレアアイテム。

 これを消費してシメとする。

 勿体無くて、使い所を見失っていたから助かった。


 これで準備完了。

 全てのステータスが大幅に上昇したはずだ。

 

 今までにないバフ量じゃないか?

 体の内からアドレナリンが溢れ出るのがわかる。

 これなら、なんでも成せる気がするぞ。

 

 アイテムのバフ継続時間は短い。

 効果が切れる前に、ダンジョンをクリアする必要がある。


 もう、始めなくては。


「――いける」


 橋と広間の境目。


 俺は一歩、その先へと踏み出した。


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