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赤い糸を夢見た  作者: 咲間十重
第7章 今日の佳き日に

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第77話 共にゆく先


 馬車の扉が開かれるのと同時に、喧騒に包まれた。エルカリオ教会の周辺には多くの人たちが集まっていた。もっとも、それは祝福のためではない。


「結婚反対!」

「リッシュグリーデンドとの同盟を許すな!」

「魔王が国にやって来るなんて……!」

「この世の破滅だ!」


 叫ぶような言葉は、この結婚への明確な反対であり拒否だった。

 会場となるエルカリオ教会には、招待客しか入ることはできない。それゆえに、外側から反対を叫ぶために集まったのが今ここにいる人たちなのだろう。


 教会へ突進してくるようなことがないよう、衛兵たちが距離を取らせてはいるものの、明確に排除することもない。ここで弾圧すればさらなる反発を招くという判断か、反対する心情への理解からなのか。


 明確な理由は不明でも、排除されることがないとわかっているからだろう。集まった群衆たちは、声高に「結婚反対!」と叫んでいる。

 さらに、いくつか新聞社も来ているようで「号外! 魔族一団の姿だ!」「こっちは魔王を描いてるぞ!」という声が響く。会談の様子は新聞社の取材が入っている。その威容を絵にして、号外として配ったのだろう。


 案の定、魔族一行の姿は人々に強い印象を与えていた。

「なんて恐ろしい!」「神さまが守ってくれる!」「教会に閉じ込めてるから大丈夫だ!」という声は切実で、畏怖がにじんでいた。


 それらすべての喧騒を無視して、リファイアードが馬車から降りる。

 ロルブルーミアは差し出された手を取り、続いて馬車から外へ降り立った。青い空は高く晴れ渡り、空気は澄み切っていた。


 正門から教会までの道は、美しい芝生と、丁寧に刈り込まれた樹木、白い雛菊の咲く花壇に囲まれている。

 さらに、道沿いには儀礼用の軍服に身を包んだ衛兵たちが直立不動で立つ。その間を進んだ先にあるのが、荘厳な姿をしたエルカリオ教会だ。


 高い尖塔と色硝子の薔薇窓が有名な、石造りの教会である。そびえたつような外観は圧倒的で、柱や壁の一つ一つに、細部まで凝った複雑な装飾が施されている。

 太陽の光を浴びて立つ姿は、荘厳さと格式を兼ね備えていた。


 喧騒など耳に入らない態度で庭を過ぎ、教会前の大階段に辿り着く。

 赤い絨毯が敷かれており、両脇には楽団が控えている。二人が一歩階段へ踏み出した途端、高らかに音楽が響き渡る。教会を取り囲む群衆の喧騒が遠ざかった。


 一段ずつ踏みしめながら、二人は手を取り合って進んだ。

 ここへ至るまでの道のりで、この結婚が祝福されず、望まれないことをつくづく思い知らされた。

 国民からの祝福が送られることはなく、教会の周りには反対派が集まっている。群衆を押しとどめる衛兵も、結婚式に参列する貴族も王族も、本心から賛成しているわけではないだろう。

 この結婚を望むのは父親たちだけで、それもあくまで国の利益を考えてのことだ。


 二人の結婚にどんな意味があるのか。

 わかるのは数十年先のことかもしれない。二人が生きている間に成果が出るとは限らない。

 ただ憎まれ、恐れられて終わってしまうかもしれない。将来につながるための、道具であり駒であることは違いなかった。

 それでもいい、と思っていることをお互い知っていた。

 世界で一番大事な存在の役に立てるなら。誰より愛して大事にしてくれた人の願いを叶えられるなら、それでだけで充分だった。


 華やかな音楽を背景に、二人は大階段を昇っていく。手を取り合って、同じ未来を見つめながら。抱く気持ちは同じだと、疑いなく思いながら。


 この結婚に愛は必要なかった。たとえどんな相手だろうと、父の望みを叶えるために結婚するのだと決めていた。

 しかし、大事にできる人と出会えたのだ。多くの幸運が重なって、誰より近くにいる、同じように大事なものを知っている人と出会えたのだ。


 だからきっと大丈夫だと、二人は確信している。

 だって一番大事なものはお互いではないと、二人は理解しあっている。一番大切なものはあなたではないと、お互いにわかっている。

 だからきっと、この関係は恋ではないし、運命の赤い糸だって二人の間には結ばれていないけれど。それでも、お互いの手を取って歩いていくことはできるのだと、心から思っていた。


 音楽は次第に盛り上がり、青空に華々しく輝くようだ。それと呼応するように、二人の足は進む。

 最上段まで辿り着いたところで、楽団が今までで一番の音を奏でた。立ち止まった二人は、真っ直ぐ前を見つめた。


 大階段の最上段から続くのは、重厚な教会の扉。オーレオン王国を開いた始祖とそれを助けた聖人や、燦然と輝く日輪、威厳ある獅子の姿などが精巧に彫られている。

 深呼吸をして扉を見つめている。扉が開いて、中へ踏み入れば結婚式が始まるのだ。

 取り合った手に力を込めて立っていると、教会の扉が開かれていく。


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